赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第107話 船ができるまで

 アンナ達は、海魔団と戦うための船を作ってもらうため、ネーレの実家に来ていた。
 そこで、ネーレの父ボーデンに船を作ってもらえることになったのだ。
 その間、アンナ達はそれぞれの時間を過ごしている。

「さて、カルーナ、どうしようか?」
「どうしようかって、どういうこと?」
「この時間を、何に使うかってことだよ」

 アンナとカルーナは、宿の一室でそんな会話をしていた。
 船を造るまでの時間、アンナは何をするか迷っていた。
 修行をするのもいいが、休んでおくのもいい。しばらくは、日にちがかかり、さらに魔王軍が、今は攻めてきていないことから、アンナの心に余裕が生まれているのだ。

「お姉ちゃん、それなら、久し振りに出かけない?」
「え?」

 そんなアンナに、カルーナから提案があった。
 それは、町に出かけるというものだ。

「最近、あんまりそういう時間って、とれてなかったから……」
「……そうだよね。戦いの後は、移動だったし、まともに遊んだりできていなかったよね……」

 アンナ達は、今までまともにそういうことができる機会はなかった。
 戦いの後は、次の戦いの場所へ向かわなければならなかったからだ。故に、どの国も侵攻されていない現状は、そのようなことができる機会なのである。

「それなら、町に出ようか」
「うん」

 アンナは、カルーナの提案を了承した。
 アンナにとって、何よりも嬉しかったのは、カルーナがそう言ってくれたことだ。
 最近は、少しだけ距離ができたと感じていため、遊びに誘ってくれるのは、とても嬉しいことなのである。
 こうして、アンナとカルーナは町へと出かけるのだった。





 アンナとカルーナは、町の中を散策した。

「あんまり、何もないね……」
「うん……」

 しかし、その結果はいいとはいえない。
 王都にも近い港町だが、海が海魔団の占拠されているためか、町の中に少し活気がないのだ。
 それは、二人にとって、あまりいいいものとはいえなかった。
 なぜなら、それは戦いを予感させるからだ。

「少し、座ろうか」
「うん……」

 アンナとカルーナは、広場のベンチに座る。

「やっぱり、まだまだ魔王軍の影響はあるんだね……」
「お姉ちゃん……」
「なんだか、実感したよ。まだ、戦わなければならないんだって……」

 アンナは、少し落ち込んでいた。
 今まで、五つの国を救ってきたはずだが、それでも魔王軍の影響がある。そのことを実感し、気を引き締めなければならないことを思い出したのだ。

「お姉ちゃん……そんなに背負わなくても、いいんだよ?」
「カルーナ……?」
「お姉ちゃんは、今までずっと頑張ってきた。それなのに、落ち込む必要なんてないよ」
「……そう、なのかな?」
「うん、そうだよ」

 カルーナの言葉で、アンナは少し元気を取り戻す。
 アンナにとって、カルーナがそう言ってくれることこそ、元気の素なのだ。

「……もうすぐ、戦いも終わらせられるんだよね」
「……うん。海魔団を倒したら、後は魔族の領域……だね」

 そこで、アンナはそんなことを呟いていた。
 それに対して、カルーナもゆっくりと頷く。

「その戦いさえ終えれば、人々の生活も元に戻る……」
「うん……」
「でも、本当にそうなるのかな?」
「え?」

 アンナの口から次に出たのは、疑問の言葉だった。
 それは、アンナがずっと抱いていた不安のようなものなのである。
 初めてそれを意識したのは、イルドニア王国王女セリトアの言葉を聞いた時だ。

「魔王を倒しても、また次の魔王が現れて戦いになる。それが歴史で証明されている。それなら、戦いは終わらないのかもしれない」

 人と魔族は、長い歴史の中で戦い続けていた。
 その中で、勇者と魔王も戦い続けていたのである。

「……お姉ちゃん、不安に思うのもわかるよ。でも、今はこの戦いを終わらせることを考えよう?」
「うん、それはわかっているんだけど……なんだか、不安で……」
「……不安を和らげられるかはわからないけど」
「え?」
「私は、ずっと一緒だよ、お姉ちゃん」
「カルーナ……」

 不安に思っているアンナに、カルーナそんな言葉を告げてくれた。
 その言葉は、アンナにとってはとても重要な言葉だ。それだけで、アンナの不安は吹き飛ぶ程である。

「カルーナ、ありがとう。元気出たよ。後、ごめんね。なんだか、相談ばっかりで、全然遊べてなくて」
「そんなのいいよ。お姉ちゃんの不安を取り払える方が、遊ぶことより重要だもん」
「……本当に、私はいい妹を持ったね」

 アンナとカルーナは、そんな話をしながら、船の完成を待つのだった。

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