グローオブマジック ー魔女の騎士ー

珀花 繕志

10.出撃


 出撃口に着くとすでにボウトが到着していた。
 ルードはボウトのところに駆けよる。
「ボウト副隊長!」
「来たな、ルード。今回はC・Dチーム混成の出撃だ。俺は両方のチームを見るから、Cチームの指揮は任せるぞ」
 それは完全にルードを信頼しきった目だった。ルードはそれに頷く。
「出来る限りやってみます。敵は?」
「例のドルイドタイプのゴーレムだ」
「また奴らですか」
 ルードは眉にしわを寄せる。
 ここ最近、市街の至る所で魔女の使い魔であるゴーレムが現れていた。
 使い魔が現れるということは魔女が発生したか、発生しそうになっているという兆候だ。
「しかも城下街ですか。厄介ですね」
「そうだな。魔女が貴族の慣れの果てという可能性も出てくる。そうすると余計に厄介だな」
「やりづらくなるからですか?」
「まあな。貴族が殺されようもんなら批判が起こる」
 城内での魔女討伐部隊の風当たりは良くない。武器の開発に大量の資金を投入する上に騎士団と業務が被る場合もある。個人の資質やメンタルに関わる魔術をメインの武器として使用する部隊に、大量の資金を投入するのは税金の無駄遣いだという意見が多い。貴族に批判されれば余計に立場が弱くなるだろう。
「いや、まぁお前たちは心配しなくて良いことだ。今は目の前の敵に集中してればいい」
「……わかりました」
 ボウトの言う通りだろう。ルードのような身分の低い騎士貴族が気にすることではない。
「遅くなりました!」
 そうこうしているうちに隊員たちが集合してきた。
「Dチーム全員揃いました!」
「Bチーム全員集合しました」
 チームのリーダーが揃って報告する。
「よし! A、Bチームはフィート隊長が来次第指示に従え! C、Dチームは俺について来い。魔術車で出撃するぞ! ルード、Cチームは全員揃ったか?」
 ルードは素早く周囲を見渡しメンバーの確認をする。ラクト、リイル、アリエル、……スティアがいない。
 リイルを見ると、身振りで「もう少しで来る」と言っていた。
「後はスティアだけです」
「すいません! 遅くなりました!」
 言った瞬間に彼女が慌てて駆け込んできた。
「Cチーム全員揃いました」
「よし! 出撃だ! 魔術車に乗り込め!」
 ボウトは出撃口に備えられた天井に大きな結晶の付いた車輪の付いた箱のような物体に向かって行った。
「あれは何ですか?」
「魔術車だ。自分で走るよりも早く、大勢で移動できる便利な魔術兵器だ」
 ルードはスティアの質問に答えながら、魔術車のところに向かう。
 魔術車とは魔術を燃料にして動く自動車だ。外見は科学の力、燃料は魔力の自動車だ。当然それを動かすには膨大な魔力が必要だが、国家魔術師が複数人で数日かけて作り上げた「魔力石」を燃料としているため、魔力なしのルードでも動かすことができる。
「運転はリイル、任せる!」
「わかりました」
 運転席にリイルが乗り、助手席にボウトが乗り込んだ。
「えっと」
 どうやって乗るのかわからずにスティアはその場でまごついてしまう。
「何やってんだ。こっちだ」
 ルードはその手を引っ張って、車の後ろに開け放たれた収納庫のようなスペースに乗り込んでいく。
「え? あれ?」
 スティアは車の中に入って驚いた。
 入るときにはすし詰めになって移動するものだと考えていたが、車の中は予想以上に広く十人以上が座れるスペースがあり、武器を保管するロッカーまで備え付けられていた。
「何だ? どうした?」
「この中、広いんですね」
「それがどうかしたのか?」
「いえ、外見と違うので驚きました」
「一般家庭にも使われている魔術だろう?」
 なぜそんなことも知らないのか?
