赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第69話 勇者の運命は

 アンナは、ラミアナの最期を看取り、その体を持ち上げた。
 そして、ツヴァイとティリアの元に向かっていく。

「勇者アンナ……」
「ツヴァイ、助けられたね。ありがとう……」

 ティリアによってダメージを回復したツヴァイに、アンナが話しかける。

「……そいつをどうするつもりだ?」

 ツヴァイは、アンナが抱えるラミアナを指さしそう呟く。

「連れて帰って埋葬しようと思ってね……」
「そうか……」

 アンナは、ラミアナをこのまま放っておく気になれなかった。
 敵であっても、誇り高き戦士を雑に扱うことなど、アンナにはできなかったのだ。

「毒魔将が死んだのがわかれば、毒魔団も降伏するだろう……」
「うん、だから、急がなくちゃね……」

 この戦いを終わらせるため、アンナ達はすぐに他の者達がいる場所に向かった。





 アンナ達により、ラミアナの敗北が伝えられたため、毒魔団の団員達は降伏した。
 現在は、団員達の拘束が、イルドニア王国兵士によって行われている。

「カルーナ、ガルス、無事でよかった」
「お姉ちゃんこそ、無事でよかったよ」
「ああ……だが、それより驚くべきことがある」

 そこで、アンナ達は合流し、仲間達が無事であったことを確認するのだった。
 ガルスは、無事を喜びながら、ある人物に目を向けている。

「ツヴァイ……」

 それは、ツヴァイ。
 ガルスにとっては、かつての仲間であり、ここ最近は敵として戦った相手である。

「久しいな……ガルスよ」

 ツヴァイもガルスに応えるように、声を発した。

「生きていたのだな……」
「ああ、俺もお前と同じことになったようだ……」

 二人は、お互いに笑い合う。
 魔王軍を抜け、勇者側につく。二人の立場は、似たものだった。

「とにかく、一度王国に戻ってから話し合おう」

 アンナの言葉に、皆頷く。
 そして、アンナ達は、王国に帰還するのだった。





 アンナ達は、いち早く王国へと帰還していた。
 イルドニア王国の兵士達は、毒魔団の団員を連れて、後から来ることになっている。
 ラミアナの遺体も、そこで運ばれてくるはずだ。

「勇者よ……よくやってくれたのう」

 アンナ達は今、王の前にて跪いている。
 イルドニア王は、アンナ達の成果に大きく喜んでいるようだ。

「ありがとうございます……王様」
「うむ、これで我が国もしばらくは安泰じゃ」

 そんな会話をしている時だった。
 兵の一人が、イルドニア王の近くに歩み寄り、何かを伝えたのだ。

「何……!?」

 それによって、イルドニア王は目を丸くする。
 何か問題があったようだ。

「王様、何かあったんですか……?」
「うむ、後から帰還するはずだった兵士の一部が、何者かに襲われたそうなのじゃ」
「襲われた!?」

 イルドニア王の言葉に、アンナ達も驚いた。
 戦いが終わったというのに、一体誰がそんなことをしたのだろうか。

「……そこで、あることが起こったようなのじゃ」

 驚くアンナ達に、イルドニア王はさらに言葉を放つ。

「毒魔将ラミアナの遺体が、その者に奪われたそうなのじゃ……」
「ラミアナが……!?」

 兵士を襲った何者かの狙いは、ラミアナの遺体だったようだ。
 イルドニア王国軍の兵士を襲い、ラミアナの遺体を奪う者、そんなことをするのは限られた者であろう。

「ガルス、ツヴァイ……」

 そこでアンナは、魔族側の二人に目を向けた。
 もしかしたら、魔族側で遺体を使う者がいるかもしれないと思ったからだ。

「……俺の知る限りでは、死者蘇生の類を使えるものなどいないな」

 ガルスはそう言いながら、顎に手を当てる。
 何かを考えているようだ。

「……死者蘇生か」

 一方ツヴァイには、死者蘇生で思い当たることがあった。
 なぜなら、彼自身が瀕死の状態であったプラチナスを回復させたからだ。
 だが、あの時のプラチナスはまだ生きている状態であった。ラミアナが完全に死んでいたことから、同じ方法ではないのは確かだ。

