赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~
第73話 二人一組の宿
アンナ達は、オルフィーニ共和国へ向かっている。今は、イルドニア王国のとある村に到着していた。
この村にある港から、オルフィーニ共和国に向かう船が用意されている。
「さて、今日はこの村に泊まる訳だけど……」
現在はもう日が暮れており、この村に泊まることになるのだが、そこで一つ問題があるのだ。
「ネーレも、とりあえず泊まるということでいいかな?」
「ああ、俺も目的地はここじゃないからな」
それは、ネーレのことについてである。
「それで、ちょっと問題があるんだ」
「問題? なんだよ?」
「実は、この宿にはそんなに部屋がなくて、まあ、端的に言うと三部屋しかなくて、二人一組で泊って欲しいそうなんだ」
宿屋側の都合で、三部屋しかないため、ネーレに相部屋をしてもらわなければならない。それを、ネーレが許可できるかどうか、聞かなければならないのだった。
ちなみに、アンナとカルーナは一つのベッドしか使わないため、いざとなったら、ネーレに一部屋でも問題はない。
「なんだ、そんなことか。それなら、全然いいぜ」
しかし、ネーレがこれを快く受け入れてくれたため、その手はとらなくてよくなった。これで特に問題はないだろう。
「ところで、俺は誰と同部屋なんだ?」
「あ、それは私です」
ネーレの疑問に、ティリアが答える。見た目や口調は男性的であるが、ネーレは女性だ。アンナとカルーナが同部屋になる都合上、ティリアと一緒になるのは必然だった。
そもそも、性別の前に、ガルスやツヴァイと同部屋はまずい。なぜなら、ネーレは二人が魔族の血を引く者だと知らないからだ。
「そうか、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
こうして、六人はそれぞれの部屋に向かうのだった。
◇
アンナとカルーナは、部屋で休んでいる。
そこで、カルーナは困っていた。
「カルーナ……」
「お姉ちゃん……?」
アンナは部屋に入るなり、カルーナに抱き着き、ベッドに倒れ込んだのだ。
突如起こった姉の奇行に、カルーナは困惑していた。
「どうしたの?」
カルーナが困惑する理由は多くある。
ピュリシスとの対話により、カルーナの考えは少し変わっていた。
要するに、アンナのことが気になっているのだ。
「きゅ、急に……」
「あのね……」
そのため、今の状況はカルーナにとって嬉しいと同時に、激しく動揺させるものである。
「カルーナとの距離が開いた気がして……」
「う……」
アンナの言葉は、図星であった。
カルーナは自覚したことで、今まで通りアンナと接せなくなってしまったのだ。
それは、自らに対する戒めのようなものであった。
「それは……」
しかし、急に離れるとアンナが困惑すると思い、少しだけ距離を変えることにしたのだ。
その僅かな変化を、アンナに見抜かれるとは思っていなかったのである。
「何かあったの?」
「そうなんだけど……」
だが、どうしてそうなったかをアンナに話すことはできない。
なぜなら、それはカルーナの思いを告げるのと同じ意味だからだ。
言わず後悔するくらいなら、言うことをカルーナは決意している。しかし、まだ勇気が出せず、今言うことはできなかったのだ。
「言えないこと?」
「……うん」
「そっか……」
そこで、アンナはカルーナをじっくりと見つめてくる。
「……でも、私がこうするのは嫌じゃないみたいだね」
「……うん。それは、嬉しいよ……」
カルーナの心を、アンナは見抜いているようであった。
カルーナは、この状況が嫌ではない。ただ、恥ずかしいという思いと、アンナに申し訳ないという思いから、自ら近寄ることを自粛していただけに過ぎないのだ。
「じゃあ、これからは私からカルーナに近づくね」
「え?」
「嫌じゃないなら、別にいいよね?」
アンナの提案は、カルーナにとって思いもよらぬものだった。
カルーナは、その提案を受け入れるかを数秒考える。アンナから近づいてくれるのは、カルーナにしてみれば嬉しいことしかない。
つまり、断る理由がないのである。
「わかった、いいよ」
「よかった……」
カルーナが提案を受け入れると、アンナは優しく微笑んだ。
「じゃあ、遠慮なく……」
「あう……」
そして、カルーナの頬に自分の頬をこすりつけてくる。
アンナは楽しみ、カルーナも嬉しい。それは、二人の安らぎの時間である。
アンナとカルーナは、しばらくそうしているのだった。
◇
ティリアは、ネーレとともに部屋で休んでいた。
ネーレは羽織っていたマントを脱いで、ベッドに寝転がっている。
ティリアは、そんなネーレを見つめていた。
「なんだ? どうかしたのか?」
「あ、はい……足の調子はどうかと思いまして」
ティリアが見ていたのは、ネーレの足である。
ネーレは森で罠に嵌ったため、足を怪我していた。それをティリアが治療したのだが、何事もなかったのか心配だったのだ。
「ああ、おかげでばっちりさ。ティリアの回復魔法って、すごいんだな」
