赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第65話 纏いし槍

 毒魔将ラミアナの毒によって、窮地に立たされたアンナを助けたのは、かつての敵である鎧魔将ツヴァイであった。
 ツヴァイは鎧を纏っているが、その鎧は以前とは違う。以前の鎧よりも一回り小さな鎧であり、漆黒に金色の模様が施されていた。

「ガルスに続き、お前まで……」
「……悪いが、俺はそこまで魔王軍にこだわる必要はないのでな」

 ツヴァイとラミアナは、お互いに構えながら、話をしている。
 ラミアナは、ツヴァイが魔王軍を裏切ったことが許せないようだ。

「お前は、前々から魔王軍のことを第一に考えていない面があった。しかし、まさか裏切るとは思っていなかったぞ……」
「なんとでも言うがいい。俺は俺のために戦うまでだ……」

 ラミアナの言葉を、ツヴァイは気にしない。
 今のツヴァイは、ティリアを守ることしか考えていなかった。

「……お前の正体は聞いているが、やはり半人半魔ハーフとは信用できないようだな……」
「……ふん! お前も有象無象の魔族と変わらんということか……」

 ツヴァイは、ラミアナをあざ笑う。
 半人半魔ハーフという差別は、これまで何度も受けてきた。どれだけ優れた将であったとしても、それは変わらないようだ。

「プラチナスや、ガルスのような者は、やはり少ないようだな……」

 ツヴァイにとって、魔王軍で信頼できるのは、この二人だけであった。その二人の存在が、どれだけありがたいかを、ツヴァイは噛みしめる。

「……そういう意味では、アンナやカルーナも同じか」

 そして同時に、ティリアのことを受け入れた二人の人間のことも思う。彼女らが、ティリアを受け入れてくれて本当によかったと。

「……いや、俺の態度も原因か」

 さらに、ツヴァイは思う。自身が魔王軍に受け入れられなかったのは、自分の態度にも原因はあったのだと。

「まあ、いい……」

 そこでツヴァイは、思考を捨てる。
 どんなことがあろうと、今は目の前にいる敵を倒すだけだからだ。

「鎧魔将! いくぞ!」
「来い!」

 ツヴァイに対して、ラミアナが迫ってくる。その二刀流が、大きく振りかぶられながら。
 一方のツヴァイは、纏った鎧のみの徒手空拳である。

「はああああっ!」
鎧の障壁アーマー・バリア!」

 ラミアナの剣が襲い掛かってきた瞬間、ツヴァイの鎧が闘気で覆われた。

「何!?」

 ラミアナの剣は、その闘気によって受け止められ、それ以上進まない。

「この程度か!」

 ツヴァイは、その剣を弾きつつ、態勢を変える。
 それは、槍を使う構えであった。

「なんだ? あの構えは?」
変化チェンジランス……」

 そこで、ツヴァイの鎧が光を放つ。
 そして、鎧がなくなり、中のツヴァイが姿を現す。

「これが……」

 その様子に、ラミアナは目を丸くする。彼女も、ツヴァイのこの姿は初めて見るからだ。
 肌色の肌に、黒き羽と尻尾、頭から角が生えている半人半魔ハーフ、それがツヴァイ本来の姿である。

「何?」

 ツヴァイの姿に驚いたラミアナは、さらに驚いた。
 先程まで何も持っていなかったツヴァイの手に、黒と金の槍が握られていたからである。
 ツヴァイは、その槍をラミアナに向け、言葉を放つ。

