第125話 影魔将シャドー

　アンナと教授は、操魔将オーデットと対峙していた。
　連続攻撃によって、オーデットにほとんど勝利していたアンナ達の前に、新たなる敵が現れてしまったのだ。
　その男は、影魔将シャドー。突如現れた魔将は体から黒い刃を生やし、貫いたのだった。
　その様子に、アンナも教授も驚くことしかできないでいる。

「お姉ちゃん！」
「カルーナ、皆！？」

　そんなアンナ達の後ろから、カルーナ達が現れた。皆、それぞれの敵を倒してきたのだ。

「む？　まさか……」
「影魔将、シャドー……！？」

　その中で、ガルスとツヴァイが、シャドーに反応した。
　二人にとっては、元同僚であるため、それも当然だ。

「ガルスに……ツヴァイか……」

　シャドーの方も、二人に反応した。
　やはり、元仲間故、色々と思うところがあるようだ。

「ぐぬぬ……」

　そんな中、オーデットが声をあげた。
　アンナとシャドーの攻撃を受け続けても、まだ生きていたらしい。
　オーデットは、シャドーの方を見ながら、ゆっくりと口を開く。

「なんのつもりだ、シャドー……」
「……なんのつもり？　何を言っている？　お前が今までやってきたことを思い出せ……」
「ぐぬうっ！？」

　シャドーは、オーデットから刃を引き抜く。
　表情は見えないが、その視線は、侮蔑に満ちているように、アンナ達は思った。

「俺が知らないとでも思ったか？　お前が常に、魔王様の地位を狙っていたことを」
「ぐぬ……」
「さらに、今回の魔王軍襲撃……その行為は万死に値する……」

　シャドーは、オーデットの体を黒い刃で持ち上げる。
　それに対して、オーデットは体を動かし抵抗していた。

「ぐぬぬ、あやつのような軟弱なものに、魔王が務まる訳もない！　このわしが、奴の地位に就けば、人間などとっくに滅ぼしているというのに……」
「勇者に負け、そのような無様な姿となったお前には、言われたくはないものだ……」
「ぐぬっ！」

　オーデットが、地面に叩きつけられる。
　どうやら、シャドーも相当頭にきているようだ。散々自身の軍を荒らされたため、それも当然だろう。

「……終わらせてやる」
「ぐ……」
「ふん！」
「がはっ！」

　オーデットの体に、数本の刃が突き刺さる。
　その攻撃により、オーデットは力を失っていく。どうやら、力尽きたようだ。

「さて……」

　シャドーは、そんなオーデットに目もくれず、アンナ達の方に向いてきた。

「多勢に無勢か……」

　状況だけ見れば、アンナ達は全員集合であり、シャドーは一人。
　つまり、アンナ達が圧倒的に有利という訳である。

「少し、時間を稼がせてもらうか……」

　そこで、シャドーは腕を振るった。
　すると、アンナ達の前に黒い影のようなものが現れる。その影は、一体や二体ではない。

「少しの間、そいつらと遊んでいろ……」

　それだけ言って、シャドーは去っていく。
　アンナ達の前には、影のような者達が漂い続けている。

「シャア……」
「シュー……」
「シェア……」

　影達が、ゆっくりと動き始めた。
　その体を各々武器に変え、アンナ達に向かって来る。

「くっ……！」

　それに対して、アンナはゆっくりと聖剣を構えた。

「待て、アンナ」

　そんなアンナに対して、教授が声をかけてくる。
　出鼻をくじかれ、アンナは少し困惑してしまう。

「教授、なんですか？」
「このまま、こいつらと全員で戦うのは得策ではない。時間と体力を消費するだけだろう」
「それは……そうですが……」

　教授の言葉は、アンナにも理解できた。
　だが、目の前にいる敵を倒さなければ、進むことができない。

「そこで、この敵は僕が引き受けよう……」
「え？」
「君は、先に進むんだ。正直、僕の魔力はかなり消費してしまったから、この先の戦いで、そこまで役に立てないだろうからね……」
「教授……」

　どうやら、教授はアンナ達のために、この敵を引き受けてくれるようだ。
　確かに、教授は消滅呪文フレアを何度か放ち、オーデットに対抗するために色々とやったため、かなりの魔力を消費しているだろう。
　ただ、それはこの戦いの時点で危険であるということだ。

「でも、教授、魔力がないなら、ここで戦うのも……」
「なら、俺が残るか……」
「ネーレ」

　アンナの心配に対して答えたのは、ネーレだった。
　彼女も、ここに残るつもりらしい。

「この中で一番弱いのは俺だ。それなら、俺が残ればいいだろう？」
「そ、それなら、ネーレさんより、私が……」
「ティリアには、回復魔法があるだろ。この先、俺よりも役に立つはずだ」
「ネーレさん……」
「だから、ここは俺がいい」

　ネーレに対して、ティリアが言葉をかけたが、そのように返されてしまった。
　その言葉に、ティリアは何も言えなくなる。ネーレの言葉の意味を、よく理解したからだ。

「教授、いいよな？」
「ふむ、それはありがたい。僕も一人でこいつらを引き付けるのは骨が折れそうだったからね……」
「二人とも……わかった。よろしく頼むよ」

　教授もネーレの言葉に賛同したため、二人には影達を引き付けてもらうことになった。
　話している間にも、影は迫ってきている。すぐに、行動に移さなければならないだろう。

「いくぞ！」
「シャア！？」

　ネーレは、黒い影に向かって鉄線を放った。
　その鉄線で、数体黒い影の動きが止まる。

「麻痺呪文パラライズ！」
「シュア！？」

　さらに、教授の魔法で、動きが止まっていく。
　その隙に、アンナ達は駆け出した。

「教授、ネーレ、任せたよ！」
「お二人とも、どうかご無事で……」
「ああ、任せろ！」
「君達も、頑張ってくれたまえ……」

　二人に声をかけて、残る五人は駆けて行く。
　目指すは、次の階。

　こうして、アンナ達は別れた行動することになるのだった。