赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第14話 剛魔団魔術師

 カルーナは、剛魔団魔術師、ボゼーズと対峙していた。
 先に沈黙を破ったのは、ボゼーズだった。

「おや、おや、来ないのですか。なら、こちらから行きましょうか」

 ボゼーズの言葉に、カルーナは、身構えた。

氷の杭アイス・パイル

 ボゼーズがそう言い放つと、その周りに、氷でできた杭が三本現れた。
 そして、その杭が、カルーナ目がけて、飛んできた。

「くっ!」

 カルーナは、すぐに駆け出し、その軌道から外れた。
 その直後、鋭い音とともに、カルーナの後ろにあった木が貫かれた。
 ボゼーズは、拍手をしながら、口を開いた。

「お見事ですねえ。すごい身のこなしだ」
「なんのつもりかしら」
「いえ、いえ、褒めているだけですよ」

 ボゼーズの言葉に、カルーナは寒気を覚えた。
 この男、表面上は褒めているように聞こえるが、内心では何も思っていないことが見え見えだった。

「さて、ここで一つ、分析しましょうか」
「え……?」
「どうやら、あなたは、素早さを上げるために、重い装備は、していないようですね」
「うん……?」
「つまり、防御力を捨てて、回避率を上げている、という訳ですねえ」
「……さっきから、何が言いたいの?」

 ボゼーズの言ったことは、概ね当たっている。
 しかし、それはカルーナの外見を見れば、大体はわかることだった。
 カルーナは、その言葉の意図が読めず、困惑したいた。

「何が言いたいか、すぐにわかりますよ……氷の杭アイス・パイル!」

 ボゼーズがの周りに、再び、氷でできた杭が三本現れた。

氷の礫アイス・ダスト

 ボゼーズがさらなる魔法を口にすると、杭が砕けて、無数の氷の粒に変化する。

「はっ!」

 そこで、カルーナは理解した。

「逃げ場などありませんよ」

 ボゼーズが、杖を振るうと、氷の粒が、一斉に飛び散った。
 その量は、カルーナの行動範囲、全てを塞ぐほどだった。
 後ろに下がって、木の陰に隠れるには、時間が足りない。
 つまり、躱すことはできなかった。

「きゃあ!」

 無数の氷が当たり、カルーナは叫びをあげた。
 一つ一つの痛みは、大きくはないが、全身が痛く、思わず叫んでしまったいた。

「どれだけ、素早くても、躱せなければ意味はないですよ。威力は、低いですが、少しづつ、痛めつけて差し上げますよ」

 ボゼーズの言う通り、何度も喰らえば、流石にまずいだろう。
 カルーナは、痛みを堪えて、駆けだした。
 じっとしているよりも、動いている方が、まだ攻撃を躱せる可能性があるためだ。

「逃がしませんよ。氷の杭アイス・パイル氷の礫アイス・ダスト

 ボゼーズが、魔法を口にして、再び、無数の氷の粒が、展開された。
 氷の粒は、先程よりも、さらに広がり、カルーナの逃げ場を塞いでいた。
 カルーナは、左右を確認し、逃げ場がないことを認識した。そのためか、一度その場で動きを止めた。
 その瞬間、氷の粒がカルーナに襲いかかってきた。

「ふう……」
「うん? 何を……?」

 カルーナが、落ち着いたようなため息を放ったので、ボゼーズは違和感を覚えた。
 この状況で、諦めたとも考えられが、妙な自信が、カルーナから感じられたのだ。
 そして、その予感は的中した。カルーナは右手を前に出し、言い放った。

紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 カルーナの右手から、炎の球体が現れた。
 そして、それを、氷の粒、さらにはボゼーズ目がけて、放たれた。

「何!?」

 ボーゼズは、驚きに声をあげた。
 カルーナの魔法によって、周囲の氷の粒が融けていった。
 そして、ボゼーズ自身にも危機が訪れていた。

「くうっ!」

 ボゼーズは、大きく大地を蹴り、自らの体を投げ出した。
 炎の球体は、ボゼーズの後ろにあった木に着弾し、小規模の爆発が起こった。

「ぬうっ!」

 その爆風の煽りで、ボゼーズの体は飛ばされ、地面に叩きつけられた。
 その時、カルーナは、過去のことを思い出していた。





「カルーナ、いいかい?」
「うん、お母さん」

 カルーナは、ソテアから、魔法に関する手ほどきを受けていた。
 アンナは、魔法が得意ではないので、近くで剣を振っていた。

「魔法使いってのは、魔法が使える。それは、強力な武器さ。ただし、魔法には制限があるのさ」
「制限?」
「魔力っていう、体の中に流れる……不思議な力? みたいなものさ。これが切れると、まずい」
「うん、それが切れたら、どうなるの?」
「魔法が使えなくなっちまうのさ。それは、中々困ることなんだよ」

