赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第59話 毒魔団副団長ピュリシス

 カルーナは、ピュリシスと対峙していた。
 洞窟の中でも、ピュリシスによって、周囲には風が吹いている。

「ふふ、この私の風……躱せるか!?」
「くっ……!」

 ピュリシスは、翼を羽ばたかせ飛び上がった。
 洞窟のために天井はあるが、それでもそれなりの高さだ。

風の刃ウィンド・カッター!」

 ピュリシスは空中で、風を集め、それを打ち出した。

「うっ!」

 カルーナは身を翻し、それを躱す。
 カルーナの後ろにある壁が切り裂かれ、崩れていく。

「くっ! 紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 カルーナは、その手に炎を集中し、解き放つ。

「ふっ! その程度!」

 ピュリシスは、再び風を集中させる。

風の壁ウィンド・ウォール!」
「何!?」

 風が集まってできた壁によって、カルーナの火球が遮られた。
 その様子を見て、ピュリシスは不敵に笑う。

「ふふ、この私に遠距離技など通用しない。風による障壁で、全て防げるからな」
「……それはどうかな?」

 それに対して、カルーナも笑い返す。

「あなたの障壁は、確かに強力かもしれない……でも、私は先日、あなたよりよっぽど魔法が効かない敵達と戦ったばかりなんだ……」
「……何が言いたい?」
「あなたの障壁なんて、大したものではないってこと!」

 カルーナは手に魔力を集中させる。
 剛魔団魔術師ボゼーズ、竜魔将ガルス、鎧魔団副団長プラチナス、カルーナが今まで戦った相手に、まともに魔法が効く相手などいなかった。
 そのため、風による障壁など、取るに足らないものなのだ。

紅蓮の火球ファイアー・ボール――」
「何度やっても無駄だ!」

 カルーナが火球を放つと同時に、ピュリシスが風を集めていく。

風の壁ウィンド・ウォール!」

 ピュリシスの前に、風による障壁が現れる。
 ピュリシスは、不敵な笑みを浮かべながら、火球を待つ。

双火ツイン!」

 しかし、そこで火球に変化が起こる。
 カルーナの合図とともに、火球は二つにわかれ、ピュリシスの後方に回り込んだ。

「くっ!」

 ピュリシスは、それを認識し、咄嗟に体を回転させた。

風の回転ウィンド・スピニング!」

 ピュリシスの回転により、周囲に風が巻き起こる。
 その風圧によって、二つの火球は消え去ってしまった。

「あ、危なかった。なんという攻撃……!」
「くっ……これじゃあ駄目か……」

 ピュリシスは、冷や汗をかきながら、カルーナを見つめていた。
 カルーナは、己の攻撃の失敗を悔しがる。
 カルーナとしては、相手が油断している内に、一撃くらいは入れておきたかったのだ。

「なるほど……お前の力を侮らない方がいいようだな……」
「私としては、侮ってくれた方がありがたいんだけどね……」
「だが、もう油断することはない……風の刃ウィンド・カッター!」

 ピュリシスの周囲から、風の刃が解き放たれる。

「くっ!」

 無数の風が、カルーナに襲い掛かってきた。
 カルーナは、必死で体を動かし、その攻撃を躱していく。

「まだ、まだ!」

 ピュリシスから、次々と風の刃が放たれる。

「うっ!」

 風の刃が、カルーナの体を掠めた。
 カルーナの服と皮膚が切り裂かれ、そこから血が流れる。

「ふふ、まだだ!」
「くっ……!」

 さらなる攻撃に、カルーナは身を転がして、それを躱していく。

「まずい……」

 ピュリシスが攻撃を続ける限り、カルーナは中々反撃できない。
 さらに、単純な攻撃の場合は、風の障壁で防がれてしまう。

「ここは……」

 カルーナは、手に魔力を集中させる。
 躱しながらでは、正確なコントロールができない。
 そのため、狙いは大雑把だ。

小さなリトル紅蓮の火球ファイアー・ボール!」
「はっ!? どこを狙っている!?」

 火球は、ピュリシスから大きく外れていた。
 しかし、ピュリシスはすぐにそちらに目を向ける。これは、カルーナのことを侮っていない故だろう。

「まさか! 天井!?」

 カルーナの狙いは洞窟の天井であった。
 ピュリシスは、それを見て、すぐに攻撃を中断する。天井が崩れてくると、思ったからだろう。
 しかし、それはカルーナの狙い通り。

