グローオブマジック ー魔女の騎士ー

珀花 繕志

2.魔女討伐部隊

 魔女討伐部隊「イクサス」本部――。
 石造りの古い神殿のような建物。その中には石造りの円柱状の柱が均等に並び、壁には国家を象徴する赤い旗と魔女討伐部隊を示す赤色の十字を描いた黒い旗が吊るされている。
 最新鋭兵器を装備する部隊とは名ばかりで、魔女討伐部隊はまだ設立されて間もない歴史の浅い部隊だ。専用の寄宿舎もなく、旧騎士本部の建物をそれとして使っていた。国家騎士本部の最新のセキュリティシステムが整った建物と比べれば、古めかしいことこの上ない。
「失礼しました」
 その建物の一室、魔術研究部の部屋から出てきたルード・アドミラルは一枚の紙を手に石畳の床を革靴の底で叩きながら歩いた。
 バラバラに広がった癖のない黒髪に精悍な顔立ち。笑顔でも見せればさわやかな好青年にも見えるが、強い意志を込めた瞳と眉間に刻まれた一本のしわが彼の無骨さを表している。体は鍛えられ、十字がトレードマークの騎士団の外套の上からでもわかるほどだった。そしてその腰には何の装飾も魔術的仕掛けもない古風な鋼の剣が吊るされていた。
 検査結果の用紙を見て、彼の眉間に入ったしわがさらに深く刻まれる。
「魔力判定ゼロ 全ての魔術に対して適正がない状態です」
 やはり結果は同じだった。
 あの事件から半年が経過した今でも呪いは続いている。
「ふぅ……」
 思わずため息が漏れる。
 ため息に反応して周囲にいた隊員たちがひそひそと声を潜めて何か話していた。
「魔術と科学が発展したこの時代に、鋼の剣と身体一つで戦う騎士がどこにいるんだ? 時代錯誤め」
「まったく、たかが一匹魔女を葬った程度で騎士になりやがって。成り上がりが……」
 それはルードを妬み、蔑む声だった。
 一年前、魔女討伐部隊の小隊が手に負えなかったSランクの凶悪な魔女を、たった一人で討伐した功績はまだ若いルードには大きすぎた。王国は騎士見習いに過ぎなかったルードに騎士の位を与え、貴族へと出世させた。そのため、出世を望む多くの騎士見習いたちの恨み、妬みも多く買っている。
 その上、この「魔術適正なし」だ。望んでなくても迫害をされる。
 もう春を迎えるというのに相変わらず冷たい風が吹く。石造りの建物では隙間風が吹いており、寒いことこの上ない。
 ルードは外套の前を閉め、彼らに聞こえるように石畳を鳴らして歩いた。
「やぁ、ルード。どうしたんだい? ため息なんてついて?」
 その空気を打ち壊すかのように明るい声をかけてきたのは、部隊の制服を着崩した若い騎士見習いだった。
「ラクトか」
 若い騎士見習いは名前を呼ばれて歯を見せて笑う。
 くすんだ金髪のクセっ毛の髪とたれ目。一見美形の少年にも見えるが、その顔には彼の性格を現すような軽さが滲み出していてどこか憎めない顔つきだ。ルードと同じ胸に十字の入った制服を普段着風に着こなしているが、腰にはルードのような物騒な一物は下げられていない。
「どうしたんだい、景気の悪い顔して。もっとぱーっと明るくできないのかい?」
「あんまりかまうな。お前まで迫害を受けるぞ?」
 ルードは検査結果の紙をクシャクシャと丸めポケットの中に突っ込む。
「何を今更。あ、わかった。また適性なしだったんだ?」
「……」
 魔術適正なし。それは現在の魔術社会において非常に不便なものだ。本人に魔力がなければそれによって作られた魔術機具、兵器が使えないからだ。仮にも騎士であるルードにとってそれは致命的な欠陥である。
「いいじゃないの。そんなものなくたって、君には鍛え上げた肉体と技術があるだろ」
「よくない。普段の生活にも支障がでるんだ。お前がそうなってみろ」
 それを想像して、ラクトは嫌そうな顔をする。
「あー、ま、まぁね。そ、そうだ! 代わりに僕のも見るかい?」
 慰めとばかりに自分の検査結果をルードに見せてきた。
 そこには「魔力判定C ルーン系の魔術に適正が高く、特に防御、支援の魔術を薦めます」と書かれてあった。
