赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第84話 水魔将の最期

 アンナ達は、水魔将フロウと対峙している。
 カルーナの機転によって、分身カルーナと分身ガルスは消え去った。これにより、水の鏡アクア・ミラーは攻略できたのだ。
 残るフロウは、分身とそれぞれの一体ずつである。

「お姉ちゃん!」
「アンナ!」

 カルーナとガルスは、最期の分身と戦っているアンナの元に駆け付けた。
 アンナは、分身から放たれる水の刃から、身を守り動けない状態だ。

「カルーナ! ガルス!」
「くっ……なんということだ。拙者の水の鏡アクア・ミラーが、こうも簡単に破られるとは……」

 水魔将フロウも、流石に援軍の登場には、驚いているようである。
 状況は、アンナ達が圧倒的に有利だった。

「仕方ない……ここは仕切り直させてもらうぞ!」
「うっ!?」

 そこで、分身が形を変える。
 分身は水に戻り、聖なる光の隙間に潜り込み、アンナに巻き付いてきた。
 それと同時に、フロウの本体が動き始める。

「勇者、こちらに、来てもらうぞ!」
「くっ……!」

 フロウは、巻き付けた水を引っ張り、アンナを連れていく。
 抵抗しようと体を動かすアンナだったが、張り付いた水は動かない。

「お姉ちゃん!」
「アンナ!」

 カルーナとガルスも、それを追って駆けていく。

「無駄だ!」
「はっ!? ここは!?」

 フロウの言葉が聞こえた時、アンナは理解した。
 目の前にあるのは、大きな穴だ。どうやら、王国の地下通路に続く道らしい。
 現在、即席インスタント・水没器ウォーターによって、王国内は浸水しており、地面に水が張る程である。つまり、地下通路は完全に水に浸かっているのだ。

「はああ」

 アンナは大きく息を吸う。
 次の瞬間、アンナは水の中へと入っていった。

「お姉ちゃん」
「くっ!」

 カルーナとガルスは、そこで足を止める。そうすることしか、できなかったのだ。
 水の中は、水生魔族のフロウにとって、最も戦いやすい場所である。そこに入れば、まず勝ち目はない。
 そのため、ここからなんとかして、アンナを助けなければならないのだった。





 アンナは、水の中に入っていた。

「っ……」

 当然、水中では息を止めなければならない。

「ふふ、ここは拙者の領域、いくらお前でも、ここでは動けまい」

 一方のフロウは、地上よりも動きやすそうだった。
 このまま戦っても、アンナの敗北は目に見えている。なんとかして、この状況を脱しなければならないのだ。

「……このまま決める! 水魔奥義! 三日月の水撃クレッセント・ブルー!」

 その言葉で、フロウの周りの水が動きを変える。
 形としては、認識できないが、アンナは水の刃ができたのだと解釈した。
 この状況で、できることは少ない。アンナは、聖なる光を変化させ、自身の身を守るのだった。

「無駄だ! この攻撃は、地上の時よりも威力が上がっている!」
「……っ!」

 フロウの言葉通り、聖なる光は切り裂かれていく。このままでは、アンナに当たるのも時間の問題である。
 アンナは、必死に思考し、この状況を、どうにかできる手を探す。
 だんだんと息が苦しくなる。早くなんとかしなければ、溺れる恐れもあった。

