赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~
第53話 戦いを終えて
アンナ達は、エスラティオ王国に戻り、ツヴァイが鎧魔城とともに散ったことを報告した。
すると、レミレアは、すぐに兵士達に命じて、鎧魔将ツヴァイの死体の探索を開始させた。
「さて、なんというか、一人、気になって仕方ない者がおるのだが……」
王座の間にて跪くアンナ達に、レミレアはそう言った。その視線は、ガルスに向けられており、なんとも微妙な表情をしている。
「そ奴は、魔族であるな。一体、何故ここにおるのだ?」
「それは、彼が私達の味方だからです。今回の戦いも彼がいなければ、私達はここにいなかったでしょう」
「味方? それはどういうことなのだ?」
アンナが答えたが、女王の疑念は晴れそうにない。なぜなら、目の前にいるのは、敵の種族である。それも、当然だろう。
そんな中、ガルスがゆっくりと口を開いた。
「俺の名は、ガルス。かつて、竜魔将だったものだ」
「竜魔……将!? まさか、そなたがあのガルスか!?」
女王は目を丸くして、驚いている。しかし、ガルスはそれを気にしていなかった。
「今は、訳あって、アンナ達に助太刀することに決めた。俺を罰したければ、それでも構わんがな」
レミレアはそこまで聞いて、表情を改めた。ガルスの真剣さが伝わったからだ。彼女は、ゆっくりと口を開いて、ガルスに言い放った。
「それなら、良いだろう。よくは知らんが、アンナ達は、そなたに助けられたようだしな。魔族であろうと、それならばよかろう」
「……ありがたきお言葉」
レミレアの寛大ともいえる対処に、ガルスは頭を下げる。
「よかった。これで、これからも一緒に戦えるね、ガルス」
「ああ、この俺で良ければ、力になろう」
これ程、頼もしい味方は、他にいないとアンナは感じていた。天下の竜魔将は、今勇者の仲間ガルスへと生まれ変わったのだ。
「さて、そなたらもご苦労であった。各自休むといい。ガルスにも部屋は用意させよう」
レミレアの言葉で、各々は休息をとることになった。
◇
ティリアは、休む前に、ガルスの治療を行うことにした。ここに来るまでに、ガルスは怪我を治せていない。そのため、その体の傷は深刻なものとなっていた。
「回復呪文!」
「む……」
「これは……」
回復魔法をかけることで、体の傷は治療できる。しかし、その他の問題をティリアは理解していた。それは、ガルスも同じであろう。何か察したような表情をし、ティリアを見つめていた。
「ガルスさん……」
「……なんだ?」
「あなたの傷は、治せますが、恐らく、その体は今まで通りの体には戻らないと思います」
「そうか……」
ガルスの体は、傷つきながら動かし過ぎており、限界まで使用した肉体は、回復魔法を使っても、元のように動かせない程になっていた。
「確かに、体に違和感があるな……体力も筋力も落ちているようだ」
「はい、安静にしておけば、また違ったかもしれませんが……」
「いや、いい。後悔などないからな。俺は、自分がやりたいように、やっただけに過ぎん」
そう言い、ガルスは微笑む。彼にとっては、また鍛え直せばいいだけという感覚なのだろう。
「俺のことより、お前は大丈夫なのか?」
「え?」
「兄を失い、悲観しているところで、俺の治療などする必要はないぞ」
ガルスの言葉に、ティリアは顔を暗くした。しかし、すぐに笑顔になる。
「私は、今自分ができることをします。それでいいんだと思います」
「そうか……」
ティリアは、後ろ向きになるのはやめることに決めていた。それを考えると、苦しくなるだけだからだ。
「奴と……」
「え?」
そこで、ガルスがふと口を開いた。
「奴と話したことがあるのだ。家族の話をな……」
「家族の話?」
「ああ、俺は、奴の正体を知っていたのだ」
「え! そうだったんですか!?」
ガルスの唐突な言葉に、ティリアは目を丸くする。それはつまり、ツヴァイが半人半魔であることを知っていたということ。
「奴は、言っていた。母親は、人間から自分を逃がすために、囮になって犠牲になったと」
「母が!? そうだったんですか……」
「父親は、自分を魔族の領域に入れて欲しいと懇願し、殺されたのだと」
