幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)
ヒーローの条件
「はぁ……やっぱり、いないね」
ネネとの別行動を開始した翌朝、みのりんは、始まりの街の広場で一人、溜め息を吐いた。
その理由は、この広場の噴水前で待ち合わせした友人——カナの不在だ。
今日から、ようやく【ネバーランド】にログイン出来るということで、朝早くから遊ぼうと、向こうが時間を指定したにも関わらず。
待ち合わせ時間の10分前から、みのりんは、ここで待機しているが、カナの姿はどこにもない。
現実の姿から弄らないと言っていたので、見間違えているという事はないだろう。
そもそも、みのりんも弄っていないので、仮に向こうが変わっていても、こちらの姿は分かるはず。
待ち合わせのベタなミスとして、噴水の表と裏で、それぞれ待っていたとか、別の噴水と勘違いしていた、というパターンがあるが、今回それはない。
噴水は向こう側が分かるくらいの大きさだし、第1層は、この広場にしか噴水がないからだ。
そして、特定の条件を満たさないと、2層以上には上がれないため、カナが立ち入るのは不可能。
というか、全てのプレイヤーが最初に訪れる場所なのだから、間違えようがないだろう。
「ってことは、多分、来るのが早すぎたせいで待ちきれなくて、一人で歩き回ってるな~」
そして、何かに夢中で時間を確認していない。
カナと待ち合わせした時の、いつものパターンだ。
カナは時間にルーズなので、大抵は早すぎるか遅すぎるかの二択だ。
遅すぎる場合は、何か興味を惹かれるものがあって寄り道し、遅刻となる。
そして、早すぎる場合も、暇をもて余して一人で歩き回ってしまうので、結果的に遅刻となる。
まぁ、みのりんも好奇心が強いタイプなので、気持ちは分かる。
とはいえ、もう少し協調性を身につけて欲しいものだ。
予定が狂うのを嫌う、もう一人の友人などは口酸っぱくカナを注意するので、よく衝突している。
「今日は、まだシオンちゃんが来られないから、その心配はないけど、さてさて、どこに行ったのやら」
こういう時、カナは恐ろしいほどトラブルに巻き込まれる。
自分からトラブルを起こすことは(待ち合わせ以外)滅多にないものの、カナはトラブルの神様に愛されているのだ。
特に、ヤンチャな人に目を付けられやすく、売られたケンカは必ず買うため、騒ぎが大きくなりやすい。
だが、逆に言えば、騒ぎが起きていれば、そこにカナがいる可能性は高いということ。
みのりんは、目に見える景色はもちろん、聞こえてくる音にも意識を集中して、街の広場を飛び出した。
…………。
……………………。
………………………………。
「……アレかな?」
それから、しばらく【空中ジャンプ】を併用して、街を駆け回っていると、ようやくカナの姿を発見した。
ただし——、
「なっ……!! んだぁ、このガキッ!?」
「お頭! コイツ、化けもんですぜ!?」
「俺達じゃあ、押さえ切れやせん!」
「情けねぇこと言ってんじゃねぇ! こんなガキ一匹に逃げ腰になったら、猟兵団【イェーガー】の名が廃るってもんだ!」
明らかに堅気ではなさそうな連中に襲われていたが。
「ハッハァッ! 【イェーガー】かぁ! 兄ちゃん達、随分とカッコいい名前を名乗ってんなぁ、おい! けど、ちぃっとばかし、名前負けしすぎなんじゃねーの!? こんなにプリチーでラヴリーな俺様が1人で相手できちまうんだからさぁ!」
そう言ってカナが振るう武器は、己の拳。
そう、ただの拳である。
スキルを使うどころか、グローブすら装備していない、無手の型。
カナは、その身一つで、100人を越える荒くれ共を翻弄していた。
「うわっちゃ~。予想通り——いや、予想以上だね! いったい何があったら、こんなことに?」
「あ、あの! あなたは、あの方の仲間でしょうか!?」
カナの乱闘を呆れながら眺めていた、みのりんの元に、眼鏡をかけた真面目そうな少年が寄ってくる。
少年は、冒険者のように動きやすい格好ではなく、仕立ての良い服を着ていた。
「えっと、あなたは?」
「あっ、名乗りもせずに失礼しました! 僕はラッカードと申します! 気軽にラックと、お呼びください! 僕は商人として各地を巡っているのですが、先ほど彼らに因縁を付けられてしまい、困っていた所を、あの方に助けて頂いたんです! あの、もし、あの方の仲間でなかったとしても、どうか力を貸して頂けませんか!?」
必死に頼み込んでくるラックに、みのりんは、どう説明したものか、と少し悩む。
「うーん、カナは友達だし、助けるのは良いんだけど……」
「あっ、もちろん、お礼は致しますので!」
「あー、いや、そういう事じゃなくてね? ほら、カナちゃん、楽しそうだからさ」
「……ほへっ?」
意外な回答だったのだろう。
ラックは間抜けな声を漏らし、呆然としている。
「カナちゃん、人助けとか大好きだから。【理不尽に負けないこと】【理不尽に負けそうな人を助けること】それが、ヒーローの条件だって、いつも言ってるし。とあるゲームのヒロインの受け売り、らしいんだけどね? それで今って、まさに、そんな状況でしょ? だから、手を出すのは、どうかな~って」
「そんな悠長なぁ……」
「まっ、本当に危なくなったら助けるけどさ。取り敢えず様子を見ようよ。それに……」
「……それに?」
「カナちゃんが、この手のゲームで負けるとこなんて、見たことないんだよね」
カナに対する絶対的な信頼を視線に込めて、戦場に送る、みのりん。
それに釣られるように、ラックもカナの方へ顔を向ける。
それは、ちょうどカナのアッパーが敵の顎を打ち抜いた瞬間の事だった。