「い、いえ……」
ネーレはベッドから立ち上がって、その場で跳ねる。
それは、足の怪我をまったく感じさせないものだ。そのため、ティリアも安心できたのである。
「……ところで、ティリア達って、どういう集まりなんだ? 家族とは違うようだし、よくわからないんだよな……」
「あ、それは……」
そこで、ネーレがそんな疑問を口にした。
それは、ティリアも話さなければならないと思っていたことである。
アンナから、勇者であることを話してもいいと許可されていた。そのため、ティリアは説明を始めることにする。
「その、実は、私達は勇者一行なんです」
「……ゆ、勇者!?」
「はい、赤い髪のアンナさんは、勇者なんです」
「ア、アンナが!?」
ティリアの説明に、ネーレは目を丸くした。
それも、当然の反応だろう。
「なんか、すごい人達に拾われたんだな……」
「隠していてすみません。あなたが焦らないようにしようと思って、言い出せなかったんです」
「あ、いや、それはいい。事実、すごく動揺してるし、むしろありがたかった」
ティリアが謝ると、ネーレは首を振ってそれを止めた。
「……それで、一つ聞きたいことがあるんですけど……」
「え? 何だ? なんでも聞いてくれ」
そこで、ティリアは疑問を口にする。
「ネーレさんは、どこから来て、どこに向かっているんですか?」
それは、ずっと気になっていることだった。
この年の少女が、一人で森を歩いていたというのは、おかしい面がある。そのため、ティリアは聞いておきたかったのだ。
「……その」
ティリアの質問に、ネーレは少し表情を変える。
どうやら、話しにくいことのようだ。
「話しにくいことなんですか?」
「いや、その……恥ずかしい話、家出なんだよ」
「家出?」
「家族と上手くいかなくて、家を出たんだ。それで、そろそろ帰ろうと思って……」
その言葉に、ティリアは納得した。
確かに、それなら一人で行動して、あんな所にいたのもわかるからだ。
「それで、家はどこに?」
「……アストリオン王国」
「え!?」
アストリオン王国は、今から向かうオルフィーニ共和国の北に位置する国である。
つまり、かなりの距離があるのだ。
その距離を渡ったというのは、そうとうな労力だろう。
「よくここまで来られましたね……」
「ああ、体力には自信があるんだ」
ティリアは驚愕したが、ネーレはなんてことないかのようにそう言い放つ。
嘘をつけるタイプではなさそうなので、ティリアはとりあえず、ネーレの言葉を信用することにする。
そんな話をしながら、ティリアとネーレは過ごすのだった。
この村にある港から、オルフィーニ共和国に向かう船が用意されている。
「さて、今日はこの村に泊まる訳だけど……」
現在はもう日が暮れており、この村に泊まることになるのだが、そこで一つ問題があるのだ。
「ネーレも、とりあえず泊まるということでいいかな?」
「ああ、俺も目的地はここじゃないからな」
それは、ネーレのことについてである。
「それで、ちょっと問題があるんだ」
「問題? なんだよ?」
「実は、この宿にはそんなに部屋がなくて、まあ、端的に言うと三部屋しかなくて、二人一組で泊って欲しいそうなんだ」
宿屋側の都合で、三部屋しかないため、ネーレに相部屋をしてもらわなければならない。それを、ネーレが許可できるかどうか、聞かなければならないのだった。
ちなみに、アンナとカルーナは一つのベッドしか使わないため、いざとなったら、ネーレに一部屋でも問題はない。
「なんだ、そんなことか。それなら、全然いいぜ」
しかし、ネーレがこれを快く受け入れてくれたため、その手はとらなくてよくなった。これで特に問題はないだろう。
「ところで、俺は誰と同部屋なんだ?」
「あ、それは私です」
ネーレの疑問に、ティリアが答える。見た目や口調は男性的であるが、ネーレは女性だ。アンナとカルーナが同部屋になる都合上、ティリアと一緒になるのは必然だった。
そもそも、性別の前に、ガルスやツヴァイと同部屋はまずい。なぜなら、ネーレは二人が魔族の血を引く者だと知らないからだ。
「そうか、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
こうして、六人はそれぞれの部屋に向かうのだった。
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アンナとカルーナは、部屋で休んでいる。
そこで、カルーナは困っていた。
「カルーナ……」
「お姉ちゃん……?」
アンナは部屋に入るなり、カルーナに抱き着き、ベッドに倒れ込んだのだ。
突如起こった姉の奇行に、カルーナは困惑していた。
「どうしたの?」
カルーナが困惑する理由は多くある。
ピュリシスとの対話により、カルーナの考えは少し変わっていた。
要するに、アンナのことが気になっているのだ。
「きゅ、急に……」
「あのね……」
そのため、今の状況はカルーナにとって嬉しいと同時に、激しく動揺させるものである。
「カルーナとの距離が開いた気がして……」
「う……」
アンナの言葉は、図星であった。
