赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第28話 竜魔将ガルス③

 再び構えたアンナは、心の中で思考する。
 通常の攻撃では、ガルスに歯が立たなかった。小さなダメージは与えられるかもしれないが、それ以上に反撃されるリスクが大きい。
 ならば、威力の高い攻撃を行いたいが、そのためには隙を作る必要がある。
 ただし、カルーナの炎魔法は、ガルスには通用しない。ならば、別の方法で隙を作るしかない。

「お姉ちゃん、私にいい考えがあるの」

 アンナが思考していると、隣のカルーナが話しかけてきた。

「何? カルーナ?」
「うん、次は私が必ず隙を作るから、お姉ちゃんは、さっきと同じように距離を詰めて」
「わかった。任せて」

 カルーナは、作戦の多くを語らなかったが、アンナはすぐに了承した。
 カルーナには、何か考えがあるはずなので、それに乗るだけでいいとアンナは考えたからだ。

「ほう? やはり、厄介なコンビだな……」

 ガルスは、二人の様子を見ながら、素直にそう感じていた。
 絶対的な信頼は、戦いにおいて一番重要なことだ。二人には既にそれがあり、強敵であるとガルスは認識していた。

「行くぞ!」

 アンナが大地を蹴りながら、ガルスに向かっていく。
 ガルスは、今回も受けることにし、その場を動かず構えた。

紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 次に、カルーナの声が響いた。
 放った魔法は、先程と同じ魔法、炎の球体がガルス目がけて飛んできた。
 炎が効かないガルスは、それを奇妙に思いつつも、躱す必要がないため動かないでいた。

「むっ!」

 その時、ガルスは気づいた。
 カルーナの放った火球は、自分を狙っている訳ではなかった。正確には、ガルスの足元を狙っていたのだ。
 火球は地面に着弾し、小規模の爆発が起こる。

「くっ!」
「よしっ!」

 ガルスの足元の地面は爆発によって崩れ、ガルスのバランスが崩れかけた。
 ガルスは咄嗟に、地面を蹴り後ろに下がった。
 しかし、足場が悪いため、上手く飛ぶことができず、着地の際も少しだけ手間取った。

「はああああああ!」
「ぬうっ!」

 その瞬間、アンナはガルスとの距離を詰めていた。

十字斬りクロス・スラッシュ!」

 アンナにの放った技は、アンナの使える最大の技であった。
 デルゴラドとの戦いによって、感覚は完全につかんでいた。
 
「ぐうっ!」

 十字の斬撃は、ガルスの体に直撃した。

「えっ……?」

 しかし、アンナはすぐに理解した。攻撃がガルスに、大して効いていないことに。
 なぜなら、デルゴラドの時に味わった攻撃の手ごたえが、感じられなかったからだ。
 すぐにガルスの様子を伺ったアンナに、さらなる絶望が襲い掛かった。

竜人拳リザード・ナックル!」
「うっ!」

 アンナは、咄嗟に両手を交差させ、拳による攻撃を防いだ。
 数歩分だけ後ろに下がったアンナは、ガルスを認識する。その姿には、傷一つついておらず、アンナの技は効いていないことを表していた。

「そ、そんな……」
「悪くない一撃だったが……まだまだだ!」
「お姉ちゃん! 逃げて!」
「はっ! 聖なる光よ、盾になれ」

 唖然とするアンナに、ガルスの追撃が襲い掛かってきた。
 咄嗟に聖剣を盾に変え、衝撃に備えた。

「ふんっ!」
「くっ!」

 ガルスの攻撃を、なんとか盾で防ぐが、完全に衝撃を反らせず、アンナの体はどんどん後退していった。
 ガルスは、アンナから離れることなくさらなる追撃を行う。アンナと接近しているため、カルーナも無闇に魔法を使うことができないでいた。

「ふんっ! ふんっ!」
「くっ……」

 アンナは、連撃をなんとか受けながら、思考を加速させる。
 ガルスの攻撃も、いつかは途切れ目がある。そこが、反撃の隙になるはずだと。
 そのため、アンナ、じっと堪えてガルスの攻撃が途切れるのを待つ。

「ふん――」
「はっ!」

 一呼吸、ガルスが攻撃と攻撃の間で、息を整えようとした。
 その一瞬を、アンナは見逃すわけにはいかなかなかった。

「聖なる光よ、剣になれ!」
「むっ!?」

 アンナは、盾を聖剣に戻し剣を構えた。
 ガルスは疑問に思いつつも、振り上げた手をアンナ目がけて振り下ろした。

受け流しパリィ!」
「ぬうっ!」

 アンナは、ガルスの拳を剣で受けて、その軌道を逸らすことで、ガルスのバランスを崩させた。
 しかし、追撃はせずにすぐにガルスから距離をとる。アンナの体力も、かなり削れていた。攻撃しても、勝てるかどうかはわからない。