「俺も、死者を完全に蘇らせる方法は知らん」

 結論として、ツヴァイにもわからないことだった。

「一体何者が、どんな目的で……」

 もしかしたら、魔族でも、知られていないようなものがあるのかもしれない。
 そのまだ見ぬ陰謀は、アンナの心に不安を残すのだった。





 アンナが部屋で休んでいると、その部屋の戸が叩かれる音がした。
 部屋にいたカルーナが、その戸を開ける。

「あ……」
「お疲れのところ、申し訳ありません。勇者様とお話したくて……」

 そこには、イルドニア王国の王女であるセリトアであった。

「今、お姉ちゃんは疲れているので……」

 流石に、戦いの後でこんな訪問をするのは、非常識である。
 アンナもカルーナもそう思った。そのため、カルーナは追い返すことにしたのだ。

「いえ……これだけは話しておかなければならないんです」

 しかし、セリトアの目は、今までと何かが違った。

「一体、何を話したいんですか?」
「勇者様の戦いに関することです……」
「……わかりました。入ってください」

 カルーナは、その目を見てセリトアを通す。
 その目は、それをするのに十分な何かがあったのだ。
 セリトアとアンナ、さらにカルーナはテーブルを囲み、話すことにした。

「それで、話というのは……」
「勇者様……私は、ずっと勇者という存在に憧れていました」

 アンナが聞くと、セリトアはゆっくりと話し始める。

「……ところで勇者様は、先代の勇者様がどうなったか、知っていますか?」
「……今の魔王との戦いで、亡くなったと聞いています」
「そうです。ですが、先代の勇者様は、その前に先代の魔王を倒しているんです」

 セリトアが話しているのは、アンナの前に勇者だった者のことだ。
 その人物のことは、アンナももちろん知っている。

「それは一体、何を……?」
「つまり、先代の勇者様は、戦いに勝ったのに、亡くなられたのです」
「……それは」
「今までの歴史もそうです。魔王を倒しても、新たな魔王が現れます。つまり、勇者の戦いは終わらないということです」

 それは、勇者の残酷ともいえる運命の話であった。
 終わらない戦い、それがセリトアの伝えたかったことなのだろう。

「その戦いに、どれだけの意味があるのでしょうか? 私にはとてもわかりません」

 そう言って、セリトアは立ち上がった。これで話は終わりなのだろう。

「勇者様、死んではいけませんよ。可愛い妹さんが、悲しみますからね」
「え……? 私?」
「ふふ、ちょっと反応が可愛くて、からかっちゃいましたけど、あなたのお姉ちゃんをとったりはしませんよ」
「ええ!?」

 セリトアは、最後にそんな発言をしていった。
 カルーナが目を丸くしている内に、セリトアは去っていく。
 その顔は、笑顔であった。

「気づかれていたみたいだね……」
「……うう、そうだったんだ……」

 カルーナは、顔を赤くした。
 まさか、からかわれていたとは思わず、自分の行動が恥ずかしくなったのだ。

「勇者の運命か……」

 カルーナが照れている中、アンナは小声でそう呟く。
 セリトアの言った通り、今の魔王を倒しても、次の魔王が現れるかもしれない。そうした場合、自分はどうするのか、それを考えなければならなかった。

「……」

 アンナは、平和な暮らしを取り戻すために戦いを始めた。
 その後、魔王軍に襲われた人々を知り、その人達を守りたいという使命感も芽生えたのだ。
 ならば、この戦いが終わっても、戦い続けるのか。それは、今のアンナには答えの出せないものであった。

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