神霊使いの英雄譚

ノベルバユーザー415197

1話

戦場に漂う血の匂い。
上がる悲鳴は仲間のものか敵のものかもわからない。
目の前に広がるのは砲弾の雨と血まみれの兵士たち。
それを私はただ呆然と眺めていた。

「どうして…どうしてこんなことに」

悲観に暮れていた少女にも等しく砲弾は降り注ぐ。

「あぁ…神、さ、ま…」

響き渡る砲弾の音と兵士の悲鳴。
また一つ命が消えた。



「中将!報告します!第6師団がデル湖にて壊滅!レデウル少将討ち死にです
…!!」

「そうか…。すまないことをした…。儂を逃すために…レデウルはまだ28だったのにな…。」

暗い顔をして俯くこの老人はブロンキア王国第7軍総大将のダリウス中将そのひとである。

「中将…。今は戦の最中、人情に流されてはいけないときです。」

「すまない。お主にはいつも助けられてばかりだな、エマ少尉。」

エマと呼ばれたこの者は第7軍でダリウスの補佐を務めている女性少尉。少尉は口を片方だけ吊り上げてこう言った。

「いえ、それが私の役目ですので気になさらないでください。それと中将。暗い話だけではございません。」

「どうした?何か朗報でも入ったか?」

「はい、まさにその通りです。第3師団特別殲滅騎兵団がガルシア帝国第8軍を半壊させました。そして8軍総司令官の首をかっさらったそうです。」

「そうか!ギルバートめ、また腕をあげよったか。確かに落ち込んでいる場合ではないな。若いのにはまだまだ負けてられん。」

「そのいきです!さぁ、次の作戦に移りましょう。」

今このカストル平原ではブロンキア王国とガルシア帝国の戦が繰り広げられていた。現在優勢なのは帝国軍だが王国軍も勢いを取り戻していた。

カストル平原南部、ハルピア台地にて

「ギルバート少佐!第七師団と帝国第4軍との戦い、形勢が逆転しました!第七軍が現在優勢です!!」

伝令兵が興奮した様子でことを伝えるとギルバートはパッと表情を明るくして言った。

「そうか!さすがダリウス師匠だ!!鬼将軍の名は伊達じゃねえ!!」

「そしてもう一つ伝令が!帝国第5軍が動きました!目的地は…ナヒル丘でしょうか?」

「そうか、だとしたら指揮してんのはクラリスの野郎か…。あいつは非力だが頭はよく回る。大方高い場所から弓で第七師団を殲滅するのが目的だろうな…。」

ギルバートはあごに手を当てて言った。そこに副官と思わしき女性が声をかけた。

「少佐?我が軍はもういつでも動けます。撤退しますか?それとも…。」

「決まっているだろう。」

ギルバートは不敵な笑みを顔に浮かべこう言い放った。

「丘に登られる前に敵を殲滅する!!全軍に伝えろ!俺たち殲滅騎兵団は第5軍をナヒル丘手前で殲滅させる!!」

「はっ!!」

伝令兵は敬礼をすると即座に天幕を出て行った。

「よかったのですか少佐?今なら第7軍から増援を呼べたかもしれませんよ?」

副官の女性がそう言うと

「冗談はよせよ!そんなことしたら戦後にダリウス師匠の拳骨が下るだろ!?俺は戦争よりもそっちのがよっぽど恐怖だ!お前でもそれはわかるだろう?カノン少尉。」

カノンと呼ばれた副官はというと

「少佐のタンコブひとつで戦争が終結するなら儲け物です。大体少佐の頭はもともと残念なのだからこれ以上悪くなることもないでしょう?」

「お前同い年とはいえど仮にも上官だぞ!?もうちょっと俺の頭敬えよ!?」

するとカノンは口調を変えて

「何言ってるのよギル。あなたの頭が悪いのなんて周知の事実でしょう?だから私が副官に抜擢されたのよ。」

まぁカノンの言っている事は概ね正しいのである。ギルバートは武力、人徳は高いが頭は中の下程度なのだ。

「いやまぁその通りなんだけども…。」

そんな2人のやりとりは騎兵団にとっては日常茶飯事なので兵たちは笑いながらギルバートの醜態を見ている。

「そうだぜ少佐!少尉の言う通りだ!」

「むしろ少佐が少尉の頭の良さを敬うべきだ!!!」

少佐がこのザマでは隊は成り立たないのではないか、と誰しもが思うがその逆である。殲滅騎兵団は驚くべき統率力でいくつもの壁を喰いちぎってきている。

「それも一重に少佐と少尉の2人が揃っているからなんだがな。」

苦笑しながら言うこの男はゼネル部隊長。殲滅騎兵団の中でもずば抜けて戦闘力が高い攻撃の要である。

「さぁ、少佐、少尉。口喧嘩はそこまでにしてください。急がなければ5軍が丘に到達してしまいます。」

「おっといけねえ。では気を取り直して…。全員注目。」

そうギルバートが言うと騎兵団の空気が変わった。兵士は皆冷静な瞳の中に漲る闘志を宿らせている。

「よく聞け!我々はこれよりナヒル丘の麓にて帝国の犬どもを蹴散らす!!!相手はクラリス率いる第5軍だ!!どんな手を使ってくるかは分からないが我が軍に弱者など誰1人としていない!!」