「そ、そんな……父が……」
ティリアは、目に涙を浮かべていた。二人が何故亡くなったのか、それを知った時、自然と涙が溢れていた。
「奴がいなくなったということは、俺がお前に伝えるべきことだった。すまなかったな……」
「……いえ、ありがとうございます」
ティリアは、ゆっくりと頭を下げた。母と父の最期は、悲しいものだが、知らないよりはずっといいはずだ。
その後も、ガルスの治療は続いていった。
◇
「はあ……」
アンナとカルーナは、治療を終えて、部屋に戻っていた。その時、カルーナがため息を漏らしたのだ。
「どうしたの? カルーナ?」
疑問に思ったアンナは、カルーナに問い掛ける。すると、カルーナはゆっくりと口を開くのだった。
「結局私は、プラチナスを倒せなかった」
「それは……」
「それだけじゃないんだ。私、ほぼ自爆みたいな技を使おうとしていたんだ」
「カルーナ、そんなことを……!?」
アンナは、思わずカルーナの肩に手を置いたが、直後に気づいた。カルーナは既に反省しているのだ。自分が責めても仕方がないことだった。
「ごめんね……お姉ちゃん――きゃっ!」
そのため、アンナは代わりにカルーナを抱きしめた。
「大丈夫……助かったんだから、それでいいじゃないか」
「……うん、ありがとう。お姉ちゃん……」
カルーナはアンナを抱きしめ返し、ゆっくりと頷く。
「でも、私ももっと強くならないとね……」
「カルーナ、そんなに思いつめなくていいよ。プラチナスとは相性が悪かっただけで、カルーナは強いさ……」
「うん……」
アンナは優しくカルーナに語りかける。しかし、それでも、カルーナは強くなりたいと思っていた。
これから激化していく戦いの中で、アンナを助けながら自分も助かるには、今のままでは足りないと感じたからだ。
カルーナはそう考えつつ、アンナを抱きしめるのだった。
◇
「はあー」
カルーナは一人お風呂でため息をついていた。今日は、いつもと違い、アンナとは別々である。疲れていることを理由に、カルーナが断ったのだ。
アンナは、少し驚いていたが、すぐに受け入れてくれた。アンナ側も、カルーナが悩んでいることは知っていたためだ。
「強くなりたいなー」
「ふふ、なりたか……」
「えっ?」
カルーナが、風呂場で一人黄昏れていると、それを一つの声が遮った。この声には、聞き覚えがある。
「女王様!?」
「ふむ、妾だな……」
カルーナの隣には、いつの間にか女王レミレアがいたのだ。
「どうして……?」
「ここは風呂、妾がいてもおかしくはなかろう?
「そうですか……」
レミレアは、微笑みながらそう答えていた。
「ところで、カルーナよ? 強くなりたいのだな?」
「え? はい、そうですけど……」
レミレアは、カルーナの独り言を全て聞いていたらしい。そこでレミレアは、不敵な笑みを浮かべた。
「カルーナは、実は、妾は高名な魔法使いでもあってな」
「あ、はい。存じてます」
「なら話は早かろう……妾の知恵を、そなたに授けよう」
「えっ!?」
レミレアの提案に、カルーナは目を丸くした。
「魔法使いが強くなる方法は……二つある」
「二つ?」
「うむ、一つは魔法を使い続けること」
それは、カルーナも知っている。魔力は、使い続けることで高めることができるものだ。
「二つ目は、新たなる魔法を身に着けること」
「はい……」
それも、カルーナは知っていることである。レミレアが、何を言いたいのか、カルーナは理解できないでいた。
「それだけなんですか?」
「そう、それが一番のことだ。だから、そうすればいい」
レミレアは、カルーナを見つめながら言い放った。その目には、女王としての意思が見える。
「わかっているなら、すればいい。それだけなのだ」
「で、でも……」
「簡単に強くなりたいなど、思わぬことだ」
「あっ……」
カルーナは、そこでわかった。レミレアは、強くなりたければ努力しろと言っている訳だ。確かに、それはその通りだった。悩むよりも、そうすればいいだけだったのだ。
「女王様……ありがとうございます。大切なことを思い出しました」
「うむ、それでいい」
レミレアは、笑顔でそう言ってくれる。カルーナにとって、とてもありがたいことだ。