 彼女は保護されて研究施設に送られ検査を終えた後、普通の生活に戻るという話だった。
それが何故一般的な魔術も知らず、そして何故魔女討伐部隊などにいるのか、いつか聞かなければならないだろう。
 だが、それは今ではない。
「適当な席に着け。出発するぞ」
「はい!」
 ルードの指示に従い、隣の席に座る。
「しっかり捕まっていてね! 行くわよ!」
 リイルの声が後方の席に伝わり、ゴウンという起動音と共に魔術車が宙に浮いた気がした。同時に凄いスピードでそれは走り出した。
 窓に映る景色が一瞬にして変わっていく。石造りの騎士団本部を飛び出し、市街を走り抜けた。平日ということもあり、幸いにも市民は少ない。
 一気に加速して目的地の北ブロックに向かう。
 スティアは驚いたような感心したような声を上げて、その様に釘付けになる。
「ふあぁぁ、る、ルードさん!」
「なんだ?」
「凄いですね! これ! 凄い魔術機械ですね!」
「お前、緊張感なさすぎだぞ」
 その興奮した声を聞いて、ルードは頭が痛くなった。
「ちょっと黙ってろ」
「あ、すいません」
 ルードに言われて落ち込んだ様子で下を向いてしまう。
「ルード。すっかり懐かれてるねぇ」
「いい迷惑だ」
「羨ましいよ。どうすればそんなに女の子に好かれるんだい?」
 ラクトの妬むような表情を見て、さらに頭痛がひどくなった。
「今はそんなことどうでもいい。今回の敵もドルイドタイプの使い魔だ」
「うえ、またぁ? ドルイドは見た目が気持ち悪いから嫌いなんだよね」
「文句を言ってる場合か。ボウト副隊長は二つのチームに指示を出すから俺が今回もチームリーダーだ。頼むぞ」
「はいはい。君が暴走さえしなきゃこのチームは最強なんだから自重してくれよ?」
「……わかった」
 言い返したいのはやまやまだが、大概失敗するのはルードが原因だ。いつも以上に周囲を見て戦うことにしようと心に決めた。
(それに今回はアイツもいるしな)
 ちらりとスティアのことを盗み見る。
 スティアは緊張の為か、すでに杖を出し、それを握りしめて固まっている。
(仕方ない。魔女を討つには二の次だ。アイツが生きたいと願うなら、俺はアイツを守るだけだ)
 それが彼女から母親を奪った者のせめてもの償いだ。
 考え事をしている間にも魔術車は走り、既にサウスブロックに入っていた。
「もう着くぞ! 準備はいいか!?」
「はい!」
「よし! 隊員は各チームのリーダーに従って行動しろ! 殲滅作戦開始だ!」
 ボウトの号令でルードたちは外に飛び出した。
 周囲を見渡すと、石造りの建物に魔術を施された街灯の立ち並ぶ古代と近代が混同した街並みが見えた。住民たちは家の中に逃げ込んだようで、その姿は見えない。
(敵はどこだ!?)
 情報ではドルイドタイプの使い魔という話だったが、見渡す限りそれは発見できなかった。
「よし、Dチームは陣営を固めるぞ! 魔術車を死守せよ!」
 Dチームのリーダーがそう指示を出す。
 積極的に動かないという意思表示だった。
(仕方ないか)
 今回ばかりは積極的に魔女を狩りに行くのは避けたかったが、そう宣言されてしまっては仕方がない。
「Cチームは陣形を固めつつ市街の使い魔を殲滅する。陣形を崩すな。前衛は俺、ラクト、リイル。後衛はアリエル、スティアだ。後方からの攻撃に注意しろ」
「なんだい、今日は各個撃破じゃないのかい?」
「今日は新人連れだ。無茶は控える。ただし市民の救護が第一だ。見つけ次第すぐに救護に当たる」
「何よ、やればできるんじゃない。いつもお前らは好きにしろって一人で勝手に突っ走って行く癖に……」
 リイルの嫌味も耳に入らない。
(アイツを守る。そのために勝手はしない)
 そう心に誓って、ルードは陣形を組んで街の中を進んだ。

 市街にはまだ敵の姿は見えない。市民も避難しているためかゴーストタウンのようになっていた。
「……いた!」
 思いのほか早く発見してしまった。
 薄汚れたローブを身にまとった老人のような容姿。しかし、その黄色い肌と膨れ上がった肢体は人間と呼ぶにはおぞましい生物だった。
 それらが三体、何やら密会をするように顔を寄せ合っていた。
「あれが、ドルイドですか?」
「そうだ。油断するなよ。魔女の使い魔と言っても魔術では俺達を凌駕することだってある」
「で? どうするの?」
「こちらには気付いていないな。先手を打つ。アリエル、スティア、ロングレンジの魔術を打てるか?」
 ルードの問い掛けにアリエルは頷き、早速ロッドを構える。
「アリエル、スティアと同時攻撃だ。少し待て。スティア行けるか?」
「は、はい!」
 慌ててスティアも魔術の準備を始めた。
「ラクト、リイル。魔術が当たったら俺が突っ込む。続いて攻撃を仕掛けて相手を逃がすな」
「りょーかい。普段からそうなら良いのに」
「本当。こんな気持ち悪いルード初めて見るわよ」
「黙って仕事しろ」
 自分でも驚いているくらいだった。普段魔女の手先などと遭遇しようものなら、頭が真っ白になって殲滅することだけを優先してしまうが。
(アイツのせいか?)
