赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第90話 それぞれの修行

 ティリアとネーレは、地下修行場の一室にいた。
 しばらく待っていると、二人の前に教授が現れる。

「教授!?」
「うわっ!? なんか薄いぞ!?」

 しかし、現れた教授は何故か透明であった。
 そんな教授を見て、二人は困惑してしまう。

「ああ、これは魔法で作った分身のようなものさ。気にしないでくれ」
「分身……ですか?」
「それは、あんまりいい思い出がないな……」

 教授の話を聞いて、ネーレは先日の戦いを思い出してしまった。
 水魔将フロウは、分身によってネーレ達を苦しめたので、いい思いはしないのだ。

「まあ、いいや。それで、俺達は何をするんだよ?」
「ふむ、君達がするのは戦闘能力の向上かな? 他の四人に比べると、君達は弱いからね。もっと強くならないと、これからついていけないし、君達自身も危険だ」
「た、確かに私は戦えません……」

 教授の言葉に、ティリアは納得する。
 ティリアは回復魔法が得意だが、攻撃魔法などはほとんど使えない。
 そのため、自身を守れなくなる可能性は充分ある。それでは、周りの仲間に、迷惑をかけてしまうかもしれないのだ。

「確かに俺も強くないしな……」

 ネーレも、教授の言葉は理解できた。
 強くならなければ、水魔将フロウとの戦いのようになりかねない。

「よし、それなら早く始めようぜ。一体、どんなことをするんだ?」
「ああ、いいだろう」

 ネーレがそう言い、いよいよ修行が始まるようだ。

「君達には、僕と戦ってもらう」
「教授と?」
「ああ、遠慮はいらないよ。先程言った通り、これは分身だからね」

 どうやら、二人の訓練は教授と戦うことのようだ。
 その中で、戦いを学ぶということなのだろう。

「さて、それでは始めようか……ああ、疲れたりしたら言ってくれていいよ。向かいの部屋には、ベッドや食べ物が置いてある。自由に使ってくれていい」
「そうなんですか? それは、ありがとうございます」
「ありがとうよ」

 こうして、二人の訓練が始まるのだった。





 カルーナは、地下修行場の一室にいた。
 しばらく待っていると、教授が部屋に入ってきた。

「やあ、カルーナ、君の訓練を始めようか」
「は、はい。でも教授、他の皆はいいんですか?」
「ああ、そちらには僕の分身が行っている。だから問題無いよ」

 カルーナの元に現れたのは、教授本体である。
 他の者と違い、カルーナの元には本体が来る必要があるのだ。

「分身……?」

 カルーナは少し疑問を感じたかが、とりあえず気にしないことにした。
 それよりも、今は重要なことがあるのだ。

「それで教授、新しい魔法を教えてもらえるんですよね?」
「ああ、だから、本体で来る必要があったんだ。分身では、消滅呪文フレアを使えないからね」

 どうやら、教授が本体で来たのは、それが理由のようである。
 教授が教えてくれるのは、消滅呪文フレアという魔法だ。
 それは、究極の魔法らしいので、カルーナはかなり期待しているのだった。

「さて、まずは実際に見てもらった方が早いだろう」
「え?」

 そう言って、教授は指を鳴らす。
 すると、カルーナの前に大きく黒い球体が現れていた。

「これは……?」
「これは僕が作った特別な物質だ。これに、君の魔法を放ってみてくれ」
「は、はい」

 教授にそう言われたカルーナは、手を構え魔法を放つ。

紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 カルーナの手から火球が放たれ、黒い球体に着弾する。
 小規模の爆発が起こり、辺りを煙が覆う。

「あっ……」

 煙が晴れた時、カルーナの目に入ったのは、傷一つついていない黒い球体であった。

「このように、この黒い球体はとても固いんだ。特に、魔法に対する耐性はかなりのものだ」
「そうなんですか……」
「落ち込む必要はないよ。君はこれを壊せるようになる」

 そこで、教授はカルーナの前に移動する。
 そして、球体に対して手を構えた。

「いや、正しくは消滅させられるようになるか……」

 教授の手に、魔力が集中していくのが、カルーナにもわかる。

消滅呪文フレア!」

 教授が言葉を放った瞬間、黒い球体に変化が起こった。
 球体の一部に、赤いものが浮き上がる。
 それは、大きな光を放ち、やがて消えていく。

「こ、これは……?」

 カルーナは球体を見て、目を丸くする。
 黒い球体は、一部が無くなっているのだ。
 その部分は、とても綺麗になくなっており、爆発などによって破壊されたのではないことを表していた。

「これが消滅呪文フレア……対象を消滅させる魔法だ」
「しょ、消滅……?」

 教授の言葉を聞き、カルーナは驚く。
 対象を消滅させるなど、とても恐ろしい魔法だからだ。

「これを君に覚えてもらう……僕のを見て、少しはわかったかな?」
「あ、はい……なんとなくは」

 カルーナは、教授の魔法を見て、なんとなくどのようなものかは理解していた。
 そのため、練習をすることはできるのだ。

「それでは、始めてくれ。何か質問があったら、僕に聞いてくれ」
「はい、よろしくお願いします」
「あ、疲れたりしたら言ってくれていいよ。向かいの部屋には、ベッドや食べ物が置いてある。自由に使ってくれていい」

 こうして、カルーナの修行が始まった。





 ガルスとツヴァイは、地下修行場の一室にいた。
 二人は、教授の指導とは関係なく、修行することにしたのだ。

「ガルス、どうする?」
「ああ、戦うのが一番だろう」

 ガルスの提案は、ツヴァイも思っていたことである。
 そのため、異論はなかった。

「お前と戦うのは、あの時以来か……」

 ツヴァイは、前にガルスと戦った時のことを思い出していた。

「あの時は敵だったが、今は味方同士……おかしなものだな」
「そうかもしれんな……」

 二人は構え合い、お互いに警戒する。
 二人の修行も、始まるのだった。

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