 普通の一般市民がこの検査を受ければ、E、Fのランクを貰うことになる。魔女討伐を専門とする彼だからこその高い数値だ。
「またランク上がったか?」
「そうなんだよ。騎士隊に入ってから成長著しくてさ。赤丸急上昇ってやつ?」
 くねくねと身体をよじりながらそんなことを言う。
 ルードは心の中でため息をつきながら、その紙を突っ返して歩き始めた。
「これで女の子たちも僕を放っておかないと思うんだ。ところでルード、今日の僕の髪型どうかな? 決まってるかい? ちょ、ちょっと、ルード、待ってよ!」
 ラクトの呼ぶ声も聞かず、ルードは足早に訓練場に歩いていく。
(普通は、そうだよな)
 あの呪いを受けたときから、自分には普通なんて望めない。
 あの時、覚悟してそうなった。だから、自分は一生魔女を狩り続ける騎士でなければならない。
 普通に憧れても、もはやそれに戻ることはできない。
 ルードは眉間のしわをさらに深くして訓練場へ歩いていった。

 魔女討伐部隊本部の訓練場は、客席のないコロシアムのようなところだった。
 円状の広場の地面には土も敷かれ、馬上訓練などもできる広い運動場のような場所になっている。本家の国家騎士隊本部とも繋がっており、二階には訓練を眺めることができる観覧席も設けられている。おそらく王族、貴族が見るために作られたのだろうが、もっぱら武器の開発を行う技術部の人間や暇をもてあました騎士が物珍しさに訓練を見ていくのに使っていた。
 訓練場の天井部には屋根がなく、晴れた日にはそこから真っ青な空を見ることができる。しかし、生憎今日の空は厚い雲が覆ってしまっており、晴天を仰ぐことはできない。
 ルードは剣を片手に無言で訓練場に降りていく。
 数名の隊員が検査を終え自主練習に来ていたが、ルードの姿を見るとそそくさと訓練場を後にした。
「……なんだよ。アイツはもう訓練なんてする必要ないだろ」
「ったく、魔術も使えない癖に騎士になりやがって……」
 隊員がボソボソとそう言うのが聞こえたが、無視して訓練場に降りる。
(やれやれ……)
 ほとんどの隊員は皆ルードに対してこういった態度を取る。魔術も使えない騎士であるルードに怯え、嘲る。
 ルードはため息をついて、外套の前を開け、腰の剣を抜いた。
 無骨な、所々に傷のある鋼の剣だった。現在の魔術、科学の技術が一切入っていない純粋なただの剣だ。
 ルードはそれを正眼に構えると正面に敵がいることを想定して振った。
 日課にしている訓練だ。
 ある事件が原因で魔術や科学が一切受け付けられなくなったルードが、騎士でいるためには相当な腕がなければならなかった。他の隊員が魔術や科学を駆使して戦う中、鋼の剣一本で戦うのだ。無骨であろうと無様であろうと人並み以上の努力と鍛錬が必要だとルードは考えていた。
 無心で剣を振るう。
「また一人で稽古? アンタもバカが付くほど熱心ね」
 額に汗がにじみ始めた頃、訓練場に降りてきた少女が見下すような視線をルードに投げかけていた。
「リイルか……」
 服の袖で額の汗をぬぐいながら顔を上げると、柑橘系の香りが鼻をくすぐった。
 くすんだ金髪をばっさりとショートカットにしており、瞳はその好奇心を現すように大きい。女性らしく胸や尻には凹凸が見えるが、色気のない制服に隠されてそれほど目立たない。カッターシャツの下に全身をぴったりと覆うインナースーツを着込み、ハーフパンツの下にもそれが見えていた。
 魔女討伐部隊唯一の女性前線隊員リイル・エンシア。ラクトの双子の姉だ。
「今日は検査の後だから稽古はほどほどに、って隊長が言ってたでしょ?」
「俺は身体一つで戦っている。鍛えないとすぐに鈍る」
「はぁ……。本当、バカがつくほど頑固で、真面目ね……」
 リイルはため息をついて訓練場の片隅に座る。
「邪魔するなら帰れ」
「別に好きでこんなところにいるわけじゃないわよ。……アンタ、その無愛想もいい加減にしておかないと隊で孤立するわよ?」