 わからない。憎むべき相手と憎まれるべき相手が側にいるから中和されているのかもしれない。
(考えるのは後だ。とにかく敵を殲滅する)
「魔術、行けます!」
「よし。カウント、3、2、1、撃て!」
 アリエルのロッドから電撃がほどばしり、スティアの杖からは炎の弾が発射された。
それに気付いたドルイドたちが防御の魔術を使う。黄色い手から魔術による障壁が張られた。
(気付かれたか。だが!)
 魔術が発射されると同時にルードは飛び出していた。後一歩で攻撃が仕掛けられるところまで走りこむ。
 魔術が直撃した。しかし、その攻撃は障壁に遮られて本来の威力には程遠い。ドルイドたちをよろめかせる程度に留まった。
「はっ!!」
 それで充分とばかりにルードは最後の一歩を踏み出し同時に鋼鉄の剣を薙ぎ払った。
 魔術の障壁ならば直接攻撃を防ぐことはできない。障壁を通過して、使い魔の体を切りつけた。ドルイドが体勢を立て直す隙も与えず今度は剣を突き出して、その体ごと撃ち抜いていた。
(まず一匹!)
 剣に血の後は残らなかった。所詮彼らは魔術で作られたまがい物だ。生物などではない。
 ラクトとリイルが波状攻撃を仕掛け、ドルイドたちとの戦闘を優勢に進めていた。
(おそらく二人は問題ない。問題は敵があれだけとは考えられないことだ)
「そっちは任せた!」
「え、えぇ!? 加勢は?」
 ラクトの言うことは聞かず、ルードはすぐにスティアたちのところに戻った。
「あ、あの、お二人は大丈夫なんですか?」
「後ろだ!」
 相手は魔女だ。真っ正面から戦ってくれる訳がない。相手を崩すためにどうするか? 囮を使ったのなら別の狙いがあるはずだ。
「ゲ、ギギュアッ!!」
 建物の陰から声にもならない声を上げてドルイドが三体現れる。
「来たぞ! 応戦しろ!」
「えぇ!? お、応戦って!?」
「俺が食い止める! 魔術で焼き払え!」
 指示だけ出してルードは駆け出す。
 今日が初の実践となるスティアには不測の事態に対応しきる余裕はないようだ。
(一人で三体はキツイな。防戦に徹してアリエルの魔術を待って反撃するか)
 ドルイドたちが魔術を放つ。
 その手に握られた杖から火炎、氷のつぶてが一斉にルードに襲い掛かった。
(氷と炎の波状攻撃か。あの魔女と同じ攻撃をしやがる)
 ルードは高速で剣を振るい、その火炎と氷のつぶてを弾く。後ろにいるスティアとアリエルの文字通り盾となるためだ。
「ぐっ! くっ!」
 昨日とは違い魔力が体に戻ってくることはなかった。
 剣で防ぐだけとなると無傷で防ぐことは難しい。炎が頬を焼き、氷のつぶてが肩をかすめた。
(昨日のあれはやはり偶然だったのか?)
