赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~
第52話 鎧魔城の最後
ツヴァイは、槍に雷を集中させていく。アンナも聖剣に聖闘気を纏わせる。
「いくぞ! ツヴァイ!」
「勇者あああっ!」
  二人の力が再びぶつかり合おうとしていた。
「雷の──」
「聖なる──」
ツヴァイの槍が轟音とともに、突き刺した。それに合わせて、アンナも十字の攻撃を放つ。
「槍!」
「十字斬り!」
聖闘気と魔闘気、二つの闘気が重なり合って、爆発する。激しい光が放たれ、辺り一面を覆う。
「ぬうっ!」
「くっ!」
互いの衝撃で、二人の体が、大きく後退する。しかし、どちらも再び距離を詰めていく。
「まだだ!  勇者あっ!」
「おおおおおお!」
二人は、自らの闘気を集中させる。二つの力が溢れ出し、空気が歪み、震え始めた。
「雷の槍!」
「聖なる十字斬り!」
二つの攻撃が、再びぶつかり合う。
「ぬううううっ!」
「うおおおおっ!」
雄叫びをあげながら、二人の力が爆発した。
「ぐううううっ!」
ツヴァイの体勢が、あまりの衝撃に崩れる。彼は、ガルスとも戦っているため、疲労がアンナより大きい。
「はあああああっ!」
闘気による光の中で、アンナはその身を翻す。もう一度、さらなる攻撃を放つためだ。
ツヴァイは、その様子に驚きながらも、構える。
「やあああっ!」
「何!?」
アンナの放った斬撃によって、ツヴァイの槍は切断された。槍の先端が、地面に転がる。これで、ツヴァイの攻撃手段は消え去った。
「まだだ! 鎧魔奥義! 超強化鎧!」
ツヴァイの体に、魔闘気が纏われる。その防御力は、ガルスとの戦いで証明済みだ。だが、アンナは見抜いていた。ガルスとの時と比べて、完全ではないことを。
ツヴァイの疲弊した体で、完璧に力を発することなど、できる訳がないからだ。
「これで最後だ!」
「ぬうっ!」
「聖なる十字斬り!」
アンナの聖なる斬撃が、ツヴァイの鎧を打ち砕く。
「ぐああああああっ!」
ツヴァイは大きく吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。鎧は辺りに散らばり、やがて消え去った。
「はあ、はあ……」
アンナにとっても、今までの連撃は練っていた聖闘気を全て使う程だ。これ以上、ツヴァイに手があれば、アンナも危ういだろう。
「ぐっくっ……」
ツヴァイは、地面に伏したまま動かなかった。いや、動けないのだ。
「……終わりのようだな、ツヴァイ」
「くっ……この俺が……動けないだと……」
そこでアンナは、ティリアに目を向けた。彼女の望みは、兄であるツヴァイと話すこと。回り道になったが、今なら彼女の望みを叶えられるはずだ。
「ティリア……」
「アンナさん……ありがとうございます」
ティリアが、ゆっくりとツヴァイの側に近寄った。
「ティ、ティリア……」
「ツヴァイ……いえ……兄さん」
「ティリア? お前……今、なんと……」
ティリアの言葉に、ツヴァイは目を丸くする。兄と呼ばれるとは、思っていなかったからだ。
「兄さん、もうやめにしましょう……」
「ティリア、やめることなどできん……俺達に居場所はないんだ……」
「そんなことは、ありません。私が半人半魔だと知っても、アンナさんやカルーナさんは、受け入れてくれました」
ティリアの言葉で、ツヴァイの顔は濁っていく。
「それは、ほんの一瞬に過ぎないことだ。いずれ、俺達は拒絶される。それがこの世界の真意なのだ……」
「それは違います。人間にも、魔族にも色々な人がいます。確かに、私達を受け入れてくれない人もいるのかもしれませんが、それが全てではないんです」
ツヴァイの顔は、歪んでいる。最愛の妹との会話だというのに、その表情は晴れていなかった。
「ならば……」
「兄さん?」