ネネとの別行動を開始した翌朝、みのりんは、始まりの街の広場で一人、溜め息を吐いた。
その理由は、この広場の噴水前で待ち合わせした友人——カナの不在だ。
今日から、ようやく【ネバーランド】にログイン出来るということで、朝早くから遊ぼうと、向こうが時間を指定したにも関わらず。
待ち合わせ時間の10分前から、みのりんは、ここで待機しているが、カナの姿はどこにもない。
現実の姿から弄らないと言っていたので、見間違えているという事はないだろう。
そもそも、みのりんも弄っていないので、仮に向こうが変わっていても、こちらの姿は分かるはず。
待ち合わせのベタなミスとして、噴水の表と裏で、それぞれ待っていたとか、別の噴水と勘違いしていた、というパターンがあるが、今回それはない。
噴水は向こう側が分かるくらいの大きさだし、第1層は、この広場にしか噴水がないからだ。
そして、特定の条件を満たさないと、2層以上には上がれないため、カナが立ち入るのは不可能。
というか、全てのプレイヤーが最初に訪れる場所なのだから、間違えようがないだろう。
「ってことは、多分、来るのが早すぎたせいで待ちきれなくて、一人で歩き回ってるな~」
そして、何かに夢中で時間を確認していない。
カナと待ち合わせした時の、いつものパターンだ。
カナは時間にルーズなので、大抵は早すぎるか遅すぎるかの二択だ。
遅すぎる場合は、何か興味を惹かれるものがあって寄り道し、遅刻となる。
そして、早すぎる場合も、暇をもて余して一人で歩き回ってしまうので、結果的に遅刻となる。
まぁ、みのりんも好奇心が強いタイプなので、気持ちは分かる。
とはいえ、もう少し協調性を身につけて欲しいものだ。
予定が狂うのを嫌う、もう一人の友人などは口酸っぱくカナを注意するので、よく衝突している。
「今日は、まだシオンちゃんが来られないから、その心配はないけど、さてさて、どこに行ったのやら」
こういう時、カナは恐ろしいほどトラブルに巻き込まれる。
自分からトラブルを起こすことは(待ち合わせ以外)滅多にないものの、カナはトラブルの神様に愛されているのだ。
特に、ヤンチャな人に目を付けられやすく、売られたケンカは必ず買うため、騒ぎが大きくなりやすい。
だが、逆に言えば、騒ぎが起きていれば、そこにカナがいる可能性は高いということ。
みのりんは、目に見える景色はもちろん、聞こえてくる音にも意識を集中して、街の広場を飛び出した。
…………。
……………………。
………………………………。
「……アレかな?」
それから、しばらく【空中ジャンプ】を併用して、街を駆け回っていると、ようやくカナの姿を発見した。
ただし——、
「なっ……!! んだぁ、このガキッ!?」
「お頭! コイツ、化けもんですぜ!?」
「俺達じゃあ、押さえ切れやせん!」
「情けねぇこと言ってんじゃねぇ! こんなガキ一匹に逃げ腰になったら、猟兵団【イェーガー】の名が廃るってもんだ!」
明らかに堅気ではなさそうな連中に襲われていたが。
「ハッハァッ! 【イェーガー】かぁ! 兄ちゃん達、随分とカッコいい名前を名乗ってんなぁ、おい! けど、ちぃっとばかし、名前負けしすぎなんじゃねーの!? こんなにプリチーでラヴリーな俺様が1人で相手できちまうんだからさぁ!」
そう言ってカナが振るう武器は、己の拳。
そう、ただの拳である。
スキルを使うどころか、グローブすら装備していない、無手の型。
カナは、その身一つで、100人を越える荒くれ共を翻弄していた。
「うわっちゃ~。予想通り——いや、予想以上だね! いったい何があったら、こんなことに?」
「あ、あの! あなたは、あの方の仲間でしょうか!?」
カナの乱闘を呆れながら眺めていた、みのりんの元に、眼鏡をかけた真面目そうな少年が寄ってくる。
少年は、冒険者のように動きやすい格好ではなく、仕立ての良い服を着ていた。
「えっと、あなたは?」
「あっ、名乗りもせずに失礼しました! 僕はラッカードと申します! 気軽にラックと、お呼びください! 僕は商人として各地を巡っているのですが、先ほど彼らに因縁を付けられてしまい、困っていた所を、あの方に助けて頂いたんです! あの、もし、あの方の仲間でなかったとしても、どうか力を貸して頂けませんか!?」
必死に頼み込んでくるラックに、みのりんは、どう説明したものか、と少し悩む。
「うーん、カナは友達だし、助けるのは良いんだけど……」
「あっ、もちろん、お礼は致しますので!」
「あー、いや、そういう事じゃなくてね? ほら、カナちゃん、楽しそうだからさ」
「……ほへっ?」
意外な回答だったのだろう。
ラックは間抜けな声を漏らし、呆然としている。
「カナちゃん、人助けとか大好きだから。【理不尽に負けないこと】【理不尽に負けそうな人を助けること】それが、ヒーローの条件だって、いつも言ってるし。とあるゲームのヒロインの受け売り、らしいんだけどね? それで今って、まさに、そんな状況でしょ? だから、手を出すのは、どうかな~って」
「そんな悠長なぁ……」
「まっ、本当に危なくなったら助けるけどさ。取り敢えず様子を見ようよ。それに……」
「……それに?」
「カナちゃんが、この手のゲームで負けるとこなんて、見たことないんだよね」
カナに対する絶対的な信頼を視線に込めて、戦場に送る、みのりん。
それに釣られるように、ラックもカナの方へ顔を向ける。
それは、ちょうどカナのアッパーが敵の顎を打ち抜いた瞬間の事だった。
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