赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第51話 鎧魔将ツヴァイ

 ガルスとツヴァイの戦いは、続いていた。

「竜魔将……お前の力は強大だ……」
「ツヴァイ」

 そこでツヴァイは、自身の持っている槍を地面に突き刺した。

「故に、俺も禁じ手を使わざるを得ないようだ」
「禁じ手だと……」

 ツヴァイは、口の端を歪めている。ガルスは、その様子に何かがあるの感じていた。

「鎧魔奥義……」
「何……?」

 ツヴァイの体に、闘気と魔法、二つの力が纏われる。

超強化鎧スーパー・ア―マー!」
「こ、これは……?」

 その体は、厚い鎧に覆われ、まるでかつてのような姿に変わっていた。

「それがお前の本気という訳か……」
「その通り……これこそが俺の力。平時なら、闘気のみで鎧を強化するが、今は魔闘気による鎧を作り出させてもらった……」

 ツヴァイは槍を引き抜き、そこに雷を纏わせていく。

雷の槍サンダー・ランス!」

 さらにガルスに、一直線で向かってきた。

「来るか!」

 ガルスは態勢を低くし、攻撃に備えた。

「はああっ!」
「ぬんっ!」

 ツヴァイの突き刺した槍を、ガルスはゆっくりと躱しながら、その懐に入り込んだ。

「竜人拳《リザード・ナックル》!」

 そして、拳を振るい、その鎧に攻撃が当たった。その瞬間、ガルスは目を丸くした。

「ぐわあっ!」

 攻撃したはずのガルスが、逆に叫びをあげていた。その鎧の固さと魔闘気によって、ガルスの拳の方が、ダメージを負ったのだ。

「ふふっ!」
「ぐううっ!」

 ツヴァイは、ガルスの首を掴み、持ち上げた。

「この鎧は、攻防一体の鎧。攻撃してきた者を傷つける、最強の鎧なのだ」
「ぐっ!」
「竜魔将……これで終わらせてやろう」

 ガルスの首を絞める力が、強くなっていく。このまま、勝負を決めるつもりなのだろう。
 そこで、ガルスは、両手でツヴァイの腕を掴み取った。魔闘気によって、その手が傷ついていくが、ガルスはそれを気にしてはいなかった。

「ふん、無駄な足掻きを……がっ!?」

 余裕な態度だったツヴァイは、その手に強烈な痛みを感じた。そのため、ガルスを掴める力を緩めてしまい、その隙にガルスに逃げ出されていた。

「な、何が起こったというのだ……?」

 自身の完璧だったはずの鎧が、破られたことで、ツヴァイは動揺する。ガルスは態勢を立て直しながら、ゆっくりと口を開き始めた。

「闘気には色々な使い道がある……」
「何……?」
「肉体の強化、遠距離攻撃、そして、俺が使ったのは鎧の内部に闘気を伝わせる攻撃……」
「内部攻撃だと……」

 ツヴァイは驚愕した。闘気の使い道で、内部への攻撃など、かなりの繊細なコントロールが必要なはずである。それを、あの状態で成功させるガルスが、異常だとしか思えなかった。