 リイルは呆れたような顔でルードを見つめる。
「とっくに孤立してる。魔術も使えない奴がなんで騎士なんだ、ってな。騎士なんて役職が欲しいならくれてやる。誰に嫌われようと俺は魔女討伐部隊の隊員で、俺の役目は前線で魔女を殺すことだ」
 ルードは視線を無視して剣を振るう。
 リイルは呆れて物も言えない、というように頭を抱える。
「どっからそんな傲慢な言葉が出てくるんだか……。誰がアンタを騎士にしてくれているかわかってるの?」
「王様か、貴族様か? それとも市民か?」
「それと周りの仲間よ。騎士として信頼されるような努力をしなさい。じゃなきゃアンタはただの乱暴者よ」
 リイルは棘のある言葉でルードに指摘してくる。
 確かにリイルの言うとおりだとは思う。しかし、周りが負の感情を持って接してくる以上、こちらから仲良くなろうなどとルードには到底思えない。
「おう。ルード、それにリイルか」
 闘技場に響き渡るような声で階段を降りてきたのは、ルードたちと同じ制服を着たやたら背の高い男だった。
「ボウト副隊長」
 短い黒髪と骨格がゴツゴツとした顔に乗っかった鷲鼻とまるで小動物のような小さな目。筋肉隆々で制服の下にはタンクトップを着用している。背丈が高すぎてズボンが短く見えるためなのか皮のブーツを履いており、背中には超重量級の武器である槍と斧の合体した「ハルバード」を担いでいた。
「熱心なことだな」
 しわの入り始めた顔をにっと緩ませてボウトは笑った。
「ボウトさん、ルード言ってあげてくださいよ。討伐部隊の数少ない騎士なんだから、それらしくしろって」
「ルードは心配ないさ。何せ色男だからな。女性隊員からはモテモテだ。それより俺はお前のほうが心配だ。そのキツイ性格直さねぇと嫁の貰い手がねぇぞ?」
「ボウトさんっ!!」
 怒ったリイルを見て、ボウトは豪快に笑う。
「冗談だ。まぁ、要はアレだ。ルードも仕事や訓練ばっかりじゃなくてだな、たまには仲間と飲みに行ったり、遊びに行ったりしろってこった」
 ボウトの大雑把な物言いにリイルはむっと眉間にしわを入れて言い直す。
「……言いたいことはそうじゃなくて、私生活にまで口出さないけど、職場にいるならもっと周りとコミュニケーション取りなさいってことよ」
 二人が口を揃えてそんなことを言うからには、足りていないと思われているのだろう。
「関わりがある奴とは会話しているつもりだがな」
「足りないのよ。思いを伝えたいならもっと言葉を紡ぎなさい」
「愛の告白じゃあるまいし、伝えたい思いなんてないさ」
 ルードの淡白な物言いにリイルは更に頬を膨らませる。
「まぁ、その辺にしておけ。どうだ、ルード。一人で訓練も退屈だろう? 一丁、俺の相手をしてみないか?」
「ボウト副隊長の……?」
 副隊長ボウトの実力は隊の中でも指折りだ。「訓練なんてする必要がない」なんて言われるルードでも一人で相手にするのは困難だろう。
 普段なら「俺は一人で訓練するからいいです」と言い切り断わるところだが、先ほど二人から注意されたばかりだ。ここは相手をするしかないだろう。
「わかりました。お相手します」
「よぉし。やるからには手加減しないからな!」
 ボウトは自慢のハルバードを振り回し、意気揚々と訓練場の中央へ歩いていく。
「リイル、離れていろ。危ないぞ」
「言われなくてもそうするわよ」
 リイルは闘技場の端へ移動した。
 ルードもボウトの後に続き歩いていく。
「よし。ここらでいいだろう。ルード、準備はいいか?」
「……いつでも」
「いい度胸だ。行くぞっ!!」
 ウォーミングアップをしていて正解だった。
 初撃から容赦のない一撃がルードに見舞われる。
「っ!!」
 鋼鉄の剣をかざしてそれを防ぐ。
 ガキン、と金属のぶつかり合う甲高い音が闘技場に響いた。
 その轟音が検査の終わった隊員たちの目を引いた。
「おいおい、検査後だって言うのにもうあんな激しい訓練してるのか?」
