赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第71話 イルドニア王国出発

 毒魔団との戦いから数日経った後、アンナ達は、イルドニア王に呼びだされていた。
 アンナ達の今後を話し合うためである。

「よく来てくれたのう。勇者よ」
「はい、王様」
「さて、立ってくれて構わない」

 イルドニア王の前に、アンナ達五人は跪いていた。
 王の合図で、五人は立ち上がる。

「さて、お主達も、そろそろ新たなる国へと向かわなければならん」
「はい……」

 アンナ達は休息を終えたため、新たなる国へと旅立たなければならない。
 また、次の戦いが始まるのだ。

「次の目的地はオルフィーニ共和国……この国から、西へと向かった場所にある国じゃ」
「オルフィーニ共和国……ですか」

 イルドニア王から告げられた目的地は、オルフィーニ共和国という場所であった。

「あの国に向かうには、海を越えなければならん」
「海ですか? 確か、海は海魔軍に支配されているのでは……?」

 アンナは、かつて別の国でそう聞かされている。
 そのため、海の航海は危険だと思ったのだ。

「それは、北の海が主でのう。こちらの海は、比較的安全じゃ」

 アンナの疑問に、イルドニア王はそう答える。
 こちらの海は、大丈夫なようだ。しかし、比較的安全であるということは、それなりの危険があることは確かである。

「最も、海を越えなければ、お主達が向かっていない国には、どの道行けん。多少の危険も、仕方ないのじゃ……」
「……そうですね」

 アンナも、そのことは理解していた。
 ただ、確認しておかなければならなかっただけだ。
 海魔団と戦うのなら、それなりに覚悟をする必要があった。それだけのことである。

「船は既に手配してある。所定の場所に行けば、馬車ごと運んでくれるじゃろう」
「ありがとうございます」

 こうして、アンナ達の次に向かう場所が決まったのだった。





「さて、出発か……」

 アンナ達五人は、馬車に乗り込むことにした。今回も、アンナとカルーナが御者席に座る。ティリアとガルス、ツヴァイは馬車の中に入るのだが、そこでアンナはツヴァイの格好が気になっていた。

「ツヴァイ、馬車の中くらい、鎧を解いてもいいんじゃない?」

 ツヴァイは、魔人の鎧槍アーマード・ランスを鎧として纏っている。半人半魔ハーフであることを隠すためらしいが、流石に息苦しいのではとアンナは思った。

「構わん……人間に見つかると、厄介だろう?」
「でも、そんな格好じゃあ、息苦しくない?」
「俺は、長年鎧を纏っていたのだぞ? これくらい平気だ」
「あ! ああ……」

 そこで、アンナは気づく。
 ツヴァイは魔王軍に、リビングアーマーとして在籍していたのである。そのため、人前で鎧を脱ぐことはできなかったはずだ。
 つまり、ツヴァイにとって鎧を纏って生活するのは慣れており、苦でないのだろう。

「さて、俺は馬車の中に入らせてもらう」

 そう言って、ツヴァイは馬車の中に入る。
 そこで、ツヴァイが手を伸ばし、ティリアに対して言葉を放った。

「ティリア、足元に気をつけるのだぞ。手を貸してやる」
「兄さん、ありがとうございます。でも、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?」

 ツヴァイの提案を、ティリアは丁重に断る。
 ティリアも、流石に過保護だと感じたのだろう。

「ねえ、カルーナ?」
「うん? どうしたの?」
「ツヴァイって、なんていうか……妹好きだよね」
「……確かにそうかも」

 アンナとカルーナが、そんな風に話していると、ガルスが口を開く。

「アンナ、カルーナ、お前達も人のことは言えないと思うぞ……」
「え? そうかな?」
「そうだ」

 ガルスは、アンナやカルーナもツヴァイと変わらないと言ってきたのだ。

「……まあ、確かにそうか」

 確かに、アンナにも思い当たる節があった。
 他人を笑える立場ではなかったのだ。

「まあ、俺も兄妹愛や姉妹愛を否定するつもりはない。家族を愛し、心配するのは当然のことだ」
「家族を愛する……」

 ガルスの言葉に、カルーナが反応した。
 カルーナは、何かを考えているようだ。

「カルーナ、どうしたの?」
「うん、お姉ちゃん……今日はちょっとごめん」
「え?」
「ガルスさん」

 カルーナは、アンナに謝るとガルスに声をかけた。

「なんだ?」
「今回の案内だけでいいので、変わってもらえませんか?」
「む? 俺は別に構わんが……どうかしたのか?」
「はい、ちょっと考えたいことがあって……」

 そう言ってカルーナは、ガルスに地図を渡して、馬車の中へと向かっていく。

「それじゃあ、お願いします」
「カ、カルーナ? ちょっと……」

 アンナの制止も聞かず、カルーナは馬車の中に入ってしまった。
 残されたアンナは、少しショックを受ける。いつも一緒だったカルーナが、何故かわからず離れていく。それが、どうしようもなくショックだったのだ。

「……寂しいのか?」

 隣のガルスが、アンナにそう聞いてくる。

「……うん」

 弱っていたアンナは、誤魔化すこともせず、それに頷く。最早、強がる力も残っていなかったのだ。

「まあ、あの年頃なら、色々悩みもあるだろう。それに、別にお前を嫌ってのことではないようだ。問題ないのではないか?」
「……そうだね。ありがとう、ガルス」

 ガルスの励ましで、アンナは少し元気を取り戻す。
 二人は、御者席に乗り、馬達に合図を出した。

「マルカブ、シェアト、よろしくね……」
「ブルル!?」
「ヒヒーン!?」

 馬達も、元気がないアンナに少し驚いていたが、すぐに走り出す。

「あ、そうだ。ガルスに聞きたいことがあったんだ?」
「聞きたいこと? なんだ?」

 そこでアンナは、あることを思い出していた。
 それは、ガルスがかつていた魔王軍のことだ。

「ガルスやツヴァイは、魔将だった訳だけど、それって何人いるの?」
「ああ、そのことか……」

 アンナが気にしていたのは、魔将の数である。
 今までアンナは、五人の魔将に会ってきたが、何人いるのかは気になることだった。
 それは、後どれくらい戦いが続くのかという指標にもなるからだ。

「魔将は全部で十人いる」
「十人か……」

 魔将は、合計十人いるらしい。
 アンナが倒したといえるのは、四人である。よって、後六人もの魔将と戦わなければならないのだと、アンナは思った。

「お前が今まで会ったのは、剛魔将、竜魔将、狼魔将、鎧魔将、毒魔将。残りの水魔将、海魔将、闇魔将が魔王軍の主戦力だ」
「それだと八人だね」
「ああ、残りの影魔将と操魔将は、魔王の側近に位置する者達だ」
「側近……」

 アンナは、ガルスのおかげで、これから戦うべき者達を理解できた。

「ガルス、ありがとう。魔王軍のことが、少しだけわかったよ」
「このくらいのことなら、いくらでも聞けばいい」

 アンナ達の旅は続いていく。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品