赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第73話 二人一組の宿

 アンナ達は、オルフィーニ共和国へ向かっている。今は、イルドニア王国のとある村に到着していた。
 この村にある港から、オルフィーニ共和国に向かう船が用意されている。

「さて、今日はこの村に泊まる訳だけど……」

 現在はもう日が暮れており、この村に泊まることになるのだが、そこで一つ問題があるのだ。

「ネーレも、とりあえず泊まるということでいいかな?」
「ああ、俺も目的地はここじゃないからな」

 それは、ネーレのことについてである。

「それで、ちょっと問題があるんだ」
「問題? なんだよ?」
「実は、この宿にはそんなに部屋がなくて、まあ、端的に言うと三部屋しかなくて、二人一組で泊って欲しいそうなんだ」

 宿屋側の都合で、三部屋しかないため、ネーレに相部屋をしてもらわなければならない。それを、ネーレが許可できるかどうか、聞かなければならないのだった。
 ちなみに、アンナとカルーナは一つのベッドしか使わないため、いざとなったら、ネーレに一部屋でも問題はない。

「なんだ、そんなことか。それなら、全然いいぜ」

 しかし、ネーレがこれを快く受け入れてくれたため、その手はとらなくてよくなった。これで特に問題はないだろう。

「ところで、俺は誰と同部屋なんだ?」
「あ、それは私です」

 ネーレの疑問に、ティリアが答える。見た目や口調は男性的であるが、ネーレは女性だ。アンナとカルーナが同部屋になる都合上、ティリアと一緒になるのは必然だった。
 そもそも、性別の前に、ガルスやツヴァイと同部屋はまずい。なぜなら、ネーレは二人が魔族の血を引く者だと知らないからだ。

「そうか、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」

 こうして、六人はそれぞれの部屋に向かうのだった。





 アンナとカルーナは、部屋で休んでいる。
 そこで、カルーナは困っていた。

「カルーナ……」
「お姉ちゃん……?」

 アンナは部屋に入るなり、カルーナに抱き着き、ベッドに倒れ込んだのだ。
 突如起こった姉の奇行に、カルーナは困惑していた。

「どうしたの?」

 カルーナが困惑する理由は多くある。
 ピュリシスとの対話により、カルーナの考えは少し変わっていた。
 要するに、アンナのことが気になっているのだ。

「きゅ、急に……」
「あのね……」

 そのため、今の状況はカルーナにとって嬉しいと同時に、激しく動揺させるものである。

「カルーナとの距離が開いた気がして……」
「う……」

 アンナの言葉は、図星であった。
 カルーナは自覚したことで、今まで通りアンナと接せなくなってしまったのだ。
 それは、自らに対する戒めのようなものであった。

「それは……」

 しかし、急に離れるとアンナが困惑すると思い、少しだけ距離を変えることにしたのだ。
 その僅かな変化を、アンナに見抜かれるとは思っていなかったのである。

「何かあったの?」
「そうなんだけど……」

 だが、どうしてそうなったかをアンナに話すことはできない。
 なぜなら、それはカルーナの思いを告げるのと同じ意味だからだ。
 言わず後悔するくらいなら、言うことをカルーナは決意している。しかし、まだ勇気が出せず、今言うことはできなかったのだ。

「言えないこと?」
「……うん」
「そっか……」

 そこで、アンナはカルーナをじっくりと見つめてくる。

「……でも、私がこうするのは嫌じゃないみたいだね」
「……うん。それは、嬉しいよ……」

 カルーナの心を、アンナは見抜いているようであった。
 カルーナは、この状況が嫌ではない。ただ、恥ずかしいという思いと、アンナに申し訳ないという思いから、自ら近寄ることを自粛していただけに過ぎないのだ。

「じゃあ、これからは私からカルーナに近づくね」
「え?」
「嫌じゃないなら、別にいいよね?」

 アンナの提案は、カルーナにとって思いもよらぬものだった。
 カルーナは、その提案を受け入れるかを数秒考える。アンナから近づいてくれるのは、カルーナにしてみれば嬉しいことしかない。
 つまり、断る理由がないのである。

「わかった、いいよ」
「よかった……」

 カルーナが提案を受け入れると、アンナは優しく微笑んだ。

「じゃあ、遠慮なく……」
「あう……」

 そして、カルーナの頬に自分の頬をこすりつけてくる。
 アンナは楽しみ、カルーナも嬉しい。それは、二人の安らぎの時間である。
 アンナとカルーナは、しばらくそうしているのだった。





 ティリアは、ネーレとともに部屋で休んでいた。
 ネーレは羽織っていたマントを脱いで、ベッドに寝転がっている。
 ティリアは、そんなネーレを見つめていた。

「なんだ? どうかしたのか?」
「あ、はい……足の調子はどうかと思いまして」

 ティリアが見ていたのは、ネーレの足である。
 ネーレは森で罠に嵌ったため、足を怪我していた。それをティリアが治療したのだが、何事もなかったのか心配だったのだ。

「ああ、おかげでばっちりさ。ティリアの回復魔法って、すごいんだな」
「い、いえ……」

 ネーレはベッドから立ち上がって、その場で跳ねる。
 それは、足の怪我をまったく感じさせないものだ。そのため、ティリアも安心できたのである。

「……ところで、ティリア達って、どういう集まりなんだ? 家族とは違うようだし、よくわからないんだよな……」
「あ、それは……」

 そこで、ネーレがそんな疑問を口にした。
 それは、ティリアも話さなければならないと思っていたことである。
 アンナから、勇者であることを話してもいいと許可されていた。そのため、ティリアは説明を始めることにする。

「その、実は、私達は勇者一行なんです」
「……ゆ、勇者!?」
「はい、赤い髪のアンナさんは、勇者なんです」
「ア、アンナが!?」

 ティリアの説明に、ネーレは目を丸くした。
 それも、当然の反応だろう。

「なんか、すごい人達に拾われたんだな……」
「隠していてすみません。あなたが焦らないようにしようと思って、言い出せなかったんです」
「あ、いや、それはいい。事実、すごく動揺してるし、むしろありがたかった」

 ティリアが謝ると、ネーレは首を振ってそれを止めた。

「……それで、一つ聞きたいことがあるんですけど……」
「え? 何だ? なんでも聞いてくれ」

 そこで、ティリアは疑問を口にする。

「ネーレさんは、どこから来て、どこに向かっているんですか?」

 それは、ずっと気になっていることだった。
 この年の少女が、一人で森を歩いていたというのは、おかしい面がある。そのため、ティリアは聞いておきたかったのだ。

「……その」

 ティリアの質問に、ネーレは少し表情を変える。
 どうやら、話しにくいことのようだ。

「話しにくいことなんですか?」
「いや、その……恥ずかしい話、家出なんだよ」
「家出?」
「家族と上手くいかなくて、家を出たんだ。それで、そろそろ帰ろうと思って……」

 その言葉に、ティリアは納得した。
 確かに、それなら一人で行動して、あんな所にいたのもわかるからだ。

「それで、家はどこに?」
「……アストリオン王国」
「え!?」

 アストリオン王国は、今から向かうオルフィーニ共和国の北に位置する国である。
 つまり、かなりの距離があるのだ。
 その距離を渡ったというのは、そうとうな労力だろう。

「よくここまで来られましたね……」
「ああ、体力には自信があるんだ」

 ティリアは驚愕したが、ネーレはなんてことないかのようにそう言い放つ。
 嘘をつけるタイプではなさそうなので、ティリアはとりあえず、ネーレの言葉を信用することにする。
 そんな話をしながら、ティリアとネーレは過ごすのだった。

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