幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

試練の終わりと最後の挨拶

「えっ……」

エクストラ・クエスト【魔導銃の試練】における最後の敵。

その姿を見た、みのりんは、言葉を失った。

なにせ、その騎士人形は、修練場の天井に届こうかという5メートル近い巨体を誇っていたからだ。

「さぁ、【みのりん】よ! これが最後の試練だ! 俺の最高傑作である、この巨大騎士人形を討ち果たし、見事に栄冠を勝ち取ってみろ!」

「いやいやいや!? おかしいよね!? これは、さすがの私も素直にサー、イェッサー! とは言えないよ!? ていうか、教官が作ったの、これ!?」

「その通り! 俺の戦闘職は冒険者だが、生産職は発明家だからな!」

「武器の扱い全般を教えられる上に物作りも出来るとか。多芸すぎるでしょ、教官!」

そんな会話の最中にも、巨大騎士人形の拳が次々と、こちらを襲っており、みのりんは必死の回避を試みながら教官にツッコミを入れていた。

「だいたい、騎士なのに拳って!?」

「何を言う! 男たるもの、いかなる職に就いていようと、拳を鈍らせてはならん! どんな武器を手に取ろうが、最後に頼りになるのは鍛え上げた己の肉体なのだからな!」

教官は、そんなセリフをのたまいつつ、ボディービルダーのようなポーズを次々と披露する。

無駄に爽やかな笑顔と暑苦しいポーズが絶妙な不協和音を奏でていた。

「人が必死で戦ってるときにぃ!」

色々とお世話になっている相手だが、さすがに一発、殴りたいと思った、みのりんであった。

「わっ、ちょ、きゃあ!?」

それは、さておき、巨大騎士人形の攻勢は苛烈を極めていた。

巨体の割には、なかなか俊敏な動きで、次々と両手の拳を放ってくる。

現実なら修練場の床など、とっくに砕かれて、月面のようなクレーターが量産されている事だろう。

しかし、この場はリアリティよりも、利便性が優先されているようで、床が凸凹になるという事態は起きていない。

「足場が安定して走りやすいのは助かるけど、いったい、どうしたもんかなぁ!?」

ここまでの連戦で、そろそろMPが底を突く。

その上、どう考えても巨大騎士人形の耐久力は過去最高で、生半可な攻撃が通じるとは思えない。

それでも、なんとか一撃で仕留めるために、みのりんは考えていた最後の切り札を切ることにした。

魔導銃の消費MPを、最大MPと同じ410に設定したのだ。

前にも言った通り、このゲームでは、MPがゼロを下回るような行動も可能になっている。

例えば、MPが1しかない状態で消費MP100の魔法を使うなどだ。

つまりMPが残り少ない今の状態でも、魔導銃によって、最大MPを消費する攻撃が可能ということ。

ただし、当然、MP枯渇による硬直という大きなデメリットを伴う。

今回で言えば、最悪の場合、7分近い硬直に襲われる危険があるのだ。

当然、騎士人形がそんな隙を見逃す訳ないので、チャンスは一度きり。

加えて、そもそも射撃できるタイミングが見当たらない。

「ほらほら、どうしたぁ!? もう降参するか!?」

どうやら、教官のボディービル百面相は未だに続いているらしい。

もはや忍が印を結ぶようなスピードで、次々とポーズを切り替えている。

正直、人間に可能な挙動を越えており、だいぶ気持ち悪い。

試練の最中ではあるが、そろそろ本気で一発しばいてこようかと、みのりんが物騒なことを考えていると、ふいに天啓を得た。

「これだっ!」

頭に浮かんだアイデアを実行に移すべく、みのりんは教官の元に向かって駆ける。

この作戦の勝算は五分五分だが、たとえ失敗しても、みのりんに損はない。

なにより、一人だけ安全圏から調子にのって眺めている教官に一泡吹かせたかった。

「教官……覚悟ぉぉぉ!」

「なっ、ちょ、まっ!?」

教官が驚いたのは、みのりんが放つ気迫に呑まれたから……ではないだろう。

それも多少は影響しているかもしれないが、本命は、きっと、みのりんを追ってきた巨大騎士人形である。

その騎士人形が自分に攻撃した時に起きる事態。

恐らくは、それを危惧したのだ。

教官の反応から、この作戦の有効性を確信した、みのりんは、自慢の機動力で教官に追いすがる。

「逃がすかぁぁぁ!」

「み、【みのりん】! 落ち着け!」

幼女に必死の形相で、追いかけられるオッサン。

見る者を困惑させる謎の絵面は、そう長くは続かず、ついに、みのりんは教官を捕まえた。

「くっ!?」

「これでっ!」

二人の声が重なると共に、騎士人形の拳が襲いかかる。

しかし、その拳は寸前でピタリと止まり、そのまま騎士人形の足も動きを止めた。

「ここ……だぁっ!」

騎士人形は主人である教官を攻撃しない。

その予想はバッチリと当たったらしい。

ようやく訪れた千載一遇のチャンス。

みのりんは、ここを最後の勝負所と確信し、出し惜しみなく【空中ジャンプ】を2回連続で発動。

そうして、騎士人形の頭上に跳び上がり、最大MPを消費した魔導銃のエネルギーを解き放つ!

「いっ……けぇぇぇっ!」

もはや、ちょっとしたビームの域に達した魔導銃のエネルギー弾により、騎士人形は顔から肩、上半身、下半身と順に閃光に飲まれていく。

やがて、銃弾のエネルギーが尽きる頃には、その巨体は綺麗さっぱりと姿を消していた。

「……やっ、たぁぁぁ! 勝ったよ~!」

MP枯渇による硬直で受け身が取れず、床に叩き付けられながらも、みのりんは全力で勝利を噛み締める。

そして教官は、そんな、みのりんに半分呆れたような、半分感心したような、穏やかな笑みを向けつつ、回復を待っていた。

「これにて、訓練は終了とする! 約束通り、その魔導銃はお前のものだ! その武器を手に、ゆけ、【みのりん】! お前の未来は、どこまでも光り輝いている!」

しばらくして、みのりんが動けるようになると、教官から訓練の終わりが告げられた。

長いようで短かった教官の指導も、これで終わり。

そう考えると、少しは寂しく思えるような……気がしたが、みのりんは、ふとあることに気付き、咄嗟に笑いを堪えた。

理由は、みのりんの視線の先。

『お前の未来は、どこまでも光り輝いている!』

なんと、そう言った教官の頭も、これ以上ないほど光り輝いているのだ。

どうやら教官はカツラだったらしく、最後に放った特大の一撃の余波で、それが吹き飛んだ模様。

よく見ると、少し離れた位置に、そのカツラが無造作に落ちていた。

「はい! ごしどーごべんたつ、ありがとうございました!」

みのりんは、知ってはいけない事を知ってしまったような罪悪感を少しだけ抱きつつ、それを上回る笑いを誤魔化すように、テレビか何かで見たセリフを高らかに叫んだ。

……ただし、敬礼した手の先はプルプルと震え、口元は、へんにょりと歪んでいる。

微妙に締まらない最後の挨拶であった。

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