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萩原 歓

6 ネットゲーム・1

 直樹は夏休みを今年は五日間ほどとったが、里佳子は東京から帰省してくる妹と両親と共に沖縄旅行に出かけるらしい。
彼女と付き合って年数は長く過ごした気がするが、一日を、――時間を長く過ごしたことはないと、ネットゲームで仲良くなった男子中学生と五時間連続で遊んでいて思った。




 このネットゲームは、大規模多人数同時参加型オンラインRPGで二つの種族、人間対獣人に分かれて戦争をするというのが基本的なコンセプトだ。
 直樹は自分の分身のように最初、人間の種族を選びキャラメイクを始めた。
最近のゲームは細かい設定で人物を作ることができ、自分の容姿に相当詳細に近づけることができた。


 一応自分に似せて作ってみたがイマイチだった。
冴えないサラリーマンの自分が長剣を持って突っ立っている。
(弱そうだな。スーツがアーマーになっただけだな)
 苦笑してキャラを消し、獣人国家を選択した。
体格は人間のようだが毛深く、顔は好きな獣を選べた。
直樹は灰色の狼を選んだ。
 そして名前を『ミスト』とつけ戦士と言う職業に就いた。




 今は随分このキャラクターに馴染んでいて、会社で仕事をしている自分よりも仲間とモンスターを倒し、相手種族と戦いレベルが上がって強くなる『ミスト』が自分らしいと錯覚をしていた。
 夏休みはゲーム漬けだ。
毎日ログインをして朝から眠気の限界が来るまで狩りをし続けレベルを上げ戦った。
寝落ちと言われる、ゲームの最中に寝てしまいモンスターに倒されてしまったこともあった。


 普段、現実では欲しいものが特にないのに強い武器が欲しくなり、リアルマネーを投入し、最新の大剣を買った。
今回の戦争では倒した人数によってゲーム内で使える通貨の褒賞とランキングの公開があり、『ミスト』は七位だった。
他のプレイヤーからは『廃ですね』とか、現実では本来蔑みの言葉であろう賞賛を投げかけられ、満更でもなかった。

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