赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第139話 旅の終わり

 アンナと魔王の戦いが終わり、しばらく経った。
 その間、魔王と各国王との話し合いや、式典など、アンナ達は様々なことに参加していた。

 人間と魔族との戦いが、和平という形で起こった反応は様々だ。それを受け入れている者もいれば、反発するものもいる。
 だが、アンナは信じていた。いつか、全ての人間と魔族がわかり合うということを。

 そんなアンナは、現在アストリオン王国にいた。
 そこには、ともに旅した仲間達も一緒である。

「さて、僕は自分の家に帰るよ」

 最初に口を開いたのは、教授だった。
 それに対して、アンナはある一つのことを思い出す。

「教授、王族なんですよね? いいんですか?」
「ああ、王族は僕の性にあっていないからね。それに、優秀な義弟が王になっているんだ。何も問題はないよ」

 教授は、アストリオン王国の王族だが、そこには戻らないらしい。
 確かに、教授に王族などは似合っていないだろう。
 故に、その決断は、アンナにも理解できるものだ。

「教授には、色々なことを教えてもらいましたね……」
「また僕の知識が必要になったら、頼ってくれ」
「はい……」

 教授の言葉に、アンナはゆっくりと頷く。
 教授の知識は、とても頼りになるものだ。アンナも、また頼ることがあるだろう。

「俺は、実家に帰ろうと思うよ」

 次に言葉を放ったのは、ネーレだった。
 彼女は、実家に帰るようだ。

「ネーレさん」
「ティリア……」
「お別れなんですね……」
「またすぐに会えるさ。俺は海賊の娘だぜ。ティリアの所くらい、船ですぐに行けるさ」

 寂しそうな顔をするティリアに、ネーレはそんな言葉をかけた。
 その言葉に、ティリアの表情は少しだけ明るくなる。
 アンナは、二人の間に只ならぬ空気が流れるのを感じていた。

「俺は、魔界に行く」
「兄さん……」

 そんな二人の空気を断ち切ったのは、ツヴァイの言葉だ。
 彼は、ティリアと歩まず、魔界に帰ることを選ぶらしい。

「人間と魔族の架け橋に、俺程相応しいものはいないからな。それに、魔王様直々の命令だ。無下にすることもできん……」
「それなら、私も……」
「いや、ティリア。お前は、故郷に帰れ。村に帰りたいんだろう?」
「そ、それは……」

 半人半魔ハーフであるツヴァイは、魔王から直々に人間と魔族の架け橋になることを頼まれていた。
 当然、ティリアもその条件は同じである。だが、ツヴァイはティリアを帰したかった。

「ネーレの言う通り、会おうと思えば、いつでも会えるのだ。何も問題はない」
「兄さん……」
「この俺のことを心配する必要などないのだ」

 なぜなら、ティリアが気を遣っているのだと、ツヴァイは理解していたからだ。
 本当は村に帰りたいのに、ツヴァイを一人にしないために、付いて来ようとしている。そう思うと、ティリアを連れて行きたいとは、思えなかったのだ。

「でも、兄さんにだけ使命を背負わせるのは……」
「お前には別の使命があるだろう? 戦いで傷ついた人々は、聖女の噂を聞きつけ、あの村に行く。そこに、お前がいなければどうなる?」
「……はい、そうですよね」

 ツヴァイの言葉を、ティリアは受け入れた。
 ティリアは、レミレアやウィンダルス王から、聖女を求めて、カルモの村に訪れる人がまだいると聞いている。
 その人達のためにも、ティリアは村に戻らなければならないのだ。そして、それは、ティリアの望みでもある。

「……それに、ともに魔界に帰る奴がいるからな」

 そこで、ツヴァイは自身の後ろにいる者へと目を向けた。
 目を向けられて、ガルスはゆっくりと口を開く。

「まあ、そうだが、俺はいつまでも魔界にいるつもりはないぞ」
「え? ガルス、どこかに行くの?」

 ガルスの言葉に、アンナは疑問を口にする。
 てっきり、ガルスは魔界で暮らすと思っていたからだ。

「ああ、実は魔族が人間の町へと住む文化交流というものがあってな。それに参加しようと思っているのだ」
「ああ、そういえば、そんなのがあるんだってね」
「この戦いで、俺もかなり衰えたからな。これ以上、厳しい仕事をするつもりはない。辺境の町で、若い者でも見ながら、ゆっくりとさせてもらうさ」
「そうなんだ。それは、よさそうだね」

 ガルスは、人間の町で暮らすことになるらしい。
 アンナは、ガルスの選択を少し嬉しく思った。
 ガルスのような魔族がいれば、人間と魔族の文化交流も上手くいくと感じたからだ。

「只でさえ、生き残った魔将は少ないのに隠居みたいなことを言うな。魔王様も、お前を側に置きたいと言っているのだぞ」
「お前に、シャドー、それにドレイクがいれば、充分だろう。それに、他にも誰かいるだろう?」
「まったく……」

 ガルスに対して、ツヴァイは苦言を放った。
 だが、ガルスの決断は変わらないようだ。

「それより、お前達はどうするんだ?」
「私とお姉ちゃんは、家に帰ります」
「そこで、しばらくはゆっくりとしようかなって……」
「そうか、お前達には、それが一番の褒美か……」

 ガルスに言葉に、アンナとカルーナは笑う。
 二人は故郷に帰り、しばらくはそこで過ごすことに決めた。
 そこれこそが、二人が真に望んだことである。

 それからしばらく、皆は色々な言葉を交わし合った。
 その後、各々の帰路に進んで行く。涙も笑いもあったが、皆迷いはない。
 次の再会を信じて、皆歩き出すのだ。





 アンナとカルーナは、ウィンダルス王国のとある町から少し離れた場所に来ていた。
 そこには、二人の家がある。アンナの叔母であるソテアと叔父であるグラインには、事前に伝えてあるので、二人を待っていてくれているはずだ。
 ただ、ここで一つ問題があった。

「……どうしよう? 私達、そういう関係になった訳だけど……」
「それは、素直に言うしかないんじゃない?」
「で、でも……」

 アンナとカルーナは色々あって、恋人になった。
 それを二人に伝えるのが、アンナには恐怖でしかない。

「それに、お父さんは私がお姉ちゃんのこと、そういう意味で好きだって、気づいていたと思うから、喜んでくれると思うよ」
「え? そうだったの?」
「うん。お母さんも、多分大丈夫。なんだかんだで、受け入れるだろうし、いざとなったら、お父さんに説得してもらえばいいよ」

 そんなアンナに対して、カルーナははっきりしていた。
 その頼もしさに、アンナは少し勇気が湧いてくる。

「そうだよね。それなら、行かないと……」
「うん。これから、お姉ちゃんと仲良くできなかった分の年数、全部取り返すくらいイチャイチャしたいから、こういうことは早くはっきりとさせときたいしね」
「カルーナ……」

 カルーナの笑顔に、アンナも笑顔になった。
 アンナは、その笑顔のために戦ってきたのだ。
 ゆっくりと、アンナはカルーナの顔に近づいていく。

「ん……」
「んん」

 アンナとカルーナは、唇を重ねた。
 それは、少しの間続き、やがて離れる。

「よし、勇気はもらった」
「うん。これで、大丈夫だね?」

 二人は、ゆっくりと歩き始めた。
 それは、二人の未来への歩みだ。



 おわり。

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