幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

風刃・雷刃

「そぅーっらぁぁぁ! もう、いっちょおぉぉぉ!」

ズドンッ! と、重々しい衝撃音を響かせて、トーシローのハンマーが黄金虎を突き飛ばす。

既にトーシローの体はボロボロだが、彼に寄り添うネネが回復魔法を掛けることはない。

ここに来るまでに何度も回復魔法を行使した結果、最後のMPポーションすら使いきり、もう余力が残っていないからだ。

おまけに、ネネも戦闘の余波でHPを半分ほど削られている。

それでも、ネネには、まだ大事な役目が残っていた。

「頑張って……! トーシローさん!」

だから、トーシローの勇姿を傍で見守り、祈り続ける。

それが、彼の力になると信じて。

「お任せをっ!」

ここは、既に森の中ではない。

いや、厳密には森の一部ではあるが、ネネの視界に映るのは石と土で出来た薄暗い道。

そう、ここは、かつてネネが逃げ込んだ洞窟である。

「グルァァァ!」

咆哮と共に繰り出される黄金虎の爪を避け、隙を見てノックバック効果のある一撃を叩き込むトーシロー。

その活躍により、現在地は洞窟の最奥部まで、あと一息という所だ。

ネネが立てた作戦。

それは、洞窟の奥へ黄金虎を押し込み、逃げ場のない袋小路で仕留めるというもの。

かつて、ネネが陥ったピンチを、立場を変えて再現しようという訳である。

そして、最奥部の頭上に広がる吹き抜けには、既にアオバが待機中だ。

そこまで、黄金虎を追い詰めれば、切り札を使って逆転できる……そう思っていた。

しかし——、

「ぐっ!?」

「トーシローさん!」

その作戦の要であるトーシローが、黄金虎の突進を避けきれず、ここで瀕死の重傷を負ってしまう。

ピクリとも動かないトーシローだが、街に帰されない所を見るに、まだHPは残っているらしい。

とはいえ、回復魔法も使えない現状で、これ以上の戦闘は不可能だ。

それでも、ここまで積み重ねた三人の努力を、無意味なものには出来ない。

だから——、

「トーシローさんが繋いでくれた道を、無駄にはしません! 最後は……私が!」

もはや役に立たない武器の魔導書をストレージに仕舞い、その身一つで黄金虎と対峙する。

一人でモンスターに立ち向かう恐怖は、当然あった。

こうして向き合うだけても、足が震え、思わず逃げ出しそうになる。

『……それでも、一番怖いのは、自分だけ何も出来ないことだからっ!』

そして、黄金虎がネネに飛びかかった。

それを予想していたネネは、小柄な体躯を、完璧なタイミングで、その下に潜り込ませる。

「ッ!」

そして、黄金虎の攻撃を文字通り掻い潜った次の瞬間、すかさず立ち上がって、最奥部まで駆け抜けた。

もちろん、黄金虎も、すぐさま後を追ってくる。

向こうは、獲物を追い詰めたと確信しているだろう。

しかし、本当に追い詰められたのは、黄金虎の方だ。

「お願い、アオバちゃん! 【風刃・雷刃】!」

「クーッ!」

待ちかねていたであろう、主の呼び掛けに、アオバが素早く反応を示す。

そして、1日1度の切り札が発動する。

アオバの体が暴風と轟雷を纏い、そこから数十、数百もの、風と雷の刃が生み出され、黄金虎に目掛けて殺到した!

「グッ……グルァァァァァ!?」

おびただしい風と雷が、その体を蹂躙し、周囲にも破壊を撒き散らす。

しかし、それほどの威力を誇りながらも、アオバはネネに被害が及ばないよう、完璧に技を制御していた。

とはいえ、ネネは端の方で体を縮ませ、怯えていたので、まるで気付いていなかったが。

「グル……ァァ」

やがて、自然の猛威が過ぎ去った頃、黄金虎は最後に掠れたような声を漏らして、光の粒子となった。

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