赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第50話 復活の竜人

 ツヴァイの攻撃で吹き飛んだアンナを受け止めたのは、竜魔将ガルスだった。

「ガルス、生きていたんだね……」
「ああ、あのくらいで死ぬ程、やわじゃないさ……」

 ガルスは、アンナの言葉に笑顔で答えていた。

「よかった……」

 アンナは嬉しかった。自分を助けてくれたガルスが、このように無事であったことは、とても喜ばしいことだった。

「お姉ちゃん!」
「カルーナ!? 無事だったんだね!」
「うん、ガルスさんが助けてくれたんだ」

 ガルスの後ろには、カルーナがいた。目立った傷も無く、無事戦いを終えたようだ。

「竜魔将……ガルス!」
「鎧魔将ツヴァイ、久し振りだな。だが、俺は最早竜魔将ではない。ただの傭兵崩れのガルスだ」

 その現状に、一人納得がいっていない者がいる。
 鎧魔将ツヴァイにとっては、かつての同僚が、何故か敵側を助けるかたちで登場したのだ。納得するのは、難しいだろう。

「生きていたのはよかったが、何故そちら側に立っている? 魔王軍を裏切るつもりか!?」
「俺も罠にかけられて黙っているほど、お人好しではなのでな」
「ウォーレンスのことなら、俺から謝罪しよう。なんなら、奴の首をとって来てやってもいい……」

 ツヴァイは、ガルスを魔王軍に再び迎え入れたいと思っているようだ。しかし、ガルスはそれを拒否する。

「そもそも、俺は魔王軍が性に合ってなかったようだ。民を傷つける非道な侵攻など、俺は好かん……」
「……残念だ。お前は魔将の中でも信用できる男だったというのに……」

 ツヴァイは、本当に残念そうな顔をしていた。ガルスは、人間であっても正当な評価をする男だ。恐らく、半人半魔ハーフであろうと差別することはないだろう。そのような面を持っている男は、ツヴァイも嫌いで放ったはずだ。

「アンナ、ここからは俺も参戦しよう」
「ガルス、いいのかい? 私に協力するということは、魔族と戦うということだ」
「ああ、最早魔族に味方する理由もないさ。それに、俺は正直お前達のことを気に入っている。人間や魔族など関係なくな……」

 ガルスは本当に、アンナ達の味方として来てくれたらしい。

「ありがとう。あなたがいれば、百人力だ」

 ここまで頼もしい味方はいないと、アンナは思った。自分よりも遥かに強いガルスがいてくれるのは、とても心強かった。

「……お前は、少し休んで体力を回復しておけ。ツヴァイとは俺が戦う」
「ガルス……?」

 アンナは、ガルスの表情が曇ったように見えた。しかし、その提案は、聖闘気を練る時間を得られるという意味でもありがたいものだ。

「わかった、任せるよ。気をつけて」
「ああ……」

 アンナが体を離すと、ガルスは少し前に出ながら、ツヴァイと対峙した。

「くっ……竜魔将ガルスが敵とは厄介な」
「始めようか……ツヴァイ!」

 ツヴァイは槍を構えながら、苦悶の表情を浮かべた。当然ながら、ツヴァイもガルスの実力は知っている。魔王軍屈指の実力者のガルスは、ツヴァイにとっても脅威となっていた。

「はあああ!」

 ガルスは、一気にツヴァイとの距離を詰めていった。

竜人拳リザード・ナックル!」

 さらに、その拳をツヴァイ目がけて振るう。ガルス得意の格闘術だ。

雷の槍サンダー・ランス!」

 ツヴァイはそれに対して、槍に雷をまとい応戦した。魔闘気をまとった強力な一撃である。

「おおおお!」
「ぬうう!」

 二つの攻撃がぶつかり合い、激しい衝撃が辺りに放たれた。

「くうっ!」
「何?」
「ガルス!?」
「ガルスさん!?」

 その結果、ガルスは大きく吹き飛び後退してしまった。

「馬鹿な……」

 その様子に、ツヴァイは喜ぶこともなく、むしろ目を丸くして驚いていた。
 アンナも、ガルスの様子はおかしく思えた。ガルスは、自分と戦った時よりも、弱くなっているように見えたからだ。

