幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

楽園の裏側3

「——本日の議題は以上となります。お疲れ様でした。では、ここからは月間MVPの選定に関わる報告に移りたいと思います」

日本の某所に存在する、とあるビル。

その最上階のフロアに設けられた会議室で、一人の男が声を発した。

仕立ての良いスーツに身を包んでいる、この男は、このビルを所有する会社の社長だ。

今日も相変わらず、変態ロリコンどものブレーキ役として、会議の司会・進行を務めている。

「さてさて、事前の通達で、今日は例の新しい少女と、その仲間の少女の活躍が見られると聞いたが……」

「うふふっ。添付されていた画像を拝見しましたけど可愛らしい少女でしたわね。内気そうで、オドオドしていて、まるで新居に招いたばかりの小動物みたい。あぁ、この手で思う存分、可愛がりたいですわぁ」

「しかし、あの様子では、【みのりん】とか言う少女が主導権を握って、もう一人の子は後を付いていくだけではないか? それだと、いくら可愛くてもMVPには選ばれんぞ」

「まぁまぁ。結論を出すのは早い。全ては映像を見てからだ。そうだね?」

ここで、参加者全ての視線がホログラム越しに、司会の男へ注がれる。

期待や執着といった感情を隠そうともしない、ねっとりとした視線。

男は、この視線が苦手だったが(得意だと言う人もそういないだろうが……)、なんとかポーカーフェイスを保った。

悪感情が顔に出てしまったら、どんな嫌みを言われるか、分かったものではない。 

「……はい、仰る通りです。それでは、ご覧ください」

本来なら、彼女たちの活躍は最後に回す予定だったが、こう言われては仕方がない。

男は、素早く段取りを変更して、リクエストに応えた。

ここで、【お預け】などしようものなら、暴動が起きるかもしれない。

そんな面倒は、まっぴら御免だった。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

二人の少女の活躍が収められた映像は、30分近く続いた。

他の候補の映像は、せいぜい5分くらいだが、参加者の期待を考慮して長めに作ってあるのだ。

それはそうと、映像が流れている間も、そして、今も、誰一人として声を発しない。

もしや、機材の故障だろうかと、慌てて男は口を開く。

「皆様、いかがされましたか?」

「…………いぃ」

「はい?」

各ホログラムから僅かに声が漏れる。

取り敢えず、機材の不調という訳ではなさそうだ。

「「可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」

しかし、続けて響いた歓喜の絶叫により、男の方が不調を訴えそうになった。

ただ大きいだけの声ではく、本能が垂れ流された獣の咆哮のような叫びだ。

「なんじゃ、あの可愛い生き物はっ!?」

「ネネちゃんが天使すぎて、生きるのが辛いぃぃぃ!」

「ネネは今日から俺の嫁——いや、俺の娘っ!」

会議室が一瞬で、阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌する。

が、はっきり言って、この空間では【いつものこと】なので、司会の男も特に気にしない。

こちらも、【いつものように】耳栓を取り出し、冷静に対応する。

そして、耳栓越しにうっすらと聞こえてくる乱痴気騒ぎが自然と収まるまで、大人しく静観する。

「みのりんちゃんに振り回され、からかわれ、セクハラされ、次々と変わる表情! そして、そんな扱いを受けても揺るがない、みのりんちゃんへの信頼! 更には、自分を襲うモンスターに対しても発揮される慈愛の心! 色素の薄い銀髪に、儚さを宿す蒼の瞳! どれをとっても理想の幼女としか言いようがない!」

拳を握り、ネネの魅力を熱弁する、御年100歳の変態ジジイ。

そして、周囲も、そんな彼に次々と賛同していく。

「いやいや、まったく。たまりませんなぁ! 最初は、みのりんちゃんに振り回されるだけの、内気で、か弱い少女かと思いましたが。言うべきことは、きちんと言うし、意外と頑固な一面もあるようですな。それに、調薬の際に見せる豹変ぶりも、なかなか乙なものです」

「まさか、【聖女】と【魔女】を両方手に入れるプレイヤーが現れようとは……。やはり、みのりん、とやらも含めて、要チェックだな。今後も目が離せん」

「どうやら、今は、みのりんと離れて、1人で何かを目論んでいる様子ですわね。いったい何を成し遂げてくれるのか、楽しみでなりませんわ」

この辺りで、メンバーの興奮が収まって来たので、司会の男が耳栓を外して口を開く。

「楽しみと言えば、今日また新たに、みのりんの友人がログインしたようです。この少女も、監視対象に加え、調査を進めていきます。……それでは、本日の予定は、これにて終了となります。お疲れさまでした。【全ては穢れ無き幼女のために!】」

「「【全ては穢れ無き幼女のためにッ!】」」」

次は念のため、もっと強力な耳栓を用意しておくか、と司会の男は、そんな事を最後に考えていた。

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