赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第78話 水魔団の秘密兵器

 ツヴァイは、オルフィーニ王国の中心都市ブームルド内を駆け抜けていた。
 その目的は、都市を浸水させている即席インスタント・水没器ウォーターを破壊することだ。
 道中、ツヴァイもエスラティオ王国の兵士達と遭遇し、事情を聞かされた。
 周囲の水魔団は、その兵士達が引き受けてくれる。そのため、ツヴァイが目指すべき場所は、ただ一つである。

「なっ!」

 走っているツヴァイは、青い球体を捉える。しかし、そこにあるのは、即席インスタント・水没器ウォーターだけではない。

「なんだ、これは!?」

 ツヴァイは、目の前にあるものに対して、目を丸くする。
 そこには、液体状の丸い物体がいくつも浮いており、揺らめいていた。
 ツヴァイは、それから何故か異様な雰囲気を感じ取っていたのだ。

「……スライム、なのか?」

 その物体を、ツヴァイはとりあえず、スライムであると認識する。
 とても珍しいものであり、ツヴァイも見るのは初めてだった。
 問題は、何故これがここにあるのかだ。

「キュルキュルキュルキュル」
「な、何……」

 ツヴァイが立ち止まっていると、スライムが動き始めた。
 スライムは一カ所に集まり、その身をよせる。そして、スライム達は混ざり合って、一つの形をとっていった。

「キュルキュルキュル……んっん!」
「なんだ……こいつは?」

 スライムは、人型になったのだ。
 さらに、そこから声を調整しているように聞こえる。

「よし、これでいいかな……」
「喋った……?」
「驚いているようだな、鎧魔将ツヴァイ……いや、元鎧魔将か」

 合体したスライムは、流暢な言葉遣いで話し始めた。

「一体、何者だ?」
「私の名前は、スライミー、スライムマンさ」
「スライムマンだと……?」

 その魔族は、ツヴァイですら聞いたことはないものだ。
 その異様な雰囲気は、普通ではないように思える。

「聞いたことがなくても当然だろう。私は、突然変異で生まれたのでね」
「突然変異だと……?」
「かつて、私はただのスライムだった。だが、ある時突然知恵に目覚めてね。そんな私を拾ってくれたのが、水魔将フロウ様だった……」

 ツヴァイの疑問に、スライミーは答えてくれた。
 その姿は、異様であったが、とても知的にも見える。

「フロウ様は、私のことを秘密兵器とし、周りから秘密にしていたのだ……故に、私の存在は魔王軍ですら、知られていなかった」
「ほう? 最終兵器とはな……」
「ふふ、戦ってみればわかるだろう。この私の強さを……」

 そう言って、スライミーは構えた。
 構えだけ見れば、格闘家のようである。
 しかし、水魔将フロウが隠していた者のため、普通の戦闘力ではないと、ツヴァイは予測した。

「……待っているのも危険か」

 そこで、ツヴァイは駆け出す。
 秘密兵器が何をしてくるかなど、想像はつかなかったが、ただ待っていても危険は変わらないと感じたからだ。
 先手で、戦いのペースを握り、一気に勝負を決める。ツヴァイは、それが一番いい手だと思ったのだった。

雷の槍サンダー・ランス!」
「ほう? それなら……」

 ツヴァイは、手に持つ魔人の鎧槍アーマード・ランスをスライミー目がけて突き刺す。

「何?」
「これでどうかな?」

 しかし、スライミーに攻撃が当たることはなかった。
 スライミーは、ツヴァイが突き刺した胸の部分に丸い穴を開け、その攻撃を回避したのだ。

「ふん!」
「ぐっ……!」

 さらに、スライミーはその体勢で、ツヴァイの顔に手を伸ばしてきた。
 ツヴァイの顔が、液体状のもので覆われる。ツヴァイは、液体によって呼吸を封じられてしまった。

「ご……」
「このまま、窒息するのだな……」

 どうやら、これがスライミーの戦術であるようだ。

「はっ……」
「おお……」

 そこで、ツヴァイは槍を薙ぎ払う。
 それは成功し、スライミーの体を切り裂くことができた。

「ごふっ……?」
「ふふ、この私の体を、切り裂いても無駄だ……」

 しかし、スライミーは拘束を解くことなく、その体も崩れてはいない。

「スライムの集合体たる私は、切り裂いてもこのようにくっつけることができる」

 それどころか、離れた体を再生し始めてしまう。
 程なくして、スライミーの体は、元に戻っていた。

「ごふ……」
「下がろうとしても無駄だ……」

 ツヴァイは拘束から逃れため、後退しようとする。
 だが、スライミーがその場から動かないというのに、拘束は解けなかった。

「私の体は、伸縮自在……逃れることなどできない」

 スライミーの腕が伸びたため、逃れることができなかったようだ。

「ぐふっ……!」

 ツヴァイが次にとった行動は、飛び立つことだった。
 空中まで行けば、スライミーの手から逃れられると思ったからだ。

「残念だが、そちらでも無理だ」

 しかし、スライミーの手は伸び続け、ツヴァイの顔から離れない。

「くっ……」
「おっと、限界か……」

 ツヴァイの体が、どんどんと落ちていく。
 ツヴァイの呼吸は、限界を迎えようとしていたのだ。

「ごがっ……」
「さて、そろそろ終わりか……」

 ツヴァイの様子を見て、スライミーは笑う。
 どこに移動しても、ツヴァイはスライミーの手から逃れられない。
 それは、絶体絶命ともいえる状況だった。

「ごふ、ごはっ……!」
「む?」

 そこで、ツヴァイの持つ魔人の鎧槍アーマード・ランスが光輝く。
 ツヴァイの体に鎧が纏われ、その力によって、スライミーの手が千切れる。

「くっ……はあ、はあ」

 鎧の中で、スライミーの一部から逃れ、ツヴァイは呼吸を再開した。

「ほう? 逃れられたか……」

 体が千切れても、スライミーは平気そうである。
 さらに、一手が破られたというのに、それも気にしていないようだ。

「……これが、秘密兵器の力か」
「これは、力の一端にしか過ぎないさ。この私の体には、無限の力が宿っているのだからね……」

 スライミーは、余裕な態度を崩さない。そして、その能力は、それを裏付ける要素しかもっていないのだ。ツヴァイは、彼を強敵だと認識せざるを得なかった。

「くっ……」
「ふふ、天下の鎧魔将も、私には有効な手段が思いつかないようだな……」

 先程の攻撃は、魔人の鎧槍アーマード・ランスで防ぐことができることがわかったが、それでもツヴァイの劣勢は変わらない。
 なぜなら、スライミーを倒す方法が今のツヴァイにはわからないからだ。突いても斬っても、スライミーの体には、ほとんどダメージを与えられない。現在、ツヴァイは有効手段がないのだ。

「さて、そろそろ再開しようか……」

 スライミーが、ゆっくりとツヴァイに近づいてくる。
 二人の戦いは、続いていくのであった。

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