グローオブマジック ー魔女の騎士ー

珀花 繕志

19.エピローグ

 ルードたちは飛行魔術を使って国境を越えたのち、いくつかの小さな町に立ち寄り、魔術師を擁護(ようご)する国があるとの噂を聞いて、その街に向かうべく街道を歩いていた。
 風の噂によるとエリスを捕らえ、人体実験を行っていたのはやはりフィートの独断だったようで、ボウトたち複数の騎士による告発でそれが明るみに出たとのことだった。フィートは隊長から降格。魔女討伐部隊から別の部隊への転属が決まったそうだ。
「ね、ルード」
「なんだ?」
 国外逃亡が成功して追手の手が緩んできてからというもの、スティアはやたらとルードにくっつきたがった。
 今も腕を絡ませ、現在進行形で成長を続ける胸を押し付ける。
「少し離れろ。歩きづらい」
 照れ臭くなってルードはそう言って突き放す。
「えー、やだ。くっついていると気持ちいい」
 スティアはルードの腕に抱き着いたまま離れようしない。しかも、やたらと嬉しそうに微笑んでいる。
(そんな顔されたら、これ以上言えなくなるだろ)
 しかし、後ろにいる母親のことを考えると、気が気でない。
 そんな思惑を知ってか知らずか、スティアはお構いなしにベタベタとくっついてくる。
「それに言ってくれたよね? 私を助けてくれたのは愛情からだって……」
 スティアは耳元でそんなことをささやいてくる。
 ぼっと顔が熱くなるのをルードは止められなかった。
(それはそうなんだが、よりにもよって母親の前で……)
 ルードは頭が痛くなって捕まってない方の右手で頭を押さえた。
(それに、それが本当にそうだったのか、俺にも確証はない。それ以外に要因があったんじゃないか……?)
 ルードはそう思って、後ろを歩くエリスの方を首だけで振り向いた。
「エリスさん、お聞きしたいことがあります」
「なんですか? お義母さんって呼んでくれてもいいですよ?」
 エリスは柔らかい声を出して、からかうような意地悪い笑顔を浮かべる。
「……シーモア家は代々魔術師の家系ですか?」
「スティアの旦那様は生真面目ですね。シーモアは夫の姓です。過去に私が名乗っていたラミーナという家系はそうでした。近代魔術とは系列の違う古い魔術を使っていました」
 やはり、とルードは納得する。このことがフィートの研究によって判明し、上層部にそれを認められれば彼の言う他国に対する脅威となりえたかもしれない。
「魔女から戻れた要因はそこにあったと思いますか?」
「今となってはわかりません。私もあの時の記憶はあまり覚えていませんから」
 エリスが困った表情で顔を伏せたので、ルードもそれ以上聞くのを止めた。
(真相は闇の中か。だが、スティアが無事ならそれでいい。二度とあんな目には合わせないようにするだけだ)
 ルードは自分の腕に捕まったスティアを見る。
「?」
 スティアは首を傾げてルードを見つめ返していた。
 じっと顔を見つめられると、その大きな瞳に吸い込まれてしまいそうだ。フワフワのウェーブがかった栗色の髪が風に吹かれて、甘酸っぱい花のような香りが鼻孔をくすぐる。
こうしていると全てを彼女に委ねているような気持ちになる。
「ねぇ、ルード?」
「なんだ?」
 耳元で囁かれる声に鳥肌が立ちそうになりながら、何とかすぐに言葉を返した。
「私がもう一度魔女になったら、また助けてくれる?」
「……二度となるな」
「うー、冷たい。もしもの話だよ」
 ぶー、と頬を膨らませるスティア。
(助けるさ。何度だってな)
 ルードはペンダントに下げた剣を掴んだ。
「答えないとちゅーする」
 何も答えないとルードに業を煮やしたスティアはルードの背中に覆いかぶさった。
「わかった、悪かった! やめろ、吸い付くな! 助ける、何度だって助ける! そうならないようにお前を守ってやる!!」
 ルードは照れくささから必死でスティアを振り払った。
 これから彼女の父親にも落ち合うというのに、顔中キスマークだらけで対面なんて持ってのほかだ。
「うー、これはこれで何か拒絶された感じがする」
「勘弁しろ。これからお前の親父と合流するんだろ?」
「私が、なんだって?」
 背中から男性の声が聞こえた。
「いっ!? あ、アーバン、さん?」
「あ、お父さん」
 振り返るといつの間にかエリスの隣にアーバンの姿があった。
 どうやら仲睦まじい姿をずっと見られていたらしい。
「君はもう少し骨のある男かと思っていたがね」
 腹に響く低い声で、こめかみをピクピクさせている姿は魔女以上の化け物に見えた。
(戦った時以上に恐ろしく感じるのは気のせいか?)
 その殺気にルードは背中に冷や汗が流れていくのを感じた。
 エリスは他人事のようにお父さんったら、と口元を押さえて笑っている。
 アーバンは折れてしまいそうなほど杖を握りしめ、ギリギリと歯を食いしばっている。
「ルード・アドミラル!!」
「は、はい!」
「娘を、娘を拒絶するとはどういうことだ! あの時の誓いは嘘だったと言うのか!?」
「そっちかよ!!」
「だよねー。お父さん!」
 この娘にしてこの親ありとはこのことだ、と思いながら、ルードはむやみやたらに強い魔術師アーバンと再戦を果たすハメになったのだった。


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