「ならば俺は、なんのために……戦ってきたんだ?」
言いながら、ツヴァイは地面を手で押す。その体が、ゆっくりと起き上がってくる。
「何を……きゃあっ!」
「ティリア……」
ツヴァイは、ティリアの首に腕を回して押さえつけた。
「ツヴァイ! 何をしている!?」
「動くな!」
その様子を見たアンナは、すぐに駆け出そうとした。しかし、ティリアを人質にされる形となっていたため、足が止まる。
「ティリアに手を出すなんて……血迷ったか!? ツヴァイ!」
「俺はただ……居場所が欲しかったのだ」
「兄さん?」
アンナの叫びに対して、ツヴァイは何かを喋り始めた。その姿には、かつての強さや威圧感はまるでない。
「だから強くなった……魔将にまでなった! 今更、巻き戻すことなど……できん!」
「ツヴァイ……」
「兄さん……」
それは、悲痛な叫びであった。最早、誇りも何もなく、ただ己のわがままを押し通そうとしているだけだ。
「このまま俺は、引かせてもらうぞ……お前達に手は出せんはずだ」
「ツヴァイ……あんたは、どこまで落ちたら気が済むんだ」
しかしその時、一つの声が響いく。
「ツヴァイ様!」
「プ……プラチナス!?」
そこには、白金の鎧が現れていた。その姿に、カルーナは目を丸くした。
「そんな!? ガルスさんの一撃で倒れたはずじゃあ?」
「私は、残る闘気全てを使って、一時的に蘇生したのだ」
カルーナの質問に、プラチナスは早口で答えた。その様子は、何か焦っているように見える。
「何をしにきたのだ?」
「ツヴァイ様! 私は……あなたを尊敬しています!」
「プラチナス……?」
「だが、今のあなたは見ていられない!」
「くっ……」
プラチナスは、悲しそうな声色で、そう言った。信頼していた部下の言葉で、ツヴァイの動揺は加速する。
「そんな卑劣な手を使うくらいなら、この場で潔く散ろうではありませんか!」
「プラチナス……お前は、そこまで俺を……」
「あ……兄さん?」
ツヴァイは、プラチナスの言葉でティリアを離していた。その体がゆっくりと、プラチナスに近づく。
「ツヴァイ!」
警戒したアンナだったが、その殺気の無さは、手を出すことすら躊躇わせるものであった。
ツヴァイはプラチナスの側に行き、その手を取り、言葉を放った。
「プラチナス……俺と共に散ってくれるか?」
「もちろんです。我が魂は、あなたのためのもの……」
「そうか、ありがとう。お前がそこまでの決意を抱いてくれているのに、主である俺がそれに応えぬ訳にはいかんな……」
ツヴァイは、次にティリアの方を向いた。
「ティリア」
「兄さん……?」
「俺の様になるなよ……最も、お前なら心配ないだろうがな……」
「兄さん! 駄目!」
そこで、ツヴァイは懐からあるものを投げ放つ。それは、魔法の筒。光輝くその筒は、上空で爆発し、ツヴァイとプラチナスを除く全ての者を包み込んだ。
「さらばだ……勇者達よ。ティリア……きっと元気で」
「兄さん!」
そこで、アンナ達の視界は塞がれた。
◇
アンナ、カルーナ、ティリア、ガルスの四人は、鎧魔城の外に出ていた。
「皆! 大丈夫!?」
アンナは、三人に声をかけ確認する。
「お姉ちゃん、私は大丈夫!」
「私も問題ありません……」
「俺も無事のようだな……」
どうやら、全員無事のようだ。アンナは、次に鎧魔城の方に目を向ける。
「鎧魔城が……」
鎧魔城は、徐々に壊れていっていた。さらに、地面にひびが入っていき、その辺り一面が崩れていく。
「兄さん……」
「ツヴァイは、どうやら鎧魔城と運命を共にするつもりらしい……」
「ツヴァイ……」
「お姉ちゃん……」
四人はしばらく立ち尽くしていたが、エスラティオ王国に帰還することにした。これ以上ここにいても、できることはない。
今、アンナ達ができることは、早くエスラティオ王国に帰り、ツヴァイが倒れたことを知らせることだった。そうすることで、エスラティオ王国に平和が訪れるのだから。