 ソテアの言葉は、カルーナにはなんとなくだが、理解できた。

「だからこそ、慣れてない時は、魔法を見極めて使うのがいいとされている」
「見極める?」
「ああ、ここぞという時に、使う。外しちまったら、その分の魔力が無駄になっちまうだろ?」
「そっか……」
「それが、魔法使いを始めるコツだと、私は知り合いから聞いたよ」
「わかった! けど、それって、どうすればいいの?」
「そういう時のために、ここを使うのさ」

 そう言って、ソテアはカルーナの頭を撫でた。

「まあ、戦闘全般がそうだけどね。戦いってのは、頭を使うのさ。だから、たくさん勉強しなきゃだめだよ」
「えー、そんなのないよー」
「ははは」
「あはは」

 カルーナとソテアは、笑い合った。




「はあ、はあ……」

 カルーナは、息を切らしながら、ボゼーズの様子を見ていた。
 カルーナの狙いは、最初からこれだった。
 一度目の氷の粒も、やろうと思えば、かき消すことはできた。
 しかし、ボゼーズを油断させるため、わざと受けたのだった。
 予想通り、ボゼーズは、カルーナが何も抵抗できないと思っていたようだ。
 このまま倒れてくれれば、カルーナとしては嬉しかったが、そうはならなかった。

「なるほど……やりますねえ」

 ボゼーズは、体の土を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。

紅蓮の火球ファイアー・ボール……とても、一般的な魔法ですね。つまり、使いやすく強いということ……」

 そして、着弾して倒れた木を見つめながら、語り始めた。

「威力、コントロール、どれをとっても、申し分ない……あなたのことを、侮っていたことを謝罪しましょう」
「あなたに謝罪されても、何も嬉しくはないけどね」
「ふふ、そう言わないでくださいよ……」

 カルーナにとって、これは嬉しくない出来事だった。
 なるべく、カルーナは、ボゼーズが自分を侮っている内に、決着をつけたかったのだ。
 相手が、油断していなければ、戦いが苦しくなる。

「油断や慢心といった感情は、捨て去るべきですねえ。いい勉強になりましたよ……」

 ボゼーズは、杖を振るいながら、そう呟いていた。
 カルーナも、杖を構えて、攻撃に備える。

「さて、行きましょうか……氷の杭アイス・パイル!」
「くっ!」

 三本の氷の杭が、カルーナ目がけて飛んでくる。

氷の杭アイス・パイル!」

 さらに、ボゼーズが、氷の杭を出現させ、飛ばしてくる。
 カルーナは走りながら、その杭から、逃れようとする。 
 ボゼーズは、戦術を変え、何度も攻撃することを選んだのだった。

「くっ!」

 カルーナにとっては、この攻撃の方が嫌だった。
 氷の杭を受けると、ほぼ一撃で、貫かれてしまう可能性が高かった。
 相手の魔力切れを狙うのもいいが、その前にこちらの体力が切れてしまう。
 そのため、魔法を使い、応戦するしかなかった。
 なるべく、魔力を切らさないため、魔法を多用するのは避けたかったが、今は仕方なかった。

火炎呪文ファイアー

 カルーナの手から、炎が放たれ、氷の杭を融かしていく。

「ほほう、なるほど、いい魔法ですねえ」

 ボゼーズが笑っているため、カルーナは奇妙に思った。
 その時、氷が融けてできた水が蠢いているのが、カルーナの目に入った。

「まさか!」
水の柱ウォーター・ポール
「くっ!」

 地面の水が、カルーナ目がけて飛んできた。その狙いは、顔だった。
 恐らく、窒息を狙おうとしているのだろう。

火炎呪文ファイアー

 カルーナは、魔法を放ちながら、大きく後ろに下がった。

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