赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第67話 毒魔の禁術

 ティリアの回復魔法によって、アンナからラミアナの毒は抜けきった。
 アンナは、聖剣を構えながら、ラミアナの前に立つ。

「悪いけど……こっちは回復させてもらったよ」
「……構わない。こちらが禁じ手を使ったのが悪い……」

 正々堂々を心情のラミアナに対して、アンナは少しだけ申し訳なく思っていた。最も、手加減するつもりはない。アンナにとって、この戦いは国を救うためのものだからだ。

「兄さん……!」
「ティリア……」

 アンナの後ろでは、傷ついたツヴァイにティリアが駆け寄っていた。

「今、回復魔法を……」

 ティリアは、ツヴァイに回復魔法をかける。しばらくすれば、ツヴァイも立ち上がってくるだろう。

「ラミアナ……」
「この私が、降伏するとでも?」

 アンナがしようとした提案を、ラミアナが先に潰す。
 戦況は、アンナ達が有利だったが、ラミアナはその程度で諦めたりはしなかった。それは、アンナも薄々わかっていたことだ。

「なら……決着をつけるとしよう」
「来るか……!」

 アンナも、ただ黙って喋っていた訳ではない。
 ラミアナに言葉をかけつつ、聖闘気を練っていたのだ。
 アンナは聖闘気を全身に纏いつつ、ラミアナの元に駆け寄っていく。

「それなら……」

 ラミアナは剣を広げ、その身を回転させる。

回転剣舞ブレード・ロール!」

 回転による衝撃によって、アンナを迎え撃つもりなのだろう。
 だが、聖闘気を纏ったアンナに、その程度の受けは通用しない。

聖なる十字斬りセイント・クロス!」
「ぐぬうっ!」

 聖闘気による十字の攻撃が、ラミアナの回転をものともせずヒットする。

「ぐ……!」

 ラミアナは回転をやめて、その場に立ち尽くした。
 ツヴァイとの戦いも合わせて、ラミアナの体力は限界近い。
 その状態で、万全のアンナを相手できるはずがないのだ。

「……まだだ!」
「むっ!?」

 停止したラミアナに、アンナのさらなる攻撃が畳みかけられる。
 聖剣による斬撃を、ラミアナはなんとか受け止めるので、精一杯だ。

「くっ! ここまでか!?」
「はあああああっ!」

 アンナの攻撃に、ラミアナは諦めともとれる発言をした。
 アンナは、その隙にさらなる攻撃を行おうとする。

「何!?」

 しかし、そこで不思議なことが起こった。
 ラミアナの後ろから、何かが飛んできたのである。
 それは、小さな白い物体であった。

「くっ!」

 アンナは、一度ラミアナから距離をとる。
 謎の物体を警戒しての行動であった。

「これは……!」

 その物体に対して、ラミアナも目を丸くする。
 そのことから、それはラミアナが行った攻撃でないことがわかった。
 アンナは、その白い物体をよく見てみる。

「あれは……蛇!?」

 その物体の正体は、蛇。
 白い蛇が突如現れ、アンナを攻撃したのである。

「この蛇……まさか、メデュシアの?」
「メデュシア? 一体何を言っているんだ?」
「そうか……お前も散ってしまったのか。なんということだ……」

 アンナの言葉が、耳に入っていないかのように、ラミアナは蛇に語りかけていた。
 その口振りからアンナは、その蛇がラミアナの部下のものであると予測する。それがここに来たということは、カルーナかガルスが勝利したことを意味していた。

「……共に、戦ってくれるのか? メデュシアよ……」
「何が起ころうとしているんだ……?」

 白い蛇は、ラミアナの言葉に反応し、ラミアナに近づいていく。
 そして、ラミアナはそれを手にとる。

「メデュシア……お前の力を借りるぞ!」
「なっ!」

 次の瞬間、ラミアナの体に白い蛇が入っていった。
 その直後、ラミアナの背中から、二本の腕が生えたのだ。
 さらに、その手には二本の新たなる剣が握られている。アンナには、何が起こったかまったくわからなかった。