「ボウト副隊長と……、ルード!?」
 検査を終えた騎士やそのサポート部隊のスタッフたちが続々と集まってきた。
 魔女討伐部隊イクサスはそれほどの大所帯ではないが、それなりに騎士やその見習いは存在する。
 検査後は激しい訓練は禁止されているが、自主訓練は禁止されていない。イクサスの中でも豪腕で名を轟かせるボウトと滅多に他人と訓練しないルードが訓練を行っているのが珍しいのだろう。
「あーあ、野次馬が集まってきちゃった……」
 リイルはふぅ、とため息をついて二人の勝負の行く末を見守る。
「何? リイルはそんなに二人の勝負を独り占めしたかったの?」
 いつの間に現れたのか、ラクトが許可も取らずに隣に座る。
「そんなんじゃないわよ。またアイツが奇異な目で見られるようになるのが嫌なだけよ」
「あれ? リイルってルードのこと嫌いじゃなかったっけ?」
「好きとか嫌いとかそんな感情ないわよ」
 リイルは疎ましそうにルードの背中を見つめる。
 ラクトは「ふぅん」とつぶやいて、彼女に興味を失ったように二人の応援を始めた。
 槍と剣の激しい打ち合いが続く。
「俺のハルバードを防ぐなんて、さすがだな。ルード」
「ボウトさんほどじゃない」
 ルードは手のひらにしびれるような痛みを感じながら、ハルバードを受け止める。
「そら、次々行くぞ!」
 ボウトのハルバードが唸りを上げた。
 ムチのようにしなって自在にその攻め方を変え、切っ先に付けられた刃は鉛のように重い一撃を生み出す。その上、ボウトの魔術である「肉体の強化」と「破壊力の強化」は岩を砕き、鉄を切り裂くほどの威力を生み出す。並みの騎士ではそれを受けきれることなど到底できない。
「ぐっ! くっ!」
 ルードは歯を食いしばり、それをしのいだ。
「凄まじいな。さすが『鬼騎兵』ボウト副隊長」
「『魔女殺し』もアレの前じゃ形無しか……」
 外野の騎士たちから感嘆の声が漏れる。
 ボウトの相手を出来る騎士など、隊の中でもごくわずかだ。それをルードのような若い騎士がやるなど到底考えられない。
 本来であれば、魔術、科学の一切の恩恵を受けていないルードの剣など、ボウトの魔術と科学の粋を集めて作られたハルバードの前では、バターのように切り裂かれて一瞬で勝負が付いている。
 なぜ、そうならないのか。
「そらぁっ!」
「……っ!」
 その理由はルードの剣さばきにあった。ルードはハルバードの軌跡を読み、受け止めると同時に力を後ろにそらしていた。
 そのお陰でボウトの次の攻撃が遅れ、ルードはいち早く体勢を立て直して次の攻撃に備えられた。
 魔力を失って、その恩恵すらも受けられなくなったルードが並々ならぬ努力で得た剣の技術だった。
「魔女殺し、か……」
 ぽつりとリイルはつぶやく。幸いラクトには聞こえなかったようだが、それをルードが聞いたら何と言うか。
 それはルードが最も嫌う呼び名だ。
 あの無愛想な性格でこの剣技。対魔女との戦闘になれば、敵を追い詰める凄まじいまでの執着心から「殺し屋」なんて呼ぶ者もいる始末だ。
「どうした!? 防いでばかりでは話にならんぞ!」
 ボウトの攻撃はなおも続く。
 その「技術」を持ってしても、明らかにボウトの技量が上回っていた。
 ルードは防戦一方でなす術もなく、追い詰められていく。
(さすがに重い。これ以上は厳しいな)
 いくら受け流しても、あの強力な一撃を受けるたびに手はしびれてくる。
 それに身体能力強化、長期戦になれば不利なのはルードのほうだ。
(無理にでも接近して、一撃を叩き込むしかないか)
 今の間合いは明らかにルードに反撃を許さないボウトの間合いだ。
 受けてばかりでも埒が明かない。だが、抜け出して自分の間合いにすることができれば、反撃のチャンスを見出だせる。
 そう考えたルードはじっと目を凝らし、ボウトの隙を窺う。
「どうした? もう終わりか!?」
 ボウトがハルバードを大きく振りかぶった。
(今だっ!!)
