赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第48話 鎧魔団副団長

 プラチナスは、自身の体に起こった変化に驚きが隠せなかった。

「な、何故……?」

 カルーナは、プラチナスが動揺しているのを見ていたが、追撃することはできなかった。
 今ここで魔法を放っても、反射リフレクトされるだけだからだ。

「そうか……!」

 そこで、プラチナスは声をあげた。

「私の体を熱した後、急激に冷やしたのか……!」
「……そう、あなたの体の温度だけは、私にも変えることができたから」

 熱したものが、急激に冷やされると、割れたりすることがある。カルーナはこの原理を利用し、プラチナスを熱した後、急激に冷却することで破壊したのだった。

「なるほど……流石だ。この限られた環境で、これだけのことをするとは……」
「あなたの体は、これ以上動けば壊れてしまう。最も、次に魔法を放っても反射される」
「ふふふっ! だから、このままここから動くなという訳か……」

 カルーナは、既に戦いが終わったと思っていたが、プラチナスは笑い始めるのだった。

「リビングアーマーを舐めないでもらおうか!」

 プラチナスは、自身の状態も気にせず、カルーナの元に飛び掛かってきた。

「くっ!」

 カルーナは当然後退した。その場所に剣が振り下ろされ、床がわれていった。

「どうして……?」
「私の闘気で、この体を繋ぎ止めているのだ。長くはもたないが、この戦いくらいは切り抜けることができるだろう」
「そ、そんな!」

 プラチナスは、そう言い放った。
 カルーナは、その様子に驚いた。自分の作戦が成功したが、プラチナスはそれでも倒すことができなかった。それは、カルーナにとって危機的な状況であることを表していた。

「くっ……!」

 次の手を考えなければ、そう思ったカルーナだったが、プラチナスが剣を大きく振り上げた。

白金の衝撃プラチナ・ブラスト!」

 白金の闘気が、カルーナに襲い掛かってくる。

「くっ……!」

 カルーナは必死に身を躱し、その攻撃から逃げていく。しかし、プラチナスはさらなる追撃を行ってきた。

白金の衝撃プラチナ・ブラスト!」
「うっ!」

 動揺していたカルーナに、その攻撃が掠った。

「ま、まずい……」
「油断したようだな!」

 カルーナに、プラチナスが迫ってくる。
 こうなったら、カルーナも覚悟を決めるしかない。魔法を反射されるとしても、ここで攻撃することを、カルーナは決めるのだった。

小さなリトル紅蓮の火球ファイアー・ボール!」
「ふん! 反射リフレクト!」

 プラチナスは足を止め、そこで魔法を反射した。
 カルーナは、その火球を躱しながらプラチナスに接近していく。

「何……!? 近づいてくるか!?」
紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 カルーナは、手の平に火球を出現させる。

「くっ!」

 そこで、プラチナスは反射リフレクトを使わず後退していく。

「まさか、近距離で自分ごと爆破させようとは……」
「はあ、はあ……」

 カルーナは、プラチナスに超近距離で魔法を当て、例え反射しても関係なく攻撃しようとしていたのだ。しかし、それは彼女にとっても捨て身の攻撃であった。

「お互いに、捨て身という訳か……」
「そうみたいだね……」

 カルーナもプラチナスも互いに、自らの最も大切のものの元へ敵を行かせないために戦っていた。二人は、どこかで通じ合ったが、それは今問題ではなかった。

「ならば、私も覚悟を決めよう……」

 プラチナスは剣を構えながら、カルーナと向き合った。
 カルーナも、自身の手に火球を出現させる。

「喰らえ! 白金の衝撃プラチナ・ブラスト!」
「くっ! 紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 カルーナは白金の闘気に対して、火球を放った。二つの力がぶつかり合って、弾け飛んだ。