雷の槍サンダー・ランス!」
「ぬぐうっ!?」

 ラミアナに、雷を纏った槍が突き刺さる。
 闘気と魔力、その二つを併せ持つ槍は、ラミアナの体を大きく吹き飛ばした。

「……」

 そこで、ツヴァイは思い出す。この武器を手にした時のことを。





「ツヴァイ……これを受け取れ」
「これは……?」

 ツヴァイは、エスラティオ王国の女王であるレミレアから、黒と金の槍を渡された。
 それが、なんなのかツヴァイは知らない。

「そなたらを探す過程で、鎧魔城に地下を見つけてな。そこで、手に入ったのがその槍だ」
「ほう……」

 ツヴァイの武器は、アンナ達との戦いの中で消失していた。
 ツヴァイにとって、その提案はありがたいものだ。

「少し調べてわかったが、その槍は、かつてエスラティオ王国の王家に仕えし者が持っていた槍だ。それも、普通の槍ではない」
「何……?」

 そう言って、レミレアはツヴァイに対して笑みを浮かべる。

「その槍の名は、魔人の鎧槍アーマード・ランス……槍の姿と鎧の姿、二つの姿を持つ武器……」
「二つの姿だと……!?」

 レミレアの言葉に、ツヴァイは目を丸くした。
 そのような武器は、魔王軍にいた頃ですら、聞いたことがない。

「槍に念じてみるのだ。そうすれば、その槍はそなたの望む形となるだろう」
「……」

 ツヴァイは目を瞑り、ゆっくりと念じる。その槍が、鎧へと変化するように。

「むっ!?」

 その瞬間、槍から眩い光が放たれる。
 そして、次の瞬間にはツヴァイの体は、鎧に覆われていた。

「それが、魔人の鎧槍アーマード・ランスの特性である。鎧魔将であり、槍の名手であったそなたに、正に相応しい武器であろう?」
「……何故だ?」
「む?」

 ツヴァイは、レミレアの態度に疑問を覚えてしまう。

「俺は、お前の国を襲った敵だった者だ。そんな俺に、この武器を渡していいのか?」

 かつての敵であった自分に、王家の秘宝ともいえる武器を手渡すなど、ツヴァイには理解できなかった。

「……その武器を宝物庫に閉まっていて、なんの意味がある?」
「……何?」
「武器というものは、飾りではない。それが戦いにおいて行使されてこそ意味がある」

 レミレアは、ツヴァイに対してはっきりとした口調でそう言い放つ。

「それに、そなたを疑おうなどと思ってはおらん。アンナ達の救援に向かうそなたを、妾が冷遇するはずもない」
「女王……」
「そして、そなたは……我が国の人間でもある」
「……」

 レミレアは、悲しそうな表情で天を見上げた。
 それが誰に向けたものなのか、ツヴァイはすぐに理解する。

「女王よ、感謝する……」
「ツヴァイ……」

 ツヴァイは、膝をついていた。
 レミレアの誇り高き精神と、自らの母に対する思いを聞き、そうせずにはいられなかったのだ。

「この鎧で、必ず勇者の力になると約束しよう。俺の母に誓って……」
「……そうか。それなら安心だな……」

 こうして、ツヴァイは新たなる武器を得たのだった。





 ツヴァイの一撃によって、ラミアナは大きく後退した。

変化チェンジアーマード

 ツヴァイは槍を鎧に変化させ、ゆっくりとラミアナに歩み寄っていく。
 あの程度の一撃で、沈むラミアナではない。そのため、万全の状態で追撃したかったのだ。

「いくぞ……」
「くっ……!」

 ツヴァイは、ラミアナまで近づくと、大きく飛び上がった。
 そして、片膝を下に向け、落下する。

稲妻鎧落としライジング・ブレイク!」
「ぐがああっ!」

 電撃を纏いし、ツヴァイの膝が、ラミアナに落とされた。
 その激しい痛みに、ラミアナは悲痛な声をあげる。

変化チェンジランス!」

 そこでツヴァイは、空かさず鎧を槍に変えた。
 さらに、その槍をラミアナ目がけて突く。

雷の槍サンダー・ランス!」
「ぬううっ!」

 雷を纏った槍が、ラミアナの体を吹き飛ばす。
 ラミアナは、空中へと上げられ、直後、その体が地面に叩きつけられた。

「がはあっ!」
変化チェンジアーマード

 その隙に、ツヴァイは槍を鎧に変化させる。
 そして、再びラミアナに近づいていく。

「……くっ!」
「……何!?」

 そこで、ツヴァイの体にあるものが飛んできた。
 それは、ラミアナの尻尾である。

「ぐ……」

 ツヴァイの体に、その尻尾が巻き付いていく。
 それにより、その両手両足の動きが封じられる。

「これ以上……好きにはさせん!」
「ほう……」

 ラミアナは、拘束したツヴァイにその二本の剣を向けた。

「俺を捕まえられると思ったか」
「なっ!? ぐわああっ!」

 しかし、その瞬間、ツヴァイの体に電流が走る。
 その衝撃によって、ラミアナの拘束する力が緩まっていく。

「くっ!」

 ラミアナは、ツヴァイから大きく距離をとった。
 このままでは、やられ兼ねないからだ。

「毒魔将……お前もここまでだ」
「くうっ……」

 ツヴァイとラミアナの戦いは続く。

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