「勇者アンナ! あれは……禁術だ!」
「禁術!?」

 アンナが疑問に思っていると、後ろにいるツヴァイがそう言い放つ。
 どうやら、ラミアナに起こった出来事について知っているようだ。

「死した者が、その最期に力を振り絞り、他者に力を明け渡す術があると、聞いたことがある……」
「それじゃあ、あれはラミアナの部下が起こした禁術ということ!?」
「そうだ……そして、その禁術を受けた者は、使用者の精神を受け継ぐと言われている。気をつけろ……あれは最早ラミアナではない」
「そんな……」

 アンナは、ツヴァイの説明で、大まかなことを理解する。
 単純な話、ラミアナは強くなり、その精神まで変化したということだ。
 アンナは、何故か嫌な予感がした。

「ふふふ……すごい力だ。メデュシア……恩に着る」
「ラミアナ?」
「勇者よ……最早、今までの私ではないぞ」
「これは……」

 ラミアナの様子は、明らかに変わっている。
 それは、アンナにも一目で理解できる程だった。
 先程まで、誇りに溢れていたラミアナの目に、少しだけ邪悪さのようなものが滲んでいるのだ。

「ラミアナめ……部下に対して信頼していたとはいえ、あのような部下を受け入れるとは……」

 ツヴァイにも、その変化は理解できたのか、忌々しそうに声をあげていた。

「どちらにせよ……やるしかない!」

 アンナは、地面を蹴り駆け出す。
 ラミアナが変化したとしても、アンナのやることは変わらなかった。

「ふふ……停止の魔眼フリーズ・アイ
「くっ!?」

 その瞬間、ラミアナの眼が光輝く。
 その眼から、アンナは瞬間的に目を逸らす。それを見ると、良くないことが起こると理解したからだ。

「ティリア!」
「兄さん!?」

 ツヴァイも同時に理解し、目を瞑りながら、ティリアの目を塞ぐ。

「無駄だ!」
「何!?」

 しかし、その眼を見なかったにもかかわらず、アンナの体に変化が起こった。
 アンナの体が、動かなくなってしまったのだ。

「しゃあああ!」
「ぐわああっ!」

 そのアンナに、ラミアナの尻尾が振るわれた。
 アンナの体は、大きく吹き飛び後退する。

「まだまだ!」

 吹き飛んだアンナの元に、ラミアナが迫ってきた。
 その四本となった腕からは、それぞれ剣が握られている。

「見よ! これぞ四刀流――」
「くっ!」

 ラミアナは飛び上がり、アンナの頭上をとった。
 そして回転しながら、突きを放つ。

ネオ蛇の嵐スネーク・ストーム!」
「聖なる光よ!」

 ラミアナの攻撃に対して、アンナは防御の態勢をとる。

「広がり、包め!」

 アンナの周りを聖なる光が覆う。
 そこに、ラミアナの突きが刺さっていった。

「無駄だ!」
「くっ……!」

 聖なる光の壁に、穴が開いていく。
 その衝撃に、聖なる光が耐えられないのだ。

「このままでは……!」
「このまま突き殺してくれる!」

 アンナは思考する。この状況を打破する方法を。

「勇者アンナ! 受け取れ!」
「え!?」

 そんなアンナに、一つの声が響いた。 
 それは、ツヴァイの声。

「それは……」
「はっ!」

 アンナの元に、ツヴァイから槍が投げつけられた。
 聖なる光に穴を開け、アンナはそれを受け取る。

「そいつを纏え!」
「ツヴァイ……ありがとう!」

 アンナの手元で、魔人の鎧槍アーマード・ランスが光輝く。

変化チェンジ・アーマード!」

 その体に、槍が鎧となって纏われる。

「そんな鎧で……!」
「見せてやる……これが、聖なる闘気の防御!」

 纏った鎧に、聖なる闘気が戻っていく。

聖なるセイント・鎧の障壁アーマー・バリア!」
「何……!」

 ラミアナの突きが、鎧に放たれるが、アンナはびくともしない。
 鎧と聖闘気の力によって、ラミアナの攻撃は遮断されたのだ。

「はあああああっ!」
「ぐがあああっ!?」

 そして、落下するラミアナに対して、アンナの攻撃が振るわれた。
 ラミアナの体が大きく吹き飛び、壁に衝突する。

「ラミアナ……もう一勝負、付き合ってもらうぞ」
「勇者……」

 鎧を纏いしアンナとラミアナの戦いは続いていく。

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