「何!? 崩れない!?」
「かかったね!」

 カルーナは、火球の威力をかなり弱めていた。天井を壊してしまうと、最悪の場合、洞窟が崩れ、ここにいる全員が生き埋めになりかねないからだ。
 そして、一番の狙いは、ピュリシスの攻撃を中断させることだった。

「喰らえ! 紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 カルーナの手から、火球が放たれる。

「くっ! しかし、結果は同じだ! 風の壁ウィンド・ウォール!」

 だが、ピュリシスもすぐに風の障壁を展開していく。

双火ツイン!」

 カルーナの火球が、二つにわかれた。
 それに合わせて、ピュリシスは体を回転させる。

風の回転ウィンド・スピニング!」

 その風によって、炎が消え去っていく。
 しかし、カルーナは、その隙に魔力を練っていた。
 それは、カルーナの考えた最大級の魔法を放つためだ。 

 カルーナは、鎧魔団との戦いの後、自身が強くなる方法を考えていた。
 そのこともあって、エスラティオ王国で書物を漁り、新たなる魔法を探していたのだ。
 
 そこで、カルーナはいくつかの魔法を見つけられた。
 その中でも、今から放つのは、一番強力なものである。

「なんだ!?」

 カルーナから迸る魔力は、回転を終えたピュリシスさえ驚かせた。
 カルーナは、杖を地面に突き刺し、両手を構える。

紅蓮の不死鳥ファイア・フェニックス!」

 カルーナの手から、炎が鳥の形となって、ピュリシスに飛んでいく。

「くっ!」

 その魔力に、ピュリシスは風の障壁では防げないと判断した。
 そのため、回避することを選ぶ。

「何!?」

 だが、火の鳥はピュリシスを追跡していく。
 ピュリシスは、それを見て、体を回転させる。

風の回転ウィンド・スピニング!」

 その回転によって、火の鳥は散らばってしまった。

「ふふ! どうやら、私の力で対処できる威力だったようだな!」
「……それは、どうかな?」
「何!?」

 そこでピュリシスは、目を丸くした。
 回転によって、散らばった火の粉が、一つに纏まっていくのだ。
 火の粉は集まり、だんだんと鳥の形に戻っていった。

「なんだ! これは!?」

 火の鳥は、そのままピュリシスに襲い掛かってくる。
 ピュリシスは、体をもう一度回転させて、火の鳥を払う。

風の回転ウィンド・スピニング!」

 その行動で、またも火の鳥は散らばっていく。
 しかし、火の粉は、再び集まって、鳥の形に戻っていった。

「ば、馬鹿な!?」
「不死鳥は、何度でも蘇る!」

 カルーナの放った言葉は、はったりである。
 火の鳥は、何度かは元の形に戻るが、流石にそれは無限大ではない。
 だが、それをわざわざピュリシスに教える必要など、どこにもないのだ。

「くっ!」

 その言葉に、一瞬だけピュリシスの思考が停止する。
 本当にそうなのかもしれないという疑念が、ピュリシスの体を止めたのだ。

「ぐわああああああっ!」

 ピュリシスの体が火の鳥に包まれ、燃え上がった。
 その熱量と、激しい痛みに、ピュリシスは大きな声をあげる。

「ぐうううっ!」

 ピュリシスは、どんどんと高度を下げていく。

「今!」

 カルーナは、その手に魔力を手中させる。
 ここで、一気に決着をつけるためだ。

紅蓮の火球ファイアー・ボール!」
「ぬううううっ!」

 ピュリシスの体に、火球が着弾し爆発する。
 その体が、ぼろぼろと崩れていくのが、カルーナには見えた。

「……やった?」

 カルーナの目には、燃えながら崩れ落ちるピュリシス。
 しかし、その姿にカルーナは何故か違和感を覚えていた。

「一つ、お前の言葉を訂正しよう。私は……ハーピィではない」
「え?」
「私はセイレーン。そして、セイレーンは二つの姿を持つ」

 ピュリシスの体が、炎の中で変化していく。
 羽が落ち、鳥のような下半身が、魚のように変化する。

「これが、私のもう一つの姿!」

 炎が弾け、その中からピュリシスが現れた。
 その姿を見て、カルーナは声をあげる。

「マーメイド!?」
「さあ、第二ラウンドといこうか!」

 カルーナとピュリシスの戦いは続いていく。

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