幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

決め手は可愛い子ちゃん

「ほらほら、カナちゃん。さっきまでの威勢は、どうしたのかな~♪」

「くっそ、みのりん。卑怯だぞ!」

「ふははははっ! 勝てば良かろうなのだ! てゆーか、私だって追いかけられてるんだから、条件は一緒でしょ? それに、これは、あくまでも時間稼ぎ。当然、最後は私が決めるから心配しなくて良いよ!」

「グォォォッ!」

「キィエェェェイ!」

「キシャァァァ!」

「ワオォォォン!」

第2ラウンドの開始を宣言した、みのりんの次なる一手。

それは、周囲のモンスターを手当たり次第に誘き寄せ、カナの動きを阻害する、というものだった。

今の二人は、熊、鳥、蜘蛛くも、狼を始めとした、様々なモンスターに追われている。

さすがのカナも、この状態では、みのりんに構う暇がなく、迫り来るモンスターの対処で精一杯の様子だ。

「おっ、前方にスライム発見! 隊長、発砲許可を願います!」

「許可する訳ねぇし!? ふざけてるよな!? ふざけてるだろ!? みのりんが軍人ネタ使うときは、絶対ふざけてる時だ!」

「正解! まぁ、許可とか無くても撃つけどね!」

「…………(うねうね) 

「うぎゃあああっ! 気持ちわりぃ!」

ちなみに、このスライムは、某国民的RPGに登場するような可愛らしいタイプではなく、アメーバのようにネバネバしたタイプだ。

その動きは、見た者の生理的な嫌悪感を刺激し、カナも漏れなく絶叫する。

「うーん、順調に足止め役が増えてるのは嬉しいけど、肝心の本命になる子が見当たらないなぁ。前に見掛けたから、この森にいないって事はないはずだけど……」

ところで、なぜ二人のデュエル中に、他のモンスターが乱入できるのか。

実は単純な話で、このゲームにおけるデュエルは、第3者に全く影響が無いからである。

特に行動を制限されることもなく、なんなら一方に加勢する行為も可能だ。

それでは、ズルし放題になる、ということで、一応、デュエル用に設けられた固有エリアもある。

そこは、事前に申請したメンバーしか侵入出来ない仕様になっているので、戦いに集中できる、という仕組み。

ただし、当然、開放されているフィールドほど広くはない。

せいぜい50メートル四方くらいのスペースしかなく、機動力を活かして戦う二人には少し手狭だ。

そこで、他者の干渉があり得る一般フィールドを選んだ訳だが、今回、みのりんは、その干渉を自分から引き出した。

確かに、カナの言うとおり、卑怯くさいが、モンスターの干渉に関しては、互いに納得して、ここを選んでいる。

そして、【その状況を意図的に作り出すことは禁止】というルールは決めていない。

ならば、これは、みのりんの発想がカナより上手うわてだった、というだけの事だろう。

それに、みのりんが言ったように、あくまで条件は対等であり、時間稼ぎでしかない。

カナにとって致命的な隙を生み出す本命。

その存在を、みのりんは探し続けた。

……。

…………。

………………。

「ちくしょう……。ちくしょー……」

「ハイハイ、悔しいのは分かるけど、大人しくして。皆びっくりして逃げちゃうでしょ?」

あれから時間を掛けて森の中を駆け回った結果、みのりんは目的のモンスターを無事に発見した。

そのモンスター、【雪うさぎ】は今、カナの体に群がっている。

ちなみに、そのカナは後ろから、みのりんの腕に抱かれ、地面に座り込んでいる状態だ。

そして、みのりんは樹にもたれ掛かる形で、足を広げて座っている。

カナを抱きつつ、雪うさぎを愛でつつ、大満足の一時を過ごしていた。

「まさか、【可愛いものに手が出せない】俺様の弱点を、戦闘に利用してくるとは……」

「ふっふっふ。さすがの師匠達も、この弱点は想定外だったかな?」

「ったりめーだろ。対戦相手にカワイイ動物をけしかけるなんて作戦、普通は思い付かねぇし」

「私だって、カナちゃんが相手じゃなかったら思い付かなかったよ? カナちゃんの数少ない弱点を考えたからこそ、このアイデアは生まれたのさっ!」

「……ところで、このうさぎ共は、なんで襲ってこねーんだ?」

カナの言う通り、うさぎ達はモンスターであるにも関わらず、特に攻撃してくる様子がない。

カナのお腹の上で寝転んだり、カナの足を口で突っついたり、大人しく撫でられたりと、およそモンスターらしくない挙動ばかりだ。

「一部のモンスターは、プレイヤーに友好的な設定だからね。もちろん、ある程度のダメージを受けたら反撃するけど。見つけてすぐに【不意射ち】で1ダメージだけ与えて、こっちに興味を持たせれば、簡単に釣れたよ?」

「……で、なんで、俺様のとこに、こんだけ寄って来てんだ?」

そう、うさぎ達は、みのりんには目もくれず、カナにばかり群がっている。

当然、これは、みのりんの思惑によるものだ。

「私がモンスター用のエサを握ってるからだね! 本来はモンスターテイマーが、自分のモンスターにあげる奴なんだけど、何かに使えるかな~と思って買っといたんだ。値段も安かったし」

「はぁ……わーった。俺様の負けだ」

実のところ、まだ、みのりんはカナに攻撃していなかったが、この状況になった時点で勝負は着いている。

カナも見苦しく足掻いたりはせず、素直にそれを受け入れ、デュエルの降参ボタンを押した。

「んで? こんだけ必死こいて、勝ちをもぎ取ってまで、俺様に叶えてほしい願いってのは何なんだ? そろそろ聞かせてくれよ」

「あー、別に、そんな大層なものじゃないよ? ただ、お泊まり会がしたいだけ。ほら、現実だと出来ないしさ」

「なーんだ、お泊まり会か。それなら……って、おい。なんだ、その怪しい手つきは!?」

後ろから回された、みのりんの手の動きに怯え、逃げ出そうとするカナ。

しかし、もちろん、みのりんの腕に抱き止められ、逃亡を妨害される。

「大丈夫、痛いのは一瞬だけ。すぐに気持ち良くなる!」 

「お前は、いったい何するつもりだッ!」

「え~。ただのマッサージだよぉ。スキンシップ、スキンシップ!」

「だから、うねうねと手を動かすなぁ! いいか、お泊まり会は認めるが、俺様の体を弄ぶなら全力で抵抗するからな!」

「分かってる、分かってる。カナちゃんは敏感だもんねっ。ちゃんと優しくするから。でも、今夜は寝かさないぞっ♪」

「人の話を聞けぇぇぇ!」

……。

…………。

………………。

その夜、二人が泊まる部屋からは、いつまでも賑やかな声が響き渡っていた。

ついでに、寝落ちしたカナの頭を、みのりんが撫でまくったのは言うまでもない。

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