赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第98話 再生する肉体

 ガルスは、獣王と対峙している。
 なんとかダメージを与えたガルスだったが、獣王の回復する肉体リバース・ボディによって、回復されてしまったのだ。

「くっ……」
「ほう?」

 ガルスは、一度獣王から距離をとった。
 ダメージを与えても、回復されるというのは、とても厄介である。攻撃しても、そのほとんどは無駄になるのだ。
 そのため、考える必要があった。あの肉体を攻略する作戦を練るために、ガルスは距離をとったのだ。

「逃がさんぞ!」
「くっ!?」

 しかし、獣王はガルスを逃がさない。
 ガルスが後退した直後、獣王は駆け出していた。 
 その速度は、後退していくガルス以上である。

火炎の吐息ヒート・ブレス!」

 ガルスは、後退しながら火球を放つ。

「ガオオオオッ!」

 だが、その炎も獣王の雄叫びによって、打ち消される。

「くっ……」

 ガルスは、どんどんと後退していく。
 急な方向転換で攻撃することはできるが、それは既に使った攻撃であるため、獣王に読まれてしまうだろう。
 故に、今は別の手段を考えなければならないのだ。

「ならば……」
「ほう!?」

 そこで、ガルスがとったのは防御の体勢であった。
 腕を前に構えて、顔を隠し、相手の攻撃に備える構えである。

「面白い、なら、いくぞ!」

 そんなガルスに、獣王が腕を振るう。
 ガルスは、全闘気を防御のために使い、その攻撃を受け止める。

「くっ……!」
「なるほど、中々の防御だな」

 獣王の攻撃が、続いていく。
 ガルスは防御に集中しつつ、獣王の隙を探る。
 そこでガルスは、攻撃と攻撃の間に、わずかな隙を見つけた。

「竜人の手刀《リザード・スラッシュ》!」
「ほう!?」

 その隙に、ガルスは手刀を叩き込む。
 それにより、獣王の体は切り裂かれ、血が噴き出る。

「ふっ! 流石だな!」
「くっ……!」

 しかし、獣王の体はすぐに再生していく。
 そして、ガルスが与えた傷は、消えていってしまった。

「ふん!」

 さらに、獣王は攻撃を重ねてくる。
 傷を負ったことなどなかったかのような攻撃だ。

「くっ!」

 ガルスは攻撃を躱しつつ、獣王の懐に潜り込んでいく。

「はあっ!」
「何度やっても、無駄だ!」

 ガルスは再び、手刀を振るう。
 今回は、ある一点に狙いを定めている。

「む!?」

 それは、獣王の心臓だ。
 いくら強力な再生能力をもっていても、即死すればそれは関係ないはずである。そのため、ガルスはそこを狙ったのだ。

「竜人の手刀《リザード・スラッシュ》!」
「ぐっ!」

 ガルスの手刀が、獣王の心臓部に突き刺さった。
 ガルスの腕に、確かに肉を貫く感触が伝わってくる。

「これで!」
「ぐっ!」

 一気に腕を引き抜くと、獣王の体から血が流れていく。

「やったのか……?」

 ガルスは、あまりにも呆気ない決着に困惑していた。
 ここまで簡単に獣王を倒せるなどと、思っていなかったのだ。

「ふっ!」
「何!?」

 その瞬間、獣王が笑う。
 心臓を貫かれているというのに、その顔は余裕そうであった。

「ふん!」
「ぐわあっ!?」

 困惑するガルスに、獣王の腕が振るわれる。
 無防備だったガルスの体は、大きく吹き飛んでいく。

「くっ!」

 ガルスは、なんとか空中で体勢を立て直しながら、獣王を見る。
 すると、獣王の体にあったはずの傷がなくなっていた。
 その様子に、ガルスは目を丸くすることしかできない。

「何故……?」
「着想は悪くなかったが、残念だったな。極限まで闘気を高めれば、心臓がなくともしばらくは生きられる。その隙に体を回復させれば、何も問題ないということだ」
「なんだと……?」

 どうやら、獣王の闘気は生死すらも凌駕できるものらしい。
 あまりの闘気に、ガルスは困惑することしかできなかった。

「さて、行こうか」
「くっ!」

 そんなガルスの元へ、獣王はゆっくりと近づいてくる。

「む?」
「何!?」

 しかし、獣王は何故か足を止めて後退した。
 その直後、獣王のいた場所に雷が落ちる。

「……まさか!?」

 ガルスはその雷を見て理解した。援軍がやって来てくれたということに。

「ほう? 援軍か?」
「ああ、悪いが、俺達も戦わせてもらう」

 そこに現れたのは、カルーナ、ティリア、ツヴァイ、ネーレの四人である。
 アンナ以外の勇者一行が、ここに揃ったのだ。

「ガルスさん、大丈夫ですか?」
「ティリア……ああ、大丈夫だ」

 ティリアは、ガルスの隣に並び、回復魔法を使う。

「俺がメインで行く……お前達は、援護を頼む」
「はい、ツヴァイさん」
「よし、やってやるぜ」

 獣王の前には、残りの三人が立つ。
 さらに、役割分担も決まったようだ。

「ふふふ、面白いことになってきたな」

 実質的に、五対一の状況となったが、獣王は笑っていた。
 まだまだ、余裕といった態度だ。
 獣王と勇者一行の戦いが、始まろうとしていた。

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