「いくぞ! ツヴァイ!」
「勇者あああっ!」
  二人の力が再びぶつかり合おうとしていた。
「雷の──」
「聖なる──」
ツヴァイの槍が轟音とともに、突き刺した。それに合わせて、アンナも十字の攻撃を放つ。
「槍!」
「十字斬り!」
聖闘気と魔闘気、二つの闘気が重なり合って、爆発する。激しい光が放たれ、辺り一面を覆う。
「ぬうっ!」
「くっ!」
互いの衝撃で、二人の体が、大きく後退する。しかし、どちらも再び距離を詰めていく。
「まだだ!  勇者あっ!」
「おおおおおお!」
二人は、自らの闘気を集中させる。二つの力が溢れ出し、空気が歪み、震え始めた。
「雷の槍!」
「聖なる十字斬り!」
二つの攻撃が、再びぶつかり合う。
「ぬううううっ!」
「うおおおおっ!」
雄叫びをあげながら、二人の力が爆発した。
「ぐううううっ!」
ツヴァイの体勢が、あまりの衝撃に崩れる。彼は、ガルスとも戦っているため、疲労がアンナより大きい。
「はあああああっ!」
闘気による光の中で、アンナはその身を翻す。もう一度、さらなる攻撃を放つためだ。
ツヴァイは、その様子に驚きながらも、構える。
「やあああっ!」
「何!?」
アンナの放った斬撃によって、ツヴァイの槍は切断された。槍の先端が、地面に転がる。これで、ツヴァイの攻撃手段は消え去った。
「まだだ! 鎧魔奥義! 超強化鎧!」
ツヴァイの体に、魔闘気が纏われる。その防御力は、ガルスとの戦いで証明済みだ。だが、アンナは見抜いていた。ガルスとの時と比べて、完全ではないことを。
ツヴァイの疲弊した体で、完璧に力を発することなど、できる訳がないからだ。
「これで最後だ!」
「ぬうっ!」
「聖なる十字斬り!」
アンナの聖なる斬撃が、ツヴァイの鎧を打ち砕く。
「ぐああああああっ!」
ツヴァイは大きく吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。鎧は辺りに散らばり、やがて消え去った。
「はあ、はあ……」
アンナにとっても、今までの連撃は練っていた聖闘気を全て使う程だ。これ以上、ツヴァイに手があれば、アンナも危ういだろう。
「ぐっくっ……」
ツヴァイは、地面に伏したまま動かなかった。いや、動けないのだ。
「……終わりのようだな、ツヴァイ」
「くっ……この俺が……動けないだと……」
そこでアンナは、ティリアに目を向けた。彼女の望みは、兄であるツヴァイと話すこと。回り道になったが、今なら彼女の望みを叶えられるはずだ。
「ティリア……」
「アンナさん……ありがとうございます」
ティリアが、ゆっくりとツヴァイの側に近寄った。
「ティ、ティリア……」
「ツヴァイ……いえ……兄さん」
「ティリア? お前……今、なんと……」
ティリアの言葉に、ツヴァイは目を丸くする。兄と呼ばれるとは、思っていなかったからだ。
「兄さん、もうやめにしましょう……」
「ティリア、やめることなどできん……俺達に居場所はないんだ……」
「そんなことは、ありません。私が半人半魔だと知っても、アンナさんやカルーナさんは、受け入れてくれました」
ティリアの言葉で、ツヴァイの顔は濁っていく。
「それは、ほんの一瞬に過ぎないことだ。いずれ、俺達は拒絶される。それがこの世界の真意なのだ……」
「それは違います。人間にも、魔族にも色々な人がいます。確かに、私達を受け入れてくれない人もいるのかもしれませんが、それが全てではないんです」
ツヴァイの顔は、歪んでいる。最愛の妹との会話だというのに、その表情は晴れていなかった。
「ならば……」
「兄さん?」
「ならば俺は、なんのために……戦ってきたんだ?」
言いながら、ツヴァイは地面を手で押す。その体が、ゆっくりと起き上がってくる。
「何を……きゃあっ!」
「ティリア……」
