赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第120話 再生フロウ

 ティリアとネーレは、魔王城の一室に来ていた。
 これは、オーデットが操る魔将の屍、屍人形デス・マリオネットが放った魔法の筒マジック・ポットによって、部屋を移動したからである。

「シャアア……」
「こ、これは……」
「ああ、こいつは……」

 二人の前には、ある魔将の屍人形デス・マリオネットがいる。
 その魔将は、水魔将フロウ。ティリアとネーレが分身と戦った魔将だ。

「ティリア! 下がっていろ!」
「い、いえ、私も戦います!」

 ネーレは、ティリアを自身の後ろに下がってもらおうとしたが、それは受け入れられなかった。
 ティリアは、手を前に構え、魔力を集中させる。

「シャアア!」
「来る! ティリア、それならサポートよろしく!」
「はい!」

 二人がそんなことを話している内に、フロウが迫って来ていた。
 ネーレは、ティリアのことは置いておいて、とりあえず前に出る。
 短剣を構え、フロウを迎え撃つためだ。

「シャアッ!」
「くっ!」

 フロウの攻撃を、ネーレが受け止める。
 その攻撃により、ネーレの体が少し後退していく。

「ネーレさん!?」
「問題ないさ!」

 ティリアが叫んだが、ネーレはまったく平気そうだ。

「シャアッ!?」
「あ、あれは!?」

 そこで、ティリアは気づいた。短剣に、鉄線がついていることに。
 ネーレは、それをフロウの首を絞めるように回していたのである。

「このまま、切り裂いてやる!」
「シャアア!」

 ネーレは、鉄線に力を込め、フロウの首を絞めつけた。
 鉄線は、フロウの首にどんどんと食い込んでいく。
 このまま、首を捩じ切るつもりなのだ。

「多彩な技を使うのが、水魔将の強みだった。それを捨てて突っ込んでくるなんて、全然わかっていないな!」
「シャア!?」
「……これは!?」

 そこで、フロウが動いた。
 その手から、水滴を飛ばしてきたのだ。
 それは、刃の形となって、ネーレに迫って来た。
 二人は知らないが、それは水魔奥義三日月の水撃クレッセント・ブルーである。

「くっ!」
「ネーレさん!」
「シャアア!」

 その刃は、ネーレの体を斬り裂いていく。
 それにより、ネーレの締め付ける力が弱まってしまう。
 さらに、ネーレの体から、鮮血が迸る。

「このくらい……」
「シャア!?」

 しかし、ネーレは再び鉄線に力を込めていく。
 水魔将の攻撃に、耐え切っていたのだ。

「以前までの俺じゃないんだ。これくらいで、倒れる訳にはいかないんだよ……」

 ネーレの力は、以前水魔将と戦った時より上がっていた。
 そのため、一撃に耐えられたのだ。

回復呪文ヒール!」
「よし……」

 ネーレが耐えられた理由は、もう一つあった。
 それは、傷を負った瞬間から、ティリアが回復魔法をかけてくれていたからだ。
 これにより、ネーレは力を取り戻し、フロウの首を絞められたのである。

「この手は、離さないぜ……せっかく、つかめたんだからなあ!」
「シャアア!」

 フロウの手から、二撃目の水撃が放たれた。
 ネーレは、その場から動かず、それを受け止める。

「くっ!」
回復呪文ヒール!」

 次の瞬間、ティリアの回復魔法が放たれた。
 その回復魔法と、気合によって、ネーレの力は弱まらない。

「シャアア!」

 フロウは、さらに水の刃を飛ばしてきた。
 ネーレの体が、次々と水の刃で引き裂かれていく。

「ぐわああっ!」
「ネーレさん!? 無茶を! 回復呪文ヒール!」

 ネーレの体から、鮮血が噴き出す前に、ティリアの回復魔法が放たれる。
 それにより、ネーレの体は回復していく。
 その光景を見て、フロウはさらに腕を振るう。

「シャア!」
「ふっ……」
「シャア!?」

 しかし、フロウの水撃はネーレに飛んでこなかった。
 その事実に、フロウはかなり驚いているように見える。

「はっ! オーデットも馬鹿だよなあ。水魔将フロウが、最大限に力を振るえるのは、水の周りだっていうのに、こんな水のない所で戦わせるなんて……」
「あっ……!」

 ネーレの言葉に、ティリアも気づくことになった。
 この魔王城の一室は、何もないただの個室である。一方、前に水魔将フロウと戦った時は、周りが浸水しており、潤沢に水がある場所だった。
 フロウは、周りの水を駆使して、アンナ達を苦しめたが、今はそれがないのだ。そのため、息切れするのは、時間の問題だったのだ。

「ネーレさん……これを狙って……」
「ああ、滅茶苦茶痛かったが、これしか勝つ方法が思いつかなかったんでね……」
「シャア!?」

 ネーレは手に持つ鉄線の締め付けを強くする。
 その鉄線は、どんどんとフロウの首を絞めつけて、食い込んでいく。

「後は、これでいい!」
「シャアア……!」

 その瞬間、フロウの首が切断された。
 ネーレの鉄線が、その首を切り裂いたのである。

『まさか、お前達にやられるとはな……』
「え?」
「なんだ? これは?」

 その時、二人の耳に声が聞こえてきた。
 この声は、水魔将フロウである。

『せっかくだから、教えておこう。拙者の本体を殺したのは、オーデットだ。これは、墓場に持って行きたいことではないのでな……』
「え? そうだったんですか……」
「フロウ……お前……」
『そのため、お前達がオーデットに勝つことは何も思っていない。ただ、魔王様は倒されないだろう……だが、この場の感謝だけはしておこう……』

 その言葉を最後に、フロウの声は聞こえてこなかった。
 それが、なんだったのか、二人にはわからない。
 そんな中、二人は顔を見合わせる。

「なんだか、不思議な出来事でしたね……」
「ああ、ただ、勝ったのは確かだ……」
「でも、ネーレさん、無茶しすぎですよ……」
「ま、まあ、そうだったか。でも、ティリアを守りたかったし、手段は選べないからな」
「ネ、ネーレさん……もう」

 二人はそう話しながら、歩き始めた。
 戦いは、まだ終わっていない。
 他の仲間が、戦っているのだ。二人も、そこに向かわなければならない。

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