赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第111話 聖なる竜

 アンナ達は、海魔団及び海魔将タイラーンと対峙していた。

「お姉ちゃん、次はどうしよう?」
「うん、追撃をしたい所なんだけど、どうしようか」

 アンナの一撃によって、タイラーンは後退している。
 そこに、追撃を加えたいアンナは、どのように攻撃するかを考えているのだ。

「……そうだ!」
「お姉ちゃん?」
「この指輪を使おう!」

 そこで、アンナは、レミレアから渡された聖なる指輪セイント・リングの存在を思い出す。
 その指輪は、かつての勇者が使っていたものだ。

「でも、その指輪にどんな力があるの?」
「この指輪をした時、わかったんだ。この指輪には、あるものを呼び覚ます力があるって……」
「あるもの?」
「うん、それは恐らく、タイラーンにも対抗できるものだ……」

 アンナは他の者から距離をとり、手を前に出す。
 さらに、指輪に聖なる光を集中させていく。
 その瞬間、アンナは理解できた。
 指輪の力が、呼び覚まされていることを。

「目覚めよ……聖なる竜よ!」

 アンナの呼びかけとともに、指輪が光り輝いた。
 その光は、周囲にいる者達の視界を奪っていく。
 ただ、その場にいる全ての者は理解していた。
 強大な力を持つ生物が、ここに降臨しているということを。

「……フルル」

 アンナ達の視界が戻ってきた。
 すると、目の前にトカゲに似た生物が現れたのが確認できる。
 その生物は、大きな体から翼を生やしており、聖なる光のような色をしていた。

「聖竜……」
「フルル……」

 その名は、聖竜。
 アンナの呼びかけに応えて現れた、究極の生物である。

「お姉ちゃん……」

 聖竜の登場に、周囲の者達は騒めいた。
 カルーナは、聖竜に近づいていくアンナに声をかける。
 アンナのことが、心配だったのだ。

「大丈夫……」
「あっ……」

 しかし、アンナの言葉で、カルーナも理解する。
 その巨大な竜が、味方であるということを。

「フルル」
「ああ、ありがとう」

 その証拠に、聖竜はその頭を下し、アンナを待っていた。
 アンナは、そんな聖竜を一度撫でた後、その頭に乗り込む。
 聖竜は、アンナを落とさないように頭を上げ、タイラーンの方を向く。

「なっ……なんだ、これは!?」

 流石の海魔将も、聖竜の登場には驚いているようだ。
 そんなタイラーンを気にも止めず、アンナは聖竜に指示を出す。

聖なる吐息セイント・ブレス……」
「ガアアアアアアア!」

 アンナの言葉に、聖竜は大きく口を開けた。
 次の瞬間、その口から光の球体が放たれる。

「くっ!」

 タイラーンは銛を回転させ、その球体を打ち消した。
 だが、その隙にアンナと聖竜は接近していく。
 聖竜のおかげで、アンナは機動力を得たのだ。

「タ、タイラーン様をお守りしろ!」
「う、撃て!」

 すると、海魔団の団員達が、アンナ達に向かって水を発射してきた。
 それに対して、アンナは新たな合図を出す。

聖なる風セイント・ウィンド!」
「ガアアアアア!」

 アンナの言葉で、聖竜は翼をはためかせる。

「ぐわああああ!」
「ぎゃああああ!」

 その衝撃により、水は弾け散り、団員達も吹き飛ばされていく。
 衝撃に耐えられたのは、タイラーンだけだ。

「いくぞ!」
「くっ! 三つの衝撃波トライデント・ショット!」

 タイラーンの銛から、三つの属性の攻撃が放たれた。

「無駄だ!」

 だが、その攻撃も聖竜の羽ばたきによって、かき消されていく。
 アンナ達を遮るものは、何もなくなっていた。

「タイラーン! 喰らえ!」
「ガアアア!」
「くっ!?」

 そこで、アンナは聖竜の上で飛び上がる。
 それに合わせて、聖竜は高度を少し下げて飛行していく。
 上にはアンナ、下には聖竜という脅威に、タイラーンの動きが一瞬だけ止まる。

「はああああっ!」
「ガアアアアッ!」

 その隙を、アンナと聖竜は見逃さない。
 聖剣による上からの攻撃と、聖竜の爪による下からの攻撃。
 二つの攻撃が重なり合い、タイラーンを襲おう。

二つの聖撃ツイン・セイント!」
「ガアアアア!」
「ぐわああああっ!」

 二つの攻撃が、タイラーンの体を斬り裂いた。
 聖竜は落ちてくるアンナを拾いながら、その身を翻し、船の方に戻っていく。

「があああああああっ!」

 タイラーンの体からは、鮮血が噴き出しており、その血は止まらなかった。

「ぐうううっ……」

 そして、タイラーンからだんだんと力が抜けていく。
 それに合わせて、その体がゆっくりと沈んでいくのを、アンナ達は認識した。

「えっ!」

 その瞬間、聖なる指輪セイント・リングが再び光り始める。

「クルル……」
「聖竜!? くっ!」

 それと同時に、聖竜の姿が消えていく。
 アンナは咄嗟に、飛び退き、船の上に戻る。
 その時には既に聖竜の姿は消えていた。

「聖竜……ありがとう。ゆっくり、休んでくれ……」

 アンナはそう言い、海の方を見る。

「タイラーン……」

 そこには、タイラーンが沈んでいく様子が見えた。
 その体に、力は宿っていないようだ。
 海魔将タイラーンは、アンナの新たなる仲間によって、沈められたのだった。

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