ツヴァイは、ティリアの首に腕を回して押さえつけた。
「ツヴァイ! 何をしている!?」
「動くな!」
その様子を見たアンナは、すぐに駆け出そうとした。しかし、ティリアを人質にされる形となっていたため、足が止まる。
「ティリアに手を出すなんて……血迷ったか!? ツヴァイ!」
「俺はただ……居場所が欲しかったのだ」
「兄さん?」
アンナの叫びに対して、ツヴァイは何かを喋り始めた。その姿には、かつての強さや威圧感はまるでない。
「だから強くなった……魔将にまでなった! 今更、巻き戻すことなど……できん!」
「ツヴァイ……」
「兄さん……」
それは、悲痛な叫びであった。最早、誇りも何もなく、ただ己のわがままを押し通そうとしているだけだ。
「このまま俺は、引かせてもらうぞ……お前達に手は出せんはずだ」
「ツヴァイ……あんたは、どこまで落ちたら気が済むんだ」
しかしその時、一つの声が響いく。
「ツヴァイ様!」
「プ……プラチナス!?」
そこには、白金の鎧が現れていた。その姿に、カルーナは目を丸くした。
「そんな!? ガルスさんの一撃で倒れたはずじゃあ?」
「私は、残る闘気全てを使って、一時的に蘇生したのだ」
カルーナの質問に、プラチナスは早口で答えた。その様子は、何か焦っているように見える。
「何をしにきたのだ?」
「ツヴァイ様! 私は……あなたを尊敬しています!」
「プラチナス……?」
「だが、今のあなたは見ていられない!」
「くっ……」
プラチナスは、悲しそうな声色で、そう言った。信頼していた部下の言葉で、ツヴァイの動揺は加速する。
「そんな卑劣な手を使うくらいなら、この場で潔く散ろうではありませんか!」
「プラチナス……お前は、そこまで俺を……」
「あ……兄さん?」
ツヴァイは、プラチナスの言葉でティリアを離していた。その体がゆっくりと、プラチナスに近づく。
「ツヴァイ!」
警戒したアンナだったが、その殺気の無さは、手を出すことすら躊躇わせるものであった。
ツヴァイはプラチナスの側に行き、その手を取り、言葉を放った。
「プラチナス……俺と共に散ってくれるか?」
「もちろんです。我が魂は、あなたのためのもの……」
「そうか、ありがとう。お前がそこまでの決意を抱いてくれているのに、主である俺がそれに応えぬ訳にはいかんな……」
ツヴァイは、次にティリアの方を向いた。
「ティリア」
「兄さん……?」
「俺の様になるなよ……最も、お前なら心配ないだろうがな……」
「兄さん! 駄目!」
そこで、ツヴァイは懐からあるものを投げ放つ。それは、魔法の筒。光輝くその筒は、上空で爆発し、ツヴァイとプラチナスを除く全ての者を包み込んだ。
「さらばだ……勇者達よ。ティリア……きっと元気で」
「兄さん!」
そこで、アンナ達の視界は塞がれた。
◇
アンナ、カルーナ、ティリア、ガルスの四人は、鎧魔城の外に出ていた。
「皆! 大丈夫!?」
アンナは、三人に声をかけ確認する。
「お姉ちゃん、私は大丈夫!」
「私も問題ありません……」
「俺も無事のようだな……」
どうやら、全員無事のようだ。アンナは、次に鎧魔城の方に目を向ける。
「鎧魔城が……」
鎧魔城は、徐々に壊れていっていた。さらに、地面にひびが入っていき、その辺り一面が崩れていく。
「兄さん……」
「ツヴァイは、どうやら鎧魔城と運命を共にするつもりらしい……」
「ツヴァイ……」
「お姉ちゃん……」
四人はしばらく立ち尽くしていたが、エスラティオ王国に帰還することにした。これ以上ここにいても、できることはない。
今、アンナ達ができることは、早くエスラティオ王国に帰り、ツヴァイが倒れたことを知らせることだった。そうすることで、エスラティオ王国に平和が訪れるのだから。
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