 スティアを守るという理由だけでは、どうやら封印は解除されないらしい。
 魔術を受けきって剣を握りなおす。
「おおおおぉぉっ!!」
 痛みをかみ殺してドルイドに剣を振り下ろした。
 渾身の一撃はドルイドを切り裂き、一撃で葬り去ってしまった。
「スタン・ロッド」
 アリエルからの支援魔術が放射される。
 アリエルの振るったロッドから黄色の電流がほど走り、一体のドルイドに直撃する。
 倒すほどの威力はなかったが、行動力を奪うには十分だった。
「おぉっ!!」
 無防備なドルイドに鋼鉄の剣をなぎ払って鋭い一撃を見舞い、完全に消滅させる。
(後一体っ!!)
 すでに相手も体制を整えなおしている。先ほどのようにはいかないだろう。
(迷っている暇なんてあるか! いくぞ!!)
 ルードが一歩を踏み出そうと体を乗り出したそのときだった。
「がっ!?」
 背中に衝撃が走り、皮膚が焼けるような痛みが走った。魔術による攻撃を受けたのだ。
(新手か!?)
 ルードが振り返ると、後悔と恐怖の表情で震えるスティアの姿があった。震える指先に握られた杖からは、魔術を放った後に出る魔力が煙のようにこぼれ出していた。
(ちっ! 誤射か!)
 スティアが援護をしようとして放った魔術がルードの背中に当たってしまったのだ。
 無理もない。初めて現場に出る彼女にとって、これが初めての実践だ。誰しも一度はやることだ。
「ギュアアアッ!!」
 その隙を突いてドルイドがルードに襲いかかってきた。
 魔術が効かないとわかったのか、杖による殴打の攻撃だ。
「がっ!」
 頭に鈍痛が走る。続いて生暖かいものが額を伝った。
 なおもドルイドは攻撃をやめない。杖を鈍器にして続けざまに攻撃を仕掛けてくる。
「ぐっ、このっ!」
 ルードはまとわりつこうとするドルイドを体当たりで突き放した。
 続けざまに剣を振るうが、ドルイドは間合いを取ってあっさりと避けた。
「ギ、ギュアアッ!」
 再びドルイドの魔術の応酬が来る。炎の弾の連打だ。
 ルードは防御姿勢を取ってそれを懸命に防ぐ。防護服が焼けて、血の焼ける嫌な臭いがした。
「ルードさんっ!!」
「来るな!!」
 駆け寄って来ようとするスティアを制し、ルードは再び剣を構える。
(手強い。コイツがリーダー格か?)
 ならば、とルードは剣を引いた。
 これは訓練では決して使わない「技」だ。
 剣を引いて全身を弓のように引き絞り、込めた力を一気に解放するように地面を蹴る。
 ルードは体を放たれた矢のようにさせて飛び出した。
 風を切って瞬時に相手の足元に飛び込むと、敵の無防備な懐に潜り込む。
「ギギッ!?」
 相手が気付いた時にはもう遅い。
 ルードは上半身のバネを使い、鋼鉄の剣を突き出した。
「ステークバースト!!」
 突き出した鋼鉄の剣が直撃した瞬間、あまりの威力にドルイドの上半身が吹き飛ばしていた。まるで魔術大砲の弾丸に打ち抜かれたような状態だった。
 使い魔はその状況を認識できず、残った下半身が痙攣していた。
 やがてそれを認識したらしく、魔力となり空気に溶けていってしまう。
「まったく、どんだけなのよ……」
 ドルイド二体をどうにか片付け、リイルたちも加勢に戻ってきていた。
 普段その戦いを見ているリイルたちでさえ呆れるほどの強さだった。
「アイツ、きっと使い魔のリーダーだろ? それをたった一人で倒すなんて。ルードが魔術を使えた頃って一体どんだけ強かったんだろうね」
 魔術なしでこの強さだ。フィートやボウトに匹敵する、いや今の鍛え上げた剣技があればそれをも凌駕するのではないだろうか?