「なるほど……中々決められんか」
「はあ、はあ」
「お姉ちゃん!」

 息を切らすアンナの側に、カルーナが駆け寄ってきた。

「大丈夫?」
「なんとか。だけど、十字斬りクロス・スラッシュが通じなかったのは、厳しいかな……」
「お姉ちゃん……」

 カルーナは不安そうな顔で、アンナを見つめていた。
 アンナの持つ最高の技が効かなかったという事実は、二人に重くのしかかってきた。

「だけど、やれるだけはやってみるよ。聖なる光よ、槍になれ」

 アンナがそう言い放つと、手の中の聖剣が槍へと変化した。

「接近しすぎると、格闘術で負けてしまう。槍で距離をとりつつ戦ってみるよ」
「うん。私も、炎以外の魔法でサポートするね……」

 アンナは槍を構えながら、ガルスにゆっくりと近づいていく。
 ガルスは、アンナの思考を理解しつつも笑っていた。

「ふっ! 武器を変えたか……確かに俺は接近戦が得意だ。槍ならば、中距離から攻撃できる。悪くない選択だ」
「そりゃあ、どうも」
「だが、俺がそれになんの対策をしてないとでも思ったか?」
「えっ……?」

 言葉の後に、ガルスは大きく息を吸い込んでいた。
 アンナは、何かわからないが嫌な予感がした。直後、その予想は的中する。

火炎の吐息ヒート・ブレス!」

 ガルスが大きく口を開くと、その口から炎が吐き出された。
 アンナは、今までとはまったく別の攻撃であったため、数秒硬直する。

「くっ!」

 すぐに理解し、槍を回転させて自分に降りかかる火の粉を払ったが、次の瞬間ガルスの狙いが炎攻撃ではないことに気づく。

竜人拳リザード・ナックル!」

 炎を潜り抜けて、ガルスの拳が突き出された。

「くっ! 聖なる光よ、剣になれ!」

 アンナは、咄嗟に後退し槍を聖剣に戻した。攻撃を受け流することができるようにするためだ。

受け流しパリィ!」

 アンナは、ガルスの拳を受け流そうとした。

「ふん!」
「な、何!?」

 しかし、ガルスは聖剣と拳が接触する瞬間、拳の勢いを完全に殺していた。
 相手の勢いを利用していたアンナは、それ以上剣を動かすことができなくなった。

「同じ手を何度も使えると思うな……」
「くっ!」
「さて、そろそろけりをつけようか……」
「うっ!」
「お姉ちゃん!」

 アンナの状況を見て、カルーナは駆け出していた。
 魔法を放っても、アンナに当たってしまうこの状況では、カルーナにできることはそれだけだった。

「竜魔奥義……」
「なっ……」

 ガルスは、聖剣を右手で払いのけながら、円を描くように回した。
 その瞬間、アンナには空気が回転するような感覚が襲い掛かってきた。

竜人旋風撃ドラゴン・サイクロン!」
「ぐああ……!」

 アンナの体は、作り出された闘気の渦によって、大きく後退する。
 さらに、その渦の流れによって、強制的に地面に叩きつけられた。

「うっ……あああああああ!」

 そして、闘気の渦はうつ伏せになったアンナに上からのしかかり、その体を切り裂いていった。
 アンナの衣服が裂け、その体に切り傷が刻まれていく。
 その激痛に、アンナは叫びをあげていた。

「お姉ちゃん!」

 カルーナは、アンナに駆け寄って助けようとしたが、瞬時にそれが自殺行為であると理解した。
 自分が近づいても、巻き込まれて地面に叩きつけられるだけだろう。
 そのため、カルーナは別の手を打つしかなかった。

小さなリトル紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 カルーナの手から、小さな火球が放たれる。
 その様子に、ガルスが口を開いた。

「無駄だ、竜人旋風撃ドラゴン・サイクロンはその程度の攻撃でかき消せはしない」

 しかし、口にしてすぐにガルスは自身の言葉に疑問を覚えた。
 そもそもカルーナがかき消すつもりなら、わざわざ威力の低い魔法を使うはずがない。

「ぐっ!」

 小さな火球は、アンナの体近くに着弾し、小規模の爆発が起こる。
 すると、アンナの体は転がり、竜人旋風撃ドラゴン・サイクロンの範囲から離れていった。

「なるほど、勇者の体に向けた一撃だったか……」
「あなたの攻撃をかき消すなんてできないけど、お姉ちゃんの体を動かすことくらいなら、私にもできる!」

 カルーナは、アンナに駆け寄った後、ガルスに向かってそう叫んだ。

「やはり、厄介なコンビだ……」

 なんとか窮地を脱したアンナとカルーナだが、劣勢であることはまったく変わっていなかった。

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