その後カルーナは、しばらくレミレアと談笑し、入浴を終えるのだった。
すると、レミレアは、すぐに兵士達に命じて、鎧魔将ツヴァイの死体の探索を開始させた。
「さて、なんというか、一人、気になって仕方ない者がおるのだが……」
王座の間にて跪くアンナ達に、レミレアはそう言った。その視線は、ガルスに向けられており、なんとも微妙な表情をしている。
「そ奴は、魔族であるな。一体、何故ここにおるのだ?」
「それは、彼が私達の味方だからです。今回の戦いも彼がいなければ、私達はここにいなかったでしょう」
「味方? それはどういうことなのだ?」
アンナが答えたが、女王の疑念は晴れそうにない。なぜなら、目の前にいるのは、敵の種族である。それも、当然だろう。
そんな中、ガルスがゆっくりと口を開いた。
「俺の名は、ガルス。かつて、竜魔将だったものだ」
「竜魔……将!? まさか、そなたがあのガルスか!?」
女王は目を丸くして、驚いている。しかし、ガルスはそれを気にしていなかった。
「今は、訳あって、アンナ達に助太刀することに決めた。俺を罰したければ、それでも構わんがな」
レミレアはそこまで聞いて、表情を改めた。ガルスの真剣さが伝わったからだ。彼女は、ゆっくりと口を開いて、ガルスに言い放った。
「それなら、良いだろう。よくは知らんが、アンナ達は、そなたに助けられたようだしな。魔族であろうと、それならばよかろう」
「……ありがたきお言葉」
レミレアの寛大ともいえる対処に、ガルスは頭を下げる。
「よかった。これで、これからも一緒に戦えるね、ガルス」
「ああ、この俺で良ければ、力になろう」
これ程、頼もしい味方は、他にいないとアンナは感じていた。天下の竜魔将は、今勇者の仲間ガルスへと生まれ変わったのだ。
「さて、そなたらもご苦労であった。各自休むといい。ガルスにも部屋は用意させよう」
レミレアの言葉で、各々は休息をとることになった。
◇
ティリアは、休む前に、ガルスの治療を行うことにした。ここに来るまでに、ガルスは怪我を治せていない。そのため、その体の傷は深刻なものとなっていた。
「回復呪文!」
「む……」
「これは……」
回復魔法をかけることで、体の傷は治療できる。しかし、その他の問題をティリアは理解していた。それは、ガルスも同じであろう。何か察したような表情をし、ティリアを見つめていた。
「ガルスさん……」
「……なんだ?」
「あなたの傷は、治せますが、恐らく、その体は今まで通りの体には戻らないと思います」
「そうか……」
ガルスの体は、傷つきながら動かし過ぎており、限界まで使用した肉体は、回復魔法を使っても、元のように動かせない程になっていた。
「確かに、体に違和感があるな……体力も筋力も落ちているようだ」
「はい、安静にしておけば、また違ったかもしれませんが……」
「いや、いい。後悔などないからな。俺は、自分がやりたいように、やっただけに過ぎん」
そう言い、ガルスは微笑む。彼にとっては、また鍛え直せばいいだけという感覚なのだろう。
「俺のことより、お前は大丈夫なのか?」
「え?」
「兄を失い、悲観しているところで、俺の治療などする必要はないぞ」
ガルスの言葉に、ティリアは顔を暗くした。しかし、すぐに笑顔になる。
「私は、今自分ができることをします。それでいいんだと思います」
「そうか……」
ティリアは、後ろ向きになるのはやめることに決めていた。それを考えると、苦しくなるだけだからだ。
「奴と……」
「え?」
そこで、ガルスがふと口を開いた。
「奴と話したことがあるのだ。家族の話をな……」
「家族の話?」
「ああ、俺は、奴の正体を知っていたのだ」
「え! そうだったんですか!?」
ガルスの唐突な言葉に、ティリアは目を丸くする。それはつまり、ツヴァイが半人半魔であることを知っていたということ。
「奴は、言っていた。母親は、人間から自分を逃がすために、囮になって犠牲になったと」
「母が!? そうだったんですか……」
「父親は、自分を魔族の領域に入れて欲しいと懇願し、殺されたのだと」
「そ、そんな……父が……」
ティリアは、目に涙を浮かべていた。二人が何故亡くなったのか、それを知った時、自然と涙が溢れていた。