「終わりだな」
 ルードは額の汗を拭って周囲を見渡す。
 残った使い魔はもういない。辺りは静けさを取り戻し、魔術によって作られた使い魔の残骸も残らなかった。
 ルードは肩を下ろしてため息をついた。あの技は強力無比だが、消耗も激しい。魔術を使えないルードが己の肉体だけを使って今放てる最高の技だ。それゆえ一撃で今後の戦闘に支障が出るほど消耗してしまう。
(改良が必要だな。一回使っただけでこの疲労感か)
 魔術が使えた頃はそれをサポートすることもできたろうが、今はそれもできない。何らかで補う必要があるだろう。
 眉間にシワがよる。何においても魔術を使えないことがネックになってしまっている。
「……」
 スティアは膝を落としたまま呆然としていた。
「大丈夫か?」
 ルードは彼女に手を差し延べた。
「はっ、はい……、あ、あの……」
 どうやら先程の失敗を気にしているらしい。
 ルードはそれに気づかないフリをして何事もなかったかのように振る舞った。
「いつまでそうしているつもりだ? 立て、まだ近くに敵がいるかもしれない」
 スティアは恐る恐るという感じでルードの手を掴み起き上がった。
「アリエル、索敵できるか?」
「今、やってる。……近くに魔力反応なし。もうこの辺りには魔女と使い魔はいないみたい」
アリエルは閉じた目を開き、そう告げた。
「そうか。リイル、本部に報告を頼めるか?」
「もうやってるわよ。本部、こちらCチーム。市街地での戦闘発生、魔女の使い魔と思われるドルイド数体を殲滅。その後索敵を実施。結果、魔力反応ゼロ。周辺の適正なし」
 リイルが耳にはめた魔術式のトランシーバーから「了解。一時陣営に帰還せよ」と通達が流れた。
「聞こえたな? 陣営に帰還する!」
ルードはそう命令して身を翻したところ、その手にまだスティアが掴まったままだった。
「どうした? 帰るぞ」
「は、はい。その……」
 よく見ると彼女の手は震えていた。手だけではない。顔を真っ青にして全身を震わせていた。
(まさか、思い出したのか?)
 あの技は彼女の母親にとどめを刺した技だ。その印象が彼女の記憶を蘇えらせたのではないかとルードは不安になった。しかし、
「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい、私、あんなことになるなんて思いもしなくて!」
 それはルードの不安とは全く違っていた。
 スティアは目の切れ端に涙を浮かべて謝っていた。魔術を打つタイミングを誤り、ルードに怪我をさせてしまった自分を責めているのだ。
 ルードはなんだ、とつぶやいて、その手を強く握り返した。
「大丈夫だ、気にするな。この程度慣れてる」
「で、でも!」
「怪我ならすぐ治る。お前はもう少し落ち着け。前衛が交戦中であれば、後衛は攻撃の機会を伺うかサポート系の魔術を使うのが基本だ」
「ご、ごめんなさい」
 そう大きな瞳から涙が零れ落ちてしまっていた。
 ルードはできる限り気を使って優しく言い直す。
「もう謝らなくていい。大きな被害もなく無事敵を殲滅出来たんだ。初仕事にしては上出来だ。これから少しずつ色んなことを覚えていけばいい」
「は、はい……」
 スティアは俯いて返事をした。
 彼女が全て忘れたいならそれでいい。思い出して自分を憎くなったら討たれる覚悟だ。それまではせめて優しくあろうと思った。
「そうそう。ルードなんかいつも一人で勝手に突っ走って、一人で怪我してくるんだからいいんだよ」
「失敗なんて誰にでもあるわよ。ルードなんていつも失敗しかないんだから」
 姉弟揃って減らず口を叩く。彼女を慰めるのか、ルードをけなしているのかわからない口調だ。
「お前らな……。いつもはお前らがへっぴり腰でとろとろしているからだろう」
「おー、よく言うよ。君のリーダーシップを今日初めてみたよ」
「アンタの勘が当たって後ろに敵がいたからよかったけど、いなかったらただの勘違い野郎よ?」
 ルードと姉弟が口喧嘩をし始めるのを、スティアはハラハラしながら見つめる。
 その肩をアリエルがぽんと叩いた。
「気にしなくていい。いつものこと。ルードは丈夫だから」
 アリエルの言葉の足らない慰めに、スティアはやっと笑顔を取り戻せた。
 使い魔もいなくなった。すぐに街の人々が出てきていつもの賑わいを取り戻すだろう。
 分厚い雲が覆っていた空に一筋、太陽の光が差し込むのが見えた。

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