「敵として戦うと、ここまで厄介とはな……」
「ふっ……! それはこちらも同じことだ……」

 ツヴァイは、ガルスが万全の状態でなかったことに、感謝した。もし、万全なら、とても勝てるとは思えなかったからだ。

「だが、お前のダメージも限界近いはずだ……」
「ふん……」

 ガルスは今までの攻撃で、かなり消耗していた。そもそも、傷ついた体で戦っていたガルスは、限界も早いだろう。
 だが、ガルスは笑っていた。

「俺をあまり舐めてもらっては困るな……」

 ガルスの両腕に闘気が集中していた。何か大きな攻撃が来るのだと、それはツヴァイにも予測させた。

「いくぞ! 竜人リザード・爆裂波ショックウェーブ!」
「ぬうっ!」

 ガルスの両腕から、闘気が放たれた。ツヴァイは、思わず防御の構えをとったが、それは間違えであると、すぐにわかった。

「何……?」

 その攻撃は、鎧によって、いともたやすく受け止められたからだ。そして、その隙にガルスに接近されていた。

「ぬん!」

 ガルスは両手を地面につけ、体を押し上げ、ツヴァイを蹴り上げた。足が、鎧によって傷ついたが、それも気にせず、ガルスはツヴァイを追い飛び立った。

「ぐうっ!」
「いくぞ!」

 ガルスは、頭が下になるように、空中でツヴァイを捕まえた。

竜人落としドラゴン・ドロップ!」
「ぬがああ!」

 ガルスはそのまま、落下する。それと同時に、鎧による攻撃で、ガルスの体は傷ついていく。しかし、ガルスも闘気を内部に伝わらせて、ツヴァイを攻撃した。

「ぐあはっ!」

 ツヴァイの体が、床に衝突する。その衝撃と、鎧によるエネルギーによって、床が砕けていく。

「くっ……!」

 さらに、ツヴァイの魔闘気の鎧には、ひびが入っており、その絶対防御が崩れ始めていた。
 ガルスは、大きく後退しながら、ツヴァイと距離を取っていた。

「馬鹿な……あり得ん。この俺が、ここまで……」
「ツヴァイ……お前の防御もここまでのようだな」
「ぐぬうっ……!」

 ガルスとの攻防によって、ツヴァイの防御は破られてしまった。そのため、ツヴァイの優位が絶対ではなくなったのだ。

「だが、お前も、最早限界のはずだ……」
「ふ……」

 ガルスも鎧を攻撃したことによって、その手も足も、ボロボロになっていた。しかし、ガルスは笑っていた。なぜなら、ガルスはわかっていたからだ。

「ガルス……」

 その時、一つの声が響いた。

「そろそろだと思ったぞ……」
「ああ、ありがとう……おかげで、かなり回復できた」
「くっ!」

 ツヴァイは、苦悶の表情を浮かべる。

「勇者アンナ……」

 ガルスの隣には、アンナが立っていた。
 アンナは、二人が戦っている間に、体力を回復させ、さらには、聖闘気をかなり練れていた。

「ツヴァイ……ここからは、私が相手しよう」
「ぐっ……!」

 アンナの聖闘気は、ツヴァイにすらわかる程、強大になっている。ツヴァイにとっては、かなり驚異的な状況だ。

「まだまだ、負けんぞ……この俺の力は、こんなものではない……」
「ツヴァイ、終わらせよう……」

 アンナが聖剣を構えると同時に、ツヴァイも槍に雷を纏わせる。聖闘気と魔闘気、二つの力が今、ぶつかり合おうとしている。

雷の槍サンダー・ランス!」

 ツヴァイはアンナに向かいながら、雷を纏った槍を突き刺した。アンナもそれに合わせて、剣を振るう。
 聖闘気を纏った一撃は、今までよりも進化している。その状態で放つのは、アンナの最大の剣技である十字斬りクロス・スラッシュだ。それは、聖なる攻撃に変わり、新たなる技になる。

聖なる十字斬りセイント・クロス!」
「何!?」

 十字の一撃目で、ツヴァイの槍が切り裂かれた。二撃目が十字の形となって、一撃目と重なり合った。
 二つの斬撃は、眩い光を放ちながら重なり合って、ツヴァイの鎧を切り裂いた。

「ぐううっ!」

 アンナの攻撃の威力に耐え切れず、ツヴァイの体に纏われた、魔闘気の鎧が砕け散っていく。

「ぐああっ!」

 衝撃によって、ツヴァイの体は大きく後退した。

「おおおおっ!」

 アンナは、それを追いかけながら、さらなる攻撃を放つ。ガルスのおかげで、聖闘気はかなり練れていた。そのため、アンナの攻撃は、全て聖闘気によるものである。

聖なる十字斬りセイント・クロス!」
「ぐううううっ!」

 聖なる光を放ちながら、十字の攻撃がツヴァイを襲う。砕けていた鎧が、さらに割れて、見る影もなくなっていた。

「がはっ! ば……馬鹿な!」

 ツヴァイは、自身の体に起こった変化に戸惑いながら、衝撃によって、壁に叩きつけられた。

「はあ、はあ……」

 アンナによる新たな最大の攻撃によって、ツヴァイの鎧は完全に消さった。アンナは、疲労しながら、ツヴァイを見つめる。
 ツヴァイは、なんとか態勢を立て直しながら、槍を構え直していた。まだ、完全に折れた訳ではないようだ。

「まだだ、負ける訳には……いかんのだ!」
「ツヴァイ……」

 二人は、見つめ合いながら、対峙する。
 恐らく、これからの攻防が、この戦いの最終局面となるだろう。二人の、それぞれの闘気がぶつかり合って、空気を揺らしていた。

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