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萩原 歓

19 別離

 会社を辞めるまで三ヶ月間、受付にいる里佳子とは挨拶をするだけだった。
「おはようございます」
 よそ行きの綺麗な笑顔は屈託なくまっすぐだった。
挨拶をして通り過ぎると飯田がまた里佳子に軽口をたたいていた。
彼女は機嫌を悪くすることなく愛想よく応じている。


 まっすぐに対象者を見つめて明るい顔をする里佳子はヒマワリのようだった。
彼女は薔薇や蘭の類かと思っていたが、実際はヒマワリのような人なんだと直樹は思い直していた。




 小学生のころ、夏休みには毎日学校のプールに通い、身体中がクタクタになるまで泳ぎ、帰りがけに校庭のヒマワリの種をむしって食べた。
香ばしくてとても美味しかったと思うが今ははっきり覚えていない。




 里佳子はきっと太陽のほうをまっすぐ向き自らも輝き、ぎっしりと栄養の詰まった種を残していく人だろう。
少年時代の郷愁ともう向けられない笑顔を想い少し切なくなった。
自分への種はもうないのだ。
 ちらっと飯田と里佳子のやり取りを見たが、彼女からメールが来ることは二度となかった。

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