赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第121話 再生ウォーレンス

 ガルスは、魔王城の一室に来ていた。
 これは、オーデットが操る魔将の屍、屍人形デス・マリオネットが放った魔法の筒マジック・ポットによって、部屋を移動したからである。

「ガルル……」
「なるほどな……」

 ガルスの前には、ある魔将の屍人形デス・マリオネットがいた。
 その魔将は、狼魔将ウォーレンス。ガルスを罠に嵌めた後、アストリオン王国でアンナに負けて逃げ出した魔将だ。

「ガルル!」
「来るか!」

 ガルスに向かって、ウォーレンスが駆けて来た。
 その速度は、凄まじい。ガルスでも、咄嗟に防御するので精一杯だ。

「ガル!」
「くっ……!」

 ウォーレンスの一撃によって、ガルスの体が後退した。
 その爪による攻撃の威力も、かなりのものである。

「これは……」

 ガルスは、その攻撃力に驚いていた。
 なぜなら、以前までのウォーレンスは、これ程の戦闘能力を持っていなかったからだ。

 ウォーレンスは、魔将になってから、己の保身を考えるあまり、卑劣な戦術に頼るような男だった。

 だが、単純に自身の体だけで戦っている今の方が、ガルスにとってはかなり厄介だ。
 魔将一と呼ばれる速度と、獣人故の身体能力、それが噛み合い、驚異的な力となっているのである。

「その力を普通に振るっていれば、お前もこのような姿にならなかっただろうな……」
「ガル!」
「……無駄なことか」

 後退したガルスに、ウォーレンスが飛び掛かって来た。
 それに対して、ガルスは足を振るう。

竜人脚リザード・レッグ!」
「ガルル!?」

 飛び掛かって来たウォーレンスに、ガルスの足が突き刺さる。
 その衝撃により、ウォーレンスの体が大きく吹き飛ぶ。
 ガルスは、それを追って駆け出していく。

竜人拳リザード・ナックル!」
「ガル!?」

 ガルスの拳が、ウォーレンスに振るわれた。
 その一撃によって、ウォーレンスの体が大きな音をあげる。

「ふん!」

 ガルスは拳を大きく回し、ウォーレンスの体を上へとあげた。
 さらに、自身もそれを追って、飛び上がっていく。
 一瞬の連撃に、ウォーレンスは何も抵抗してこない。

「ガル!?」
「さあ、いくぞ!」

 ガルスは、空中でウォーレンスの体を捕らえ、そのまま上へと向かう。
 行き先は、天井である。

ラバーサル・竜人落としドラゴン・ドロップ!」
「ガルル!?」

 ウォーレンスの頭が、天井に叩きつけられた。
 大きな音ともに、ウォーレンスの体が破壊される。
 ガルスの攻撃は、さらに続く。

「ふん!」
「ガル!?」

 ガルスは、空中でウォーレンスの体を回転させ、その頭を地面に向ける。
 さらに、その体を捕らえて、落下していく。

竜人落としドラゴン・ドロップ!」
「ガルル!?」
「ふん!」

 ウォーレンスの頭が、床にぶつかり、大きな音をあげた。
 ガルスは、ウォーレンスの拘束を解き、一度距離をとる。

「ガルル……」

 ウォーレンスは、なんとか態勢を立て直したようだ。
 以前までのウォーレンスなら、この攻撃で勝利することができたはずである。
 それでも立ち上がってくるのは、既に屍であるからだろう。

「ガルッ!」

 ウォーレンスは、床を大きく蹴り、ガルスに向かってきた。
 その爪を構え、大きく振るってくる。

「これは……!?」

 ガルスは理解した。
 それが、狼魔奥義狼重連撃ウルフ・ラッシュであるということを。
 これこそが、ウォーレンスの持つ最強の技である。

「くっ!」
「ガル!」
「ぐっ!」
「ガル!」

 ウォーレンスの連撃を、ガルスはなんとか防いでいく。
 その攻撃は、ガルスでも追い付くのが難しい。

「ガル!」
「ふん!」

 しかし、それでもガルスは全てを防ぎ切った。
 かなり危険だったが、それでもガルスには届かなかったのだ。

「哀れな奴だ……傀儡になってからの方が、真価を発揮できるとは……」
「ガル……」
「そこまで鍛え上げられた体を信じられなかったのが、お前の駄目な所だったのだろうな……」

 ガルスは、悲しみを覚えていた。
 かつてのウォーレンスが、その力を信じて、正々堂々戦っていたなら、いい戦士になっていたと思ったからだ。
 そして、オーデットの傀儡となって、初めてその力を振るえるなど、哀れでならなかった。

「この技は、魔族を捨ててから使わんと決めていたが、お前のせめてもの手向けだ……」
「ガル!」
「俺の持つ最強の闘気で、お前を冥府に追い返してやる……」

 ガルスは、ウォーレンスを弾き飛ばし、右腕を大きく回転させる。
 すると、ガルスの持つ闘気が渦巻となって、放たれていく。
 その技は、ガルスが捨てたはずの魔将としての技であった。

「竜魔奥義! 竜人旋風撃ドラゴン・サイクロン!」
「ガルル!?」

 ウォーレンスの体が、闘気の渦によって引き裂かれていく。
 さらに、その回転によって、ウォーレンスは床に押さえつけられる。
 そのまま、闘気の回転により、背中がどんどんと切り裂かれていく。

「ガルルルルル!」

 ウォーレンスの体から、鮮血が迸る。
 闘気の回転によって、ウォーレンスはその場から逃げることもできない。
 一度当たれば、相手の動きを封じて破壊する。それが、ガルスの持つ奥義の力なのだ。

「ガルル……」

 闘気の渦が、だんだんと弱まっていく。
 ウォーレンスの体は、かなり引き裂かれており、その体からは力が抜けていた。
 恐らく、もう動くことはないだろう。

『俺が、お前に……』
「む?」

 その時、ガルスの耳に声が聞こえてきた。
 それは、狼魔将ウォーレンスの声だ。

『くそっ! 死んでも哀れだ……』
「ふん……」

 ウォーレンスの言葉は、それだけだった。
 ガルスは、ゆっくりと歩き始める。
 未だ、他の仲間は戦っているはずだ。故に、ガルスはそこに向かわなければならない。
 こうして、ガルスとウォーレンスの戦いは終わるのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品