「……っ!」
「むっ……!?」

 そこで、二人は同時に驚く。
 水の中に何かが入ってきたからだ。
 それは、光の球体のようなものだった。

「っ……?」

 光の球体は、アンナに近づき包み込んだ。
 光の中に入ったアンナは、そこに空気があることを理解する。

「大丈夫か……アンナ」

 そして、目の前に見覚えのある鎧がいたことも認識した。

「ツヴァイ!?」
「鎧魔将か……」

 アンナを助けたのは、ツヴァイである。
 自身の戦いが終わった後、アンナ達の元へ駆けつけたのだ。

「これは……一体?」
「先程窒息しかけたのでな……水対策はしておいた。俺の周りを魔闘気の層を作り出し、水を遮断しているのだ」
「そ、そんなことが……」

 光の正体は、ツヴァイの魔闘気だった。
 この中には、水が入って来ないようになっているようだ。
 さらに魔闘気は、フロウの攻撃さえも防いでいる。

「さあ、ここから脱出するぞ」
「うん、お願い……」

 ツヴァイは、そのまま上昇していく。

「逃がすか!」

 フロウは、それに対して、水の刃を放つ。
 しかし、ツヴァイの魔闘気にそれは通用しない。

「馬鹿な!?」
「邪魔をするな!」

 その直後、ツヴァイの手から魔闘気が放たれる。

「ぐあああっ!」

 その魔闘気が、フロウの体に当たった。
 それのより、フロウは叫びをあげる。

「どうやら、お前も消耗していたようだな……」
「くっ……」

 フロウは、ここまでアンナ達五人を相手してきた。
 そのことで、かなり消耗していたのだ。
 そのため、ツヴァイの攻撃や防御に太刀打ちできないのだった。

「ふん!」

 そう言っている間に、アンナとツヴァイは地上に戻る。

「……まだ、水中にいるか。ならば……」

 水中にいるフロウに向けて、ツヴァイの手から魔闘気が放たれた。

「ぐああああああっ!」

 その攻撃もフロウに当たり、水中から叫び声が聞こえてくる。
 頭上からの連続攻撃に、フロウは為す術がないようだ。

「ぐうううう!」
「来たか……」

 フロウは、なんとか身を翻し、地上へとでてきた。
 そこには、アンナ、カルーナ、ガルス、ツヴァイと勇者一行のほとんどがいる。
 最早、フロウに勝ち目はないだろう。

「なるほど……これは、拙者も終わりか」
「その通りだ。俺達全員に勝てるはずもない」

 フロウの言葉に、ツヴァイが答える。
 本人も、既に敵わないことを理解しているようだ。

「だが、拙者もただやられる訳にはいかん!」

 そこで、フロウの体が光始める。

「まずい! 全員下がれ!」
「間に合わん! 俺が受け止める!」

 その瞬間、ガルスが声をあげ、それにツヴァイが続いた。
 ツヴァイは、三人を守るように、前に立ち、魔闘気を展開する。

「聖なる光よ! 私達を守れ!」

 さらに、アンナの聖なる光が四人を覆う。
 全ては、フロウの攻撃を防ぐためだ。

水のウォーター・爆発エクスプロージョン!」

 フロウの体は爆発し、周囲に大きな衝撃を引き起こす。

「うわああ!」
「きゃああ!」
「ぐうううう!」
「ぐわあああああ!」

 ツヴァイとアンナの防御があっても、その衝撃は大きなものだった。
 四人の体が、大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。
 しかし、決定的なダメージにはならず、四人はすぐに体勢を立て直せた。

「フロウは……」

 アンナは、先程までフロウがいた場所を見る。
 そこには、誰もいない。

「……奴は、自爆したのだ」

 ガルスの口から、そんな言葉が漏れてくる。
 それは、薄々全員が気づいていたことだ。
 魔将にまでなった男が、最期にとった行動が自爆だったのである。

「奴は、最近魔将になった新参者だった……」
「新参者?」
「ああ、奴は海魔団に所属していたが、その功績を認められて、魔将になったのだ」

 ツヴァイは、フロウのことをそう振り返った。

「そのことから、自身の命を投げうってでも、俺達を倒したかったのだろう。海魔将と奴は、義兄弟ともいえる関係だったしな……」
「……そうだったのか」

 ツヴァイの言葉で、アンナはフロウの行動を理解する。
 彼は、後に戦うであろう者達のために、自身の体を投げだしたのだ。

「皆、早くこの戦いを終わらせないと……」
「カルーナ、うん、そうだね」

 カルーナの一声で、三人は思い出す。
 水魔将を倒したことで、この戦いは終わりなのだ。
 即席インスタント・水没器ウォーターを破壊し、浸水を止め、さらにはこの戦いも止めなければならない。
 アンナ達は、動き始めるのだった。

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