騎兵団は激しい闘志を燃やしてギルバートの話を聞いている。そしてギルバートは高らかに宣言した。

「10分だ!10分でナヒル丘まで行き第5軍を壊滅させる!!我らが殲滅騎兵団の名に恥じぬ働きを期待する!!」

話が終わり皆が馬にまたがりそれぞれの武器を抜いた。

「では行くぞ…!全軍前進!!!!」

「「おおおおおぉぉぉーーー!!!!」」

ギルバートら殲滅騎兵団の突貫力は大陸で知らない軍人はいないほどのもので過去には立ったの1000騎で10000の大軍を壊滅させた伝説を持っている。
そして今まさに新たな伝説を刻もうとしていた。

一方その頃、帝国第5軍にて

クラリス率いる第5軍は丘から6キロ離れた場所で休息を取っていた。

「クラリス少将!!弓兵はもういつでもいけます!丘に登り作戦を実行しましょう!」

敵の将校と思わしき人物がクラリスに進言をするとクラリスはティーカップを置き

「そうですね。なるべく急がなければ敵がこちらの策に気付いてしまいます。では第五軍、再度進行を開始します!」

第5軍は再び進軍を開始した。

クラリスたちが異変に気がついたのは丘まであと500メートルにも及ばない地点だった。

「クラリス少将!!大変です!!後ろの部隊が敵軍を発見しました!!」

「それは本当ですか!?相手は!?」

報告した部下は悲痛な表情を浮かべ口を開き、その物たちの名を告げた。

「王国軍第3師団、特別殲滅騎兵団です…。」

クラリスは絶望の表情を浮かべた。

「ま、まさかあの男…。ギルバート・テオ・ボルグ…、また戦うことになるとは。」

クラリスは1度殲滅騎兵団と戦ったためその恐ろしさを知っている。あの時生き残れたのは本当に運が良かったのだろう。

「今すぐ退却します!!奴らの突貫力は大陸最強と謳われるほどです…!我々だけではどうにもできない!!!!」

「し、しかし!第7師団の殲滅はどうするのですか!?」

「特別殲滅騎兵団がここにいると言う事は第8軍は壊滅したと言う事でしょう…。この作戦は第8軍がいなければ意味がありません…。ここは撤退すべきです…!」

すると突然、焦るクラリスの耳にかつて聞いたことのある声が届いた。

「おいおい、クラリス。また前みたいにとんずらしようってわけじゃねえよな?」

クラリスが恐る恐る振り返ると、もう殲滅騎兵団がすぐそこまで迫っていた。

「ぜ、全軍!全速力で逃げます!!」

「おおっとそうはさせねえぜ?カノン!!!!」

「はっ!!第2第3部対私に続きなさい!」

カノンはそういうと第5軍の前を横切る形で馬を走らせた。

「なっ!速すぎる!!」

「みたか?これが神速と呼ばれるカノン少尉率いる第2第3部隊の力だ。」

馬脚が乱れスピードが落ちた第5軍はあっという間に殲滅騎兵団に追いつかれた。

「全軍!突撃体勢!!」

ギルバートが高らかに言うと兵たちは重槍を構え…

「突撃ーーー!!!!!!」

一本の恐ろしく強力な槍と化した騎兵団は次々と第5軍の兵士たちを屠っていった。
しかしクラリスは諦めていなかった。

「くっ!こうなったらあれを使います!!!!!!」

「ま、まさか!?クラリス少将!!使う気ですか!?神霊を!!!」

クラリスは質問には答えず詠唱を始めた。

「我、汝が器なり。翼をはためかせ大空をかけよ…顕現せよ!ファレルリア!!」

するとクラリスの背中から翼が生え、クラリスの身体を包み込むように光が纏わり付いた。

「へぇ…あいつ神霊使いだったのか、ファレルリア…ヘミネス神話に出てくる鳥の神霊か。」

「感心してる場合ですか!?どうするんですか少佐!」

クラリスはもう巨大な鳥人に姿を変えていた。すると背中巨大な光輪が輝いて光の球が現れた。焦る一同だったがギルバートだけは冷静だった。

「なぁに、この前のガルーダよりはよっぽどマシだ。」

そしてギルバートは詠唱を始める。

「我、汝が器なり。血肉を喰らい冷酷無比の権化と化せ…顕現せよ!バハムート!」

ギルバートの身体はみるみる大きくなり鈍い銀色の鱗に身を包み巨大な二本の角を生やした龍人となった。それを見た1人の帝国兵士は叫んだ。

「な!?バハムート!?!?あり得ない!!その神霊は最上位神霊だ!体に宿したら自我は保てないはず!!」

するとカノンは呟いた。

「ギルは普通の人間じゃないから…。だからバハムートはギルに逆らえない…。」

この場の誰しもがこれから始まる激戦に身体を震わせた。

刹那、ファレルリアが雄叫びをあげながら巨大な爪をバハムートに振り下ろした。

「クルァァァァァ!!!」

その爪がバハムートを切り裂くかと思いきやバハムートは体を横向けそれをかわした
そしてバハムートは口に紫色の球体を作り出した。

「ゴアァァァァァァ…!!」

すると紫色の球体は一直線の光線となりファレルリアの心臓を貫いた。


2話に続く




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