「奴がいなくなったということは、俺がお前に伝えるべきことだった。すまなかったな……」
「……いえ、ありがとうございます」
ティリアは、ゆっくりと頭を下げた。母と父の最期は、悲しいものだが、知らないよりはずっといいはずだ。
その後も、ガルスの治療は続いていった。
◇
「はあ……」
アンナとカルーナは、治療を終えて、部屋に戻っていた。その時、カルーナがため息を漏らしたのだ。
「どうしたの? カルーナ?」
疑問に思ったアンナは、カルーナに問い掛ける。すると、カルーナはゆっくりと口を開くのだった。
「結局私は、プラチナスを倒せなかった」
「それは……」
「それだけじゃないんだ。私、ほぼ自爆みたいな技を使おうとしていたんだ」
「カルーナ、そんなことを……!?」
アンナは、思わずカルーナの肩に手を置いたが、直後に気づいた。カルーナは既に反省しているのだ。自分が責めても仕方がないことだった。
「ごめんね……お姉ちゃん――きゃっ!」
そのため、アンナは代わりにカルーナを抱きしめた。
「大丈夫……助かったんだから、それでいいじゃないか」
「……うん、ありがとう。お姉ちゃん……」
カルーナはアンナを抱きしめ返し、ゆっくりと頷く。
「でも、私ももっと強くならないとね……」
「カルーナ、そんなに思いつめなくていいよ。プラチナスとは相性が悪かっただけで、カルーナは強いさ……」
「うん……」
アンナは優しくカルーナに語りかける。しかし、それでも、カルーナは強くなりたいと思っていた。
これから激化していく戦いの中で、アンナを助けながら自分も助かるには、今のままでは足りないと感じたからだ。
カルーナはそう考えつつ、アンナを抱きしめるのだった。
◇
「はあー」
カルーナは一人お風呂でため息をついていた。今日は、いつもと違い、アンナとは別々である。疲れていることを理由に、カルーナが断ったのだ。
アンナは、少し驚いていたが、すぐに受け入れてくれた。アンナ側も、カルーナが悩んでいることは知っていたためだ。
「強くなりたいなー」
「ふふ、なりたか……」
「えっ?」
カルーナが、風呂場で一人黄昏れていると、それを一つの声が遮った。この声には、聞き覚えがある。
「女王様!?」
「ふむ、妾だな……」
カルーナの隣には、いつの間にか女王レミレアがいたのだ。
「どうして……?」
「ここは風呂、妾がいてもおかしくはなかろう?
「そうですか……」
レミレアは、微笑みながらそう答えていた。
「ところで、カルーナよ? 強くなりたいのだな?」
「え? はい、そうですけど……」
レミレアは、カルーナの独り言を全て聞いていたらしい。そこでレミレアは、不敵な笑みを浮かべた。
「カルーナは、実は、妾は高名な魔法使いでもあってな」
「あ、はい。存じてます」
「なら話は早かろう……妾の知恵を、そなたに授けよう」
「えっ!?」
レミレアの提案に、カルーナは目を丸くした。
「魔法使いが強くなる方法は……二つある」
「二つ?」
「うむ、一つは魔法を使い続けること」
それは、カルーナも知っている。魔力は、使い続けることで高めることができるものだ。
「二つ目は、新たなる魔法を身に着けること」
「はい……」
それも、カルーナは知っていることである。レミレアが、何を言いたいのか、カルーナは理解できないでいた。
「それだけなんですか?」
「そう、それが一番のことだ。だから、そうすればいい」
レミレアは、カルーナを見つめながら言い放った。その目には、女王としての意思が見える。
「わかっているなら、すればいい。それだけなのだ」
「で、でも……」
「簡単に強くなりたいなど、思わぬことだ」
「あっ……」
カルーナは、そこでわかった。レミレアは、強くなりたければ努力しろと言っている訳だ。確かに、それはその通りだった。悩むよりも、そうすればいいだけだったのだ。
「女王様……ありがとうございます。大切なことを思い出しました」
「うむ、それでいい」
レミレアは、笑顔でそう言ってくれる。カルーナにとって、とてもありがたいことだ。
その後カルーナは、しばらくレミレアと談笑し、入浴を終えるのだった。
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