赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第128話 魔王

 ネーレと教授は、影魔将シャドーが生み出した影と戦っていた。

「大分数は減らせてきたな……」
「ああ、そのようだね……」

 影の戦闘力自体は、大したものではない。
 そのため、ネーレと教授は特に問題なく、影を倒せている。
 だが、教授はそこで、違和感のようなものを感じていた。

「しかし、この影達……闘気でも魔力でもなさそうだ」
「うん? どういうことだ?」
「ああ、魔族の中には、特殊な能力を持つ種族もあるというが……これは……」
「なんだよ? 教授?」
「シャドーという男には、気をつけなければならないだろう。最も、ここで言っても無駄だとは思うが……」

 教授は、影達に対して、言い知れぬ恐怖を感じるのだった。





 アンナ達は、ツヴァイ、ネーレ、教授と別れて、魔王城の中を進んでいた。

「ガルス、この先は?」
「ああ、もうすぐ魔王と謁見する玉座の間に辿り着く」
「それじゃあ、もしかして、そこに魔王が……?」
「そうだろうな……俺達が来ていることはわかっているはずだ。待ち構えているなら、そこだろうな……」

 どうやら、次の階で、魔王が待ち構えている可能性が高いようだ。
 アンナ達は、気を引き締めて、足を進める。
 すると、扉が見えてきた。

「あれが、玉座の間だ……」
「なるほどね……」

 それが、玉座の間であるようだ。

「皆、行こう!」
「うん!」
「はい!」
「ああ」

 扉の前まで来て、アンナはそれを開け放つ。
 そこに、迷いや躊躇いはなかった。皆、既に覚悟は決まっているのだ。

「……あれが」

 部屋の奥にカーテンに隠された大きな椅子があった。
 そこに座る大きな影、その影が魔王であると、アンナは理解する。

「……来たか」

 影は、静かだが力強い声を放ってきた。
 影しか見えないが、そこからは強い力が感じられる。
 相手が、かなりの実力者であると、アンナは改めて理解するのだった。

「……お前が、魔王か?」

 アンナは、魔王らしき者に対して、ゆっくりと口を開く。

「……そうだ。私こそが魔王……」

 その質問に、魔王はゆっくりと答えてきた。
 やはり、この男が魔王であるようだ。

「貴様らが、ここまで来られたことは褒めてやる……だが、貴様らでは私を倒すことはできない……」
「なっ……」

 魔王は、ゆっくりと立ち上がった。
 どうやら、戦いが始まるようだ。

「待て……」

 アンナ達がそう思い、構えた時だった。
 玉座の間に、ある声が響いたのだ。
 それが、影魔将シャドーの声だと、アンナ達はすぐに理解する。

「シャドー……」
「もういい……」

 シャドーは、アンナ達の前に立ちながら、そう言った。
 その言葉が、何を意味するのか、アンナ達は理解できない。

「もうよいのだ、シャドーよ。その演技の必要は、最早なくなった」
「しかし……」
「これは、操魔将オーデットを欺くための措置だ。奴はもういない。それに、そのままではお前も全力で戦えまい?」
「それは……」

 そこで、会話の様子がおかしいことにアンナ達も気づいた。
 シャドーが魔王に対して、上から物を言っているのだ。
 まるで、立場が逆であるかのようである。

「……お前達を欺く必要も、ないだろう」
「なっ……!」

 シャドーは、ローブを脱ぎ放った。
 すると、中から若い男が現れる。その姿は人間に似ていたが、角や体の模様が、魔族であるということを表していた。
 その姿は、どの魔族にも属さないものだ。強いて言うなら、オーデットに似ている。

「まさか……」

 その事実に、アンナは思わず声をあげた。
 シャドーの正体が、何者であるか、勘づいてしまったのだ。
 それを察してか、シャドーはゆっくりと口を開く。

「そう……影魔将シャドーとは、仮の姿……我こそが、真の魔王……」
「魔王……!」

 どうやら、影魔将シャドーの正体が魔王であったようだ。
 そうすると、アンナ達の前にいた影の正体もわかる。

「そして、私こそが真の影魔将シャドー……」

 カーテンの奥から、真っ黒な男が現れた。
 その男が、影魔将シャドーであるようだ。
 つまり、二人は入れ替わっていたらしい。

「何故、こんなことを……?」
「全ては、操魔将オーデットを欺くためだ。故に、俺とシャドーは入れ替わって行動していた……」
「私が魔王様として振る舞うことで、いざという時、対応できるようにしておいたのだ……」

 アンナの質問に、二人はそう答えてきた。
 アンナ達とは、あまり関係がないところで、そうするべき理由があったらしい。

「だが、もう問題はない……」
「うっ!」
「お姉ちゃん!?」

 そこで、アンナの体に変化が起こった。
 魔王の元に、引き寄せられたのだ。

「勇者、お前の相手は俺だ。最上階で、決着をつけてやる……」
「くっ!」
「お姉ちゃん!」

 引き寄せられるアンナにカルーナが抱き着く。
 しかし、カルーナの力では対抗できず、二人とも引き寄せられてしまう。

「勇者の妹か……よかろう! お前達二人とも、俺が倒してやる! シャドー!」
「はっ!」

 魔王に引き寄せられ、アンナ達は連れされていく。
 それを邪魔しようとしていたガルスの元へ、シャドーがやってくる。

「邪魔はさせんぞ!」
「むっ!?」

 ガルスがシャドーに怯んでいる内に、アンナ達は連れさられてしまった。
 その場に残ったのは、ガルス、ティリア、シャドーの三人だ。

「貴様達二人の相手は、私だ」
「お前がシャドーか……」
「その通り……!」

 ガルスとシャドーは、お互いに構えた。
 そこで、ガルスはティリアの方を少し見る。

「ティリア、下がっていろ。いざという時は、サポートを頼む」
「あ、はい……」

 ガルスの言葉に従い、ティリアは少し下がり待機した。
 魔法でのサポートができるように、ティリアも構えておく。
 二人と影魔将シャドーとの戦いが始まろうとしていた。

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