「はあ、はあ……」

 さらに、ガルスは息を切らしていた。力や闘気、体力すらも、以前に比べると落ちているようだ。

「な、何故だ……? あの竜魔将なら俺と互角以上の戦いができるはずだ……」
「ふふ、さてな……」
「はっ! まさか!?」

 そこで、ツヴァイに一つの疑念が浮かんだ。それなら、ガルスの実力が落ちたのも納得できた。

「ガルス……まさか、ウォーレンスの罠で受けた傷がまだ治っていないのか?」
「ふっ! どうかな……」

 ツヴァイの言葉は、図星だったようだ。そもそも、人間側にも、魔族側にも戻れなかったガルスが、満足な治療を受けられるはずなどなかった。

「ガルス! そんな体なら、私が――」
「アンナ、俺のことは気にするな……」

 アンナは今の話を聞き、ガルスを止めようとしたが、それは遮られた。
 ガルスは、再び構え直しながら、ツヴァイに向かっていった。

「その程度なら、俺に勝てるはずはない!」
「ふん!」
「何!?」

 ツヴァイも再び槍を突きさそうとしたが、ガルスの行動は先程までとは異なった。
 ガルスは、駆け寄った勢いを殺さないまま、地面に体を滑らせた。そして、そのままツヴァイの足元に潜り込んだ。

「いくぞ!」
「くっ……!」

 ガルスは、両手を地面につけ、ツヴァイを下から蹴り上げた。

「ぬうっ!?」

 その攻撃で、ツヴァイの体は天井近くまで浮き上がる。ガルスはそれを追うように飛び立ち、ツヴァイの体を逆さまの状態で捕まえた。

「何を……!?」
「喰らえ! 竜人ドラゴン・――」

 ガルスは、ツヴァイの頭を地面に向けたまま、落下していく。

「――落とし《ドロップ》!」
「ぐあはっ!」

 ツヴァイの頭が地面に衝突し、激しい衝撃が巻き起こった。その驚異的な痛みに、ツヴァイは大きく声をあげた。

「くっ……!」

 ガルスは、一度ツヴァイの体から離れると、息を整えていた。彼にとっても、この技は疲労するものだったようだ。

「ぬはあっ!」

 ツヴァイは、一度地面に倒れながら、ゆっくりとその体を起こしていた。

「やはり……竜魔将は侮ってはならんか……」
「はあ、はあ……」

 再び向き合い、互いを見つめながら、ツヴァイはそう呟いた。ガルスの力は衰えていても、その経験や技は、未だ驚異的なものであった。

「魔闘気をまとっていても、これ程の力とは……流石だ」

 ツヴァイは、槍に電撃を集めていく。

「だが、これならどうだ! 回転するスピニング・雷の槍サンダー・ランス!」

 そして、槍を回転させ、ゆっくりとガルスに近づいてきた。

「くっ……!」

 ガルスは、それに対して構えを解いていた。さらには目を瞑りながら、ツヴァイに歩いて行った。
 ツヴァイは、疑問に思いながらも、ガルスとの距離を詰める。二人の距離が近づき、ガルスに攻撃が当たろうとしていた、その時だった。

「何……!?」
「ぐうううっ!」

 ガルスは、回転する槍を的確に掴み取り、その回転を止めていた。その電撃がガルスに襲い掛かっていたが、それすらも耐えている。

竜人脚リザード・レッグ!」
「ぐああっ!」

 そして、その状態で、ガルスの蹴りが放たれた。攻撃を受け止められていたツヴァイは、回避することができず、その体が吹き飛んだ。

「ぬうううっ!」

 ツヴァイは、なんとか持ちこたえ、態勢を立て直そおうとした。しかし、そこに、ガルスの追撃が襲い掛かってくる。

竜人拳リザード・ナックル!」
「ぬうっ!」

 ガルスの拳がツヴァイに突き刺さった。ツヴァイの体はさらに後退し、壁に激突した。

「がはっ……!」

 ツヴァイは膝をついたが、それ以上ガルスの追撃は起こらなかった。

「はあ、はあ……」

 ガルスは息を切らしながら、停止していた。やはり、万全の状態ではないようだ。

「流石は竜魔将……だが、その状態では、俺には勝てんぞ……」
「……どうかな?」

 ガルスとツヴァイ、二人の戦いは続いていく。

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