赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第109話 海戦に向けて

 王と女王を含めた作戦会議も終わり、アンナ達は船に乗り込もうとしていた。

「アンナよ!」

 そこで、アンナはある人に呼び止められる。
 その人物は、エスラティオ王国女王のレミレアだ。

「女王様、どうしたんですか?」
「そなたに、渡しておきたいものがあってな」
「渡しておきたいもの……?」

 レミレアはそう言い、懐から小さな箱を取り出した。
 そして、アンナにそれを渡してくる。

「これは……?」
「開けてみるといい」

 レミレアに言われ、アンナは小箱を開けてみる。

「……指輪、ですか?」

 その中には、指輪が入っていた。
 輝かし色をした、綺麗な指輪だ。
 だが、アンナはそれを渡された理由がよくわからなかった。

「それは、鎧魔城の跡地から最近見つかった指輪でな」
「鎧魔城から……それって!」
「ああ、ツヴァイの魔人の鎧槍アーマード・ランスと同じく、過去のエスラティオ王国で使われていたものだ」

 その指輪は、古代の王国で使われていたもののようだ。
 そのため、普通の指輪ではないのだと、アンナは理解した。

「その指輪は、聖なる指輪セイント・リング。かつて、勇者が使ったとされる指輪だ」
「勇者が……」
「そうだ。故に、そなたが使うべきものなのだ。それは、聖なる光を込めることで、色々なことを起こせるらしいぞ」

 この指輪は、かつての勇者が使っていたものであるようだ。
 さらに、聖なる光を込めて使うらしい。
 それなら、アンナに渡されるのも納得だ。そもそも、アンナにしか使えないものである。

「ありがとうございます、女王様」
「ふむ、問題ない。それが役に立てばいいのだがな……」

 そう言って、レミレアは去っていった。
 それを見届けて、アンナは指輪を見つめる。

「よし……」

 そして、意を決してその指輪を嵌めた。
 すると、アンナの体を電流が走るような感覚が襲う。
 それと同時に、アンナはこの指輪が持つ力を理解する。

「これは……」

 アンナは確信するのだった。
 聖なる指輪セイント・リングは、必ずこれからの戦いに役に立つということを。





 レミレアとアンナが話している間、ネーレの元に別の問題が訪れていた。
 それは、ネーレの父親ボーデンである。

「ネーレ、お前は行くんじゃない」
「なっ!? 何を言うんだよ! 親父!」

 ボーデンは、ネーレを引き止めた。
 それは、戦いに参加してはならないという意味である。

「俺も戦う! 戦えるんだ!」

 ネーレにとって、それは受け入れがたいことだった。
 成り行きで着いてきたものの、ネーレにとってこの戦いはいつの間にか引きないものになっていたのだ。

「はっ!」
「なっ!」

 しかし、ネーレの言葉に対して、ボーデンは笑う。

「お前が着いて行って、なんの役に立つ? お前は、勇者一行の中じゃ、一番弱いだろう。そんなんじゃ、足手まといになるだけだ!」
「うっ……」

 ボーデンの言葉に、ネーレは怯んでしまう。
 その言葉が、図星だったからだ。
 ネーレは、自身がどれだけの役割があるかわかっていなかった。
 むしろ、足手まといなのではないかとすら、思っていたのである。

「……」
「何も言い返せないのか? それなら、来るんじゃないぞ!」

 ボーデンは、それだけ言って、話を終わらせようとする。
 ネーレは震えるだけで、何も言えないでいた。
 それは、とても悔しいことである。

「待て……」

 しかし、そのボーデンを止める者がいた。
 それは、ツヴァイである。

「父親だろうが、許せん言葉だ。ネーレが足手まといなど、俺は一度も思ったことはない」
「何……?」
「例えば、先の獣王との戦いでも、そいつがいなければ、俺達に犠牲が出ていただろう」
「ツヴァイ……」

 ツヴァイの言葉に、ネーレは驚く。
 まさか、元魔王軍幹部の実力者に、そんなことを言われるとは思っていなかったのだ。

「そうです! ネーレさんは大切な仲間です!」

 ツヴァイに続いて、ティリアも声をあげる。

「ネーレさんがいなければ、私は教授との修行も耐えられなかったかもしれません! それに、よく同じ部屋に泊まるので、私にとっては心の支えです!」
「ティリア……」

 ティリアの言葉は、ネーレにとって嬉しいものだった。
 そして、その言葉で、ボーデンの表情も変わる。

「……たっく、仕方ねえか」
「親父……?」
「俺だって、娘が心配なんだが、お前の乗船を許可しなければならなくなっちまった」

 ボーデンの言葉に、ネーレはまた驚く。
 まさか、そんな理由だったとは、思いもしなかったのだ。

「……まあ、この俺の娘なら、大丈夫だと信じておくか。海上戦で、俺達が負ける訳にはいかないからな」
「親父!?」
「先に、乗っている」
「あ……ありがとう!」

 そう言って、ボーデンは船に乗っていった。

「あれ? ボーデンさんも戦いに参加するんですか?」
「ああ、親父、結構強いからな……」

 その様子を見て疑問を放ったティリアに、ネーレが答える。
 ネーレの表情は、嬉しそうである。

「二人とも、ありがとう。俺を助けてくれて」
「……俺は、ティリアに頼まれただけだ。礼なら、ティリアに言え」
「え? そうだったのか……」
「……最も、言った言葉に嘘はない」
「え?」

 ネーレのお礼に、ツヴァイはそんなことを言ってきた。
 それで、恥ずかしくなったのか、ツヴァイは船の方に歩いていく。
 ネーレは、ティリアの顔を見る。

「ははっ、ツヴァイって、あんな風なこと言うんだな」
「はい。兄さんはああ見えて、優しいですから……」

 その言葉を合図に、ネーレとティリアも歩き出す。
 もうすぐ、海魔団との戦いが始まるのだ。

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