幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

何でもやるって言ったよね?

「……どうして、こんなことに」

もはや、自分の家の庭のように歩き慣れた、第1層の森で、みのりんは小さく呟いた。

その隣には当然、デュエルをねだったカナも同行しており、その言葉に反応する。

「ん? だから、さっき説明したじゃねーかよぉ。称号まで使った、今の俺様の全力が、どこまで通用するか試してぇんだって」

ウォーミングアップのつもりか、シュッ、シュッとシャドーボクシングの動きを取りながら、みのりんの疑問に答えるカナ。

「それなら、別に相手が私じゃなくても良くない? また暴漢さんでも、とっちめて来なよ」

周囲に迷惑を掛けないよう、デュエルする前提で、ここまで来ておいて、今さらかも知れないが、一応、そう提案してみる。

しかし、カナは露骨に嫌そうな顔で肩をすくめた。 

「アイツらと戦ってもつまんねーし、なにより相手にならねーよ。さっきだって一方的だったのに、今は多少レベルも上がって、称号まで持ってんだし。それに俺様は、何をしでかすか予想が付かねぇ、みのりんと戦いてぇんだ! VRは初心者だっつーから、俺様が先に始めてたら勝負にならなかったけど、その心配もないしな!」

グッと親指を立て、ニカッと笑い、全身から喜びを溢れさせるカナ。

とはいえ、みのりんの心境は、カナほど沸き立っていない。

「うーん、いまいち気が乗らないけど、こうなったカナちゃんは止まらないしなぁ」

確かに、みのりんもゲームの戦闘は好きだが、別に戦闘民族という訳でもなければ、戦闘狂でもない。

カナとは違って、強い敵と戦う事に拘りはなく、ただ楽しく遊べれば、それで良いのだ。

しかし、カナと戦うとなれば、それはもう本気の本気、全ての力を出しきる事になるだろう。

カナには相手の闘争心を引き出す性質があるからだ。

これが終わったあと、とてつもない疲労感に襲われるのは想像に難くない。

「う~ん、そう言われると困っちまうな~。俺様としても、みのりんには、やる気を出してほしいし。……よし、分かった! じゃあ、こうしようぜ! みのりんが、この勝負に勝ったら俺様が1つだけ何でもしてやるよ! その代わり、俺様が勝ったら——」

「やる」

「……えっ?」 

「何でもやるって言ったよね?」

突然、みのりんが放ち始めた、妙な気迫。

その見えない圧力に押され、カナは一歩、後退あとずさる。

「お、おう。いや、でもほら、俺様に出来る範囲でだぞ? 世界一周旅行に行きたいとか言われても無理だからな? そういうのは、シオンに頼めよ?」

手をワタワタと振り、みのりんを落ち着けようとするカナ。

しかし、目の前に特大のエサを用意された、みのりんは、そんなことでは止まらない。

「大丈夫だ、問題ない。むしろ、カナちゃんにしか叶えられない、お願いだから!」

端から見れば、明らかに問題しか感じない。

その目は暗く、怪しく、爛々と輝いており、鬼気迫る【何か】を感じたらしいカナは、ゴクッと生唾を飲み込んだ。

「い、いったい何をお願いするつもりなんだ……」

「それは、後のお楽しみ♪ まさか、オンナに二言は無いよね? いつも、そう言ってるもんね?」

「お、おうよ! もちろん、オンナに二言はねぇ!」 

「なら、よし。もちろん、私が負けたときは、私が何でも言うこと聞いたげる。……お望み通り、【る気】で行くから!」

言葉と共に魔導銃を抜く、みのりん。

「字が違ぇ! つーか、デュエルの一撃決着モードだぞ!? るとからないとか関係ないからな!?」

「……いざ、参る!」

「いや、聞けよ!」

既に、みのりんの意識は戦闘モードに入り、深く集中しているため、カナのツッコミは自然にスルーされることに。

カナも、それが分かったのか、一つ舌打ちしてメニューからデュエルを承認し、拳を構える。

デュエル開始のカウントダウンが1秒ごとに減っていき、それに応じて少しずつ、場の緊張感も高まっていく。

それが0になった瞬間、二人は同時に地面を蹴った。

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