 ルードは自分の外套を掴むと、それをボウトの前に投げつけた。
 闘技場が一瞬どよめく。
「何!?」
 ボウトが一瞬ひるんだ。
(一瞬の視界を奪えれば充分!)
 両手でハルバードを構えている以上、それを手で払うことも不可能。
 ならば、とばかりにボウトは振りかぶったハルバードを神速で振り下ろした。
 圧縮させた空気が真空波を生み出し、マントもろともルードを切り裂く。
「そう来ると思っていた!」
 ルードは鋼の剣を盾にして、突進をかける。
 ハルバードの刃が頬を掠めたが、構わず懐に入り込みボウトに斬撃を見舞った。
 甲高い金属音が鳴り響く。ルードの剣をボウトは分厚い篭手で防いだのだ。
 ボウトは苦悶の表情を浮かべた。
「くっ、とっさの起死回生の術としてはなかなかのものだ。だが、必殺の一撃を防がれるようではまだ甘いな!」
「まだだ!」
 すぐに剣を引いて剣撃を繰り出す。
 やっと自分の間合いに入ったのだ。ここで逃がすわけにはいかない。
「想像してないと思ったか?」
 ボウトはハルバードを短く握ってそれに応戦した。
 だが、間合いが違えばルードの剣が有利になる。
 ルードはここぞとばかりに高速で剣を振るった。
「あああああああああっ!」
 剣撃の雨あられとばかりに連続攻撃を加え、ボウトに反撃の隙を作らせない。
 形勢逆転とばかりに、ルードは一気に畳み掛けた。
 ふいに、ボウトの鎧に一撃入った。
「ぐっ!」
「終わりだ!」
 絶好の機会だ。これを逃せばもう勝ちはない。
 ルードは剣を振り上げて、渾身の一撃を放った。
「まだ甘い!」
「!?」
 大きく振りかぶった一撃はあっさりと避けられた。さらに強烈な足払いを喰らい、ルードは地面に転がった。
「俺が武器や魔術だけに頼った戦いをしていると思ったか?」
 ボウトは自分の間合いに戻し、片手でハルバードを担ぎあげる。
「ぐっ!」
 地面を転がり、体制を立て直そうとするが遅かった。
 眼前にハルバードの刃が落ちてきて、ザンッ、と地面に突き刺さった。
(刺さっていたのが俺の頭だったら確実に死んでいた……)
 ルードは戦意を喪失して剣を落とす。
「参りました」
「ふむ。まぁまぁだな。この俺を相手によくやったほうだ。奇襲、奇策もいいが、それに伴う基礎がなければそれも意味を成さんぞ? 覚えておけ」
 ボウトはそう言って、超重量級のハルバードを軽々と肩に担ぎなおした。
(まだまだ、実力が足りない)
 余裕の表情のボウトに対してルードは息を切らせと頬から滴る汗をぽたぽたと石畳に落としており、膝をついたまますぐに立ち上がれなかった。


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