「はああああ!」

 近距離から魔法を放つために、カルーナはプラチナスに接近した。プラチナスも大きく剣を振り上げ、カルーナを狙う。

「喰らえ!」
紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 その時だった。

「むうっ!?」
「くあっ!」

 突如現れた謎の影に、カルーナが弾き飛ばされた。

「な、何者?」

 謎の影を、カルーナとプラチナスは認識した。
 ボロボロのマントで身を包み、顔もフードなどによって隠されていた。

「……剣を引け」
「な、急に現れて何を言う?」

 声色から男のようだ。その男は、プラチナスの方を向きながら、そう言い放っていた。
 この行為に、当然プラチナスは困惑してしまった。

「ど、どういうこと……?」

 カルーナは混乱していた。自身を弾き飛ばしたため、その相手は敵であると推測したが、プラチナス相手にそう言ったので、こちらの味方なのかもしれない。そして、先程の声を、カルーナは聞いたことがあった。

「何者か、知らんが……私の邪魔をするなら、容赦はせんぞ!」

 プラチナスは男の言葉に従わず、剣を大きく振り上げた。

「ふん!」
「ぐああっ!」

 その瞬間、男は大きく飛び上がり、その足でプラチナスを蹴り抜いた。その攻撃でプラチナスの体が砕け、その破片が飛び散った。

「ぬうっ!」
「はあっ!」

 よろけるプラチナスに、男の蹴りがもう一度突き刺さった。プラチナスの体がさらに砕けていく。

「かっ……」

 プラチナスはその衝撃に膝をつき、やがて倒れていった。

「な、何が起こったの……?」

 カルーナは一連の流れをずっと見ていたが、ただ困惑することしかできなかった。
 目の前にいる男が、自身の敵であるプラチナスを倒した。それだけなら、自身の味方であるように思えるが、彼がこちらに攻撃を仕掛けてこないとも限らなかった。

「くっ……」

 カルーナは立ち上がりながら、魔力を手の平に集中させていく。

「……ふっ」
「えっ……?」

 そこで男はフードを取り払い、その顔をカルーナに見せた。

「あ、あなたは……」

 その男の顔を見たカルーナは、目を丸くして驚いた。





 アンナとツヴァイは、対峙していた。
 ツヴァイはそんな中、自分の後ろにいるティリアに話しかけていた。

「ティリア、お前はそこで見ているんだ」
「ツ、ツヴァイ、私はあなたと――」
「何も言う必要はない……俺は勇者を倒し、魔王様から確固たる地位を与えてもらう。そうすれば、俺達はともにあることができる」

 ティリアは、兄であるツヴァイに語りかけようとしたが、それをツヴァイは遮った。

「そんなの、私は望んでいません!」
「ティリア、お前は真実を知らないからそう言えるのだ」

 ツヴァイは、ティリアの言葉など聞く意味もないというように否定した。

「人間達も……いや、魔族であっても俺達を受け入れることなどない!」
「どうして……どうして、そんなことを言うんですか!?」

 ティリアからの疑問を受けて、ツヴァイの顔が歪んでいった。

「なぜなら、俺達の父親と母親の末路が、それを表しているからだ!」
「……ど、どういうことですか?」
「ならば、教えてやろう!」

 ツヴァイは、大きく叫んだ。

「俺達の両親は、それぞれ同じ種族に殺されたのだ! 母さんは、人間に! 父さんは悪魔に! 全ては俺が半人半魔ハーフであるからだった! そんなものなのだ! 俺達の存在は!」
「そ……そんな……」

 その言葉に、ティリアはひどく動揺した。自分の両親が亡くなったひどい理由を聞かされて、心が痛んだ。その心の痛みを、ツヴァイは逃さないために、さらに言葉をかける。

「俺達は、世界に拒まれている! お前もいずれ知ることになる! 俺達が生きていくには、力で示すしかないのだ!」
「そ、それは……」

 ティリアがツヴァイの気迫に押されていく中、一つの声が響いた。

「さっきから何か知らないが……」
「うん?」
「あっ……」

 アンナは、拳を握りしめながら叫んだ。

「ティリアは、私の友達だ! 私はティリアを! 拒んだりしない!」」
「勇者、貴様……!」
「アンナさん……」

 アンナの一言で、ティリアの迷いは一気に吹き飛んだ。自分が何者でも、アンナ達がいると思い出したからだ。
 ツヴァイは、顔を歪めながらアンナを見つめた。

「やはり、お前を排除しなければならないな……」

 二人の戦いが、始まろうとしていた。

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