カルーナは自覚したことで、今まで通りアンナと接せなくなってしまったのだ。
それは、自らに対する戒めのようなものであった。
「それは……」
しかし、急に離れるとアンナが困惑すると思い、少しだけ距離を変えることにしたのだ。
その僅かな変化を、アンナに見抜かれるとは思っていなかったのである。
「何かあったの?」
「そうなんだけど……」
だが、どうしてそうなったかをアンナに話すことはできない。
なぜなら、それはカルーナの思いを告げるのと同じ意味だからだ。
言わず後悔するくらいなら、言うことをカルーナは決意している。しかし、まだ勇気が出せず、今言うことはできなかったのだ。
「言えないこと?」
「……うん」
「そっか……」
そこで、アンナはカルーナをじっくりと見つめてくる。
「……でも、私がこうするのは嫌じゃないみたいだね」
「……うん。それは、嬉しいよ……」
カルーナの心を、アンナは見抜いているようであった。
カルーナは、この状況が嫌ではない。ただ、恥ずかしいという思いと、アンナに申し訳ないという思いから、自ら近寄ることを自粛していただけに過ぎないのだ。
「じゃあ、これからは私からカルーナに近づくね」
「え?」
「嫌じゃないなら、別にいいよね?」
アンナの提案は、カルーナにとって思いもよらぬものだった。
カルーナは、その提案を受け入れるかを数秒考える。アンナから近づいてくれるのは、カルーナにしてみれば嬉しいことしかない。
つまり、断る理由がないのである。
「わかった、いいよ」
「よかった……」
カルーナが提案を受け入れると、アンナは優しく微笑んだ。
「じゃあ、遠慮なく……」
「あう……」
そして、カルーナの頬に自分の頬をこすりつけてくる。
アンナは楽しみ、カルーナも嬉しい。それは、二人の安らぎの時間である。
アンナとカルーナは、しばらくそうしているのだった。
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ティリアは、ネーレとともに部屋で休んでいた。
ネーレは羽織っていたマントを脱いで、ベッドに寝転がっている。
ティリアは、そんなネーレを見つめていた。
「なんだ? どうかしたのか?」
「あ、はい……足の調子はどうかと思いまして」
ティリアが見ていたのは、ネーレの足である。
ネーレは森で罠に嵌ったため、足を怪我していた。それをティリアが治療したのだが、何事もなかったのか心配だったのだ。
「ああ、おかげでばっちりさ。ティリアの回復魔法って、すごいんだな」
「い、いえ……」
ネーレはベッドから立ち上がって、その場で跳ねる。
それは、足の怪我をまったく感じさせないものだ。そのため、ティリアも安心できたのである。
「……ところで、ティリア達って、どういう集まりなんだ? 家族とは違うようだし、よくわからないんだよな……」
「あ、それは……」
そこで、ネーレがそんな疑問を口にした。
それは、ティリアも話さなければならないと思っていたことである。
アンナから、勇者であることを話してもいいと許可されていた。そのため、ティリアは説明を始めることにする。
「その、実は、私達は勇者一行なんです」
「……ゆ、勇者!?」
「はい、赤い髪のアンナさんは、勇者なんです」
「ア、アンナが!?」
ティリアの説明に、ネーレは目を丸くした。
それも、当然の反応だろう。
「なんか、すごい人達に拾われたんだな……」
「隠していてすみません。あなたが焦らないようにしようと思って、言い出せなかったんです」
「あ、いや、それはいい。事実、すごく動揺してるし、むしろありがたかった」
ティリアが謝ると、ネーレは首を振ってそれを止めた。
「……それで、一つ聞きたいことがあるんですけど……」
「え? 何だ? なんでも聞いてくれ」
そこで、ティリアは疑問を口にする。
「ネーレさんは、どこから来て、どこに向かっているんですか?」
それは、ずっと気になっていることだった。
この年の少女が、一人で森を歩いていたというのは、おかしい面がある。そのため、ティリアは聞いておきたかったのだ。
「……その」
ティリアの質問に、ネーレは少し表情を変える。
どうやら、話しにくいことのようだ。
「話しにくいことなんですか?」
「いや、その……恥ずかしい話、家出なんだよ」
「家出?」
「家族と上手くいかなくて、家を出たんだ。それで、そろそろ帰ろうと思って……」
その言葉に、ティリアは納得した。
確かに、それなら一人で行動して、あんな所にいたのもわかるからだ。
「それで、家はどこに?」
「……アストリオン王国」
「え!?」
アストリオン王国は、今から向かうオルフィーニ共和国の北に位置する国である。
つまり、かなりの距離があるのだ。
その距離を渡ったというのは、そうとうな労力だろう。
「よくここまで来られましたね……」
「ああ、体力には自信があるんだ」
ティリアは驚愕したが、ネーレはなんてことないかのようにそう言い放つ。
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