週末自炊酒

飯炊きおじさん

第十四話 シソつくね

「…シャワー浴びたい」

職場からの帰り道、男はそう感じた。
6月も中頃に差し掛かる時期で、梅雨真っ盛りだ。
今日も雨が降っている。
傘も持っていたので、男は濡れてはいないが、湿気が強く、下着が肌に貼り付き不快らしい。
しかし、

「そうは言っても飯の準備もしなきゃな」

最早その身に染み付いた習慣である。
週末に料理や酒を嗜むというのが誰に強要されているわけでもないのに外せない用事となっていた。
早速いつものスーパーに向かう。

「さて、今日は何を作って何を飲むか」

食べるものも飲むものも決まっていない。
いつものこの男に輪をかけて間が抜けている。
とにかくスーパーに入り、店内を散策する。

外の蒸す感じが鬱陶しく、自然と目線はサッパリできそうな、または爽やかそうな食材に向かう。
店内には夏野菜の走りが並び始めて如何にも男の希望に沿いそうである。
しかし、男はより季節感のある食材はないかと歩き回る。
そして、

「お、シソか…これなら季節感もあってサッパリとしてて良いな」

青々としたシソを手に、男はさてどうするかと思案する。
シソは薬味として万能で、千切りにすれば如何様にも使える。
しかし、どうせならばシソの風味をしっかりと感じられる料理が良い、男はそう考えながら歩いていたが、不意に精肉コーナーで立ち止まる。
目の前には鶏挽き肉。

「これだ。今日はつくねだ」

男は鶏挽き肉をカゴに入れ、野菜コーナーから青ネギもカゴに放り込む。

「あとは…酒か…」

日本酒か、ビールか、と考えながら酒の棚に向かうといつもレジ打ちをしている女性が品出しをしていた。

「今日はレジじゃないんですね」
男はふと話しかけた。
瞬間、あ、鬱陶しかったかな、と思ったが杞憂だった。

「はい、店長任せだと変なものを発注して並べたりするんです。だから今日は店長と入れ替わりです」
と朗らかに答えた。

ふと、レジの方を向いてみると中年の男性がぽつねんと佇んでいた。この男性が店長のようだ。
そしてなんとも物寂しそうな顔である。
どうやらこの店長、レジ打ちよりも発注や品出しといった業務の方が好きなようだ。
ただ、好き勝手やりすぎてこの女性に怒られて、それを取り上げられたということだろう。

「お酒ですか?」
レジの方を眺めていた男に女性が尋ねる。

「ええ、今日の晩には何が合うかな、と」
男が答える。

「ちなみに何を作る予定です?」
と女性が再び聞く。

「鶏つくねです。シソをたっぷりと入れるつもりで」
と答える。

「それなら…」
と女性が棚から一本取り出した。

「これ店長が仕入れていたものなんですけど、これもシソ使ってるみたいですし、合うんじゃないですか」
と、しそ焼酎を勧める。

「なるほど、シソにはシソ、ですか。良いですね。それ頂きます」
と男は女性からしそ焼酎を受け取る。

「ありがとうございます!」
女性が言い、男も会釈してレジに向かう。

今日はレジ打ちとなっている中年の男性も流石店長なだけあって手際が良い。
ささっと会計を済ませてくれるが、しそ焼酎をレジに通すときにニヤリと小さく笑ったのが見えた。

「自分の勘で仕入れたものを客が買っていくのが楽しいのかな」

男はそう考えながら家路についた。

家に着き、早速台所に材料を並べ…る前にシャワーを浴びるようだ。

「こんな汗ベタベタのまま火なんて扱ってられるか」

そう思いつつ男は軽く汗を流した。

気を取り直して、男は台所に材料を並べる。
・鶏挽き肉
・シソ
・青ネギ
・塩
・料理酒
・すりショウガ
・片栗粉
つくねの作り方は至って単純だ。
材料を切るなどの下準備の後に全て混ぜ、成形し、焼く、ただそれだけだ。
今回はタレや卵黄を用意せず、塩だけでの味付けとなる。

まずはシソを茎を取って千切りに、青ネギを小口切りにしていく。
買ってきた鶏挽き肉が250gなので大葉は4枚、青ネギは1本と言ったところだ。
切ったらボウルに移し、そこに鶏挽き肉、塩一つまみ、料理酒とすりショウガと片栗粉を小さじ1~2ほど入れる。

それらを手で揉むように混ぜ、全体にシソと青ネギが行き渡るように混ぜたら、小さく平たい丸に成形する。
男は大きめのつくねが好きなので、今回は5つに分けて成形した。

フライパンに油を敷いて熱したら成形した肉を焼いていく。
まずは片面を中火からだ。
焼き色がついたら、弱火にしてひっくり返してフライパンに蓋をする。1分強ほど蒸し焼きだ。
焼き上がったら皿に盛り付けて完成だ。

早速しそ焼酎をロックで注ぐ。

「クイッんぐ…こりゃこの季節にちょうど良いな」

独特な風味だが、香りも味もスッキリとしており、このような蒸す季節には飲みやすい。
ほのかにシソの香りも鼻腔に漂い、とても爽やかに仕上がっている。

「ではでは、つくねの方は…と。むぐ…むぐ…あー、サッパリ」

味付けを塩だけにしたのが正解だったようだ。
シソの風味が確かに感じられ、全くもってくどくない。
そこにしそ焼酎を流し込む。

「んぐ…んぐ…あー、体内の蒸し暑さも飛んでくようだ…」

つくねのシソに焼酎のシソも重なり、とても口腔内がサッパリとする。
普段ならばここに濃いものを入れないと物足りないのだが、こんな蒸し暑い日には濃いものは余計だ。

何時頃からか、男は梅雨の蒸し暑さも気にならなくなっていた。

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