流行りの異世界転生が出来ると思ったのにチートするにはポイントが高すぎる

萩原 歓

 仕事に疲れてとぼとぼ歩いていると神社に差し掛かる。もう夕暮れで受付も締まっており赤い鳥居だけが華やかさを見せていた。


「はあー。お参りでもしていくかなあ」


 誰もいないので本格的に鳥居の前で二回拝礼をしてから手を洗い口を漱ぐ。こじんまりとしているが木々の溢れるしっとりした境内を歩き、階段を上がって賽銭を投げ入れる。十五円入れようかと思ったが、思い直し四十五円にする。


「始終ご縁がありますように――はあー異世界にでも転生できたらなあ」


 ガラガラと鈴を鳴らし、思いっきり柏手を打つと目の前がぱっと明るくなった。


「きゃっ!」


 思わず目を閉じ、パチパチ瞬かせると、目の前の眩しい光の中に誰かがいる。


「え? まじで? 神様?」


 逆光に目が慣れて良く見ると、目の前の神様であろうか、狐の耳と尻尾をもち袴姿の色の白い凛々しい若い男性が私を静かに見つめている。


「神様というか人外というか……お稲荷様?」


 耳と尻尾と長い髪は銀髪で、切れ長の一重の瞳には薄茶色の中にグリーンが混じっている。あまりの美しさにぼんやり口を開けてみていると、止まった時間が動き出したかのように、神様が話しかけてくる。


「お前の願いは異世界転生か?」 
「はっ! えっと、そうですね。出来たら異世界で溺愛されたらいいなあーって……」
「ふむ。異世界で溺愛か」
「で、できるんですか?」
「ああ、できる」
「やったー!!! 異世界転生だあ!!!」


 興奮して思わず万歳し鼻息を荒くしていると静かな声が私の沸騰しかけの頭を冷静にさせる。


「転生先ではお前は犬となり、飼い主に溺愛されるであろう」
「えっ??? ちょ、ちょっと待ってください? 犬? 人間じゃないの?」
「そうだ。異世界転生で溺愛されたいのであろう。お前の希望と条件にあっている」
「希望は確かに合っていますけど……。条件ってなんですか?」
「お前の持つポイントだ。それが反映されている」
「ポイント制か……」
「では、転生させてやろう」
「あっ、ま、待って、やめますやめます」
「そうか」


 危ない危ない。犬に転生させられるところだった。


「あの。人間に転生しようと思うとそ、そのポイントどれだけ足りないのでしょうか?」
「今のポイントは150ある。あと150足りない」
「あと倍……」


 どうやら転生は可能であるが、100以上で動物、300以上で人間になれるらしい。


「どうやってポイントって貯められるんですか?」
「これは『徳』だ。それを増やせばおのずとポイントに変換されるだろう」
「『徳』……」


 徳ってなんだ?どうやって徳って増えるの?


「あ、あの、徳を増やしてきたら人間で転生させてもらえますか?」
「うむ。よいだろう。またこの逢魔が時に来るがよい。さらば」


 一瞬で神様は消えて、私はぽつんと暗闇の神社にいた。急いで帰らなきゃ。とにかく帰って徳についてググらなきゃ。私は転げるように階段を下りて急ぎ足で帰宅した。


 徳について調べてみると概念が難しくイマイチ理解できない。


「人徳? 品性? 道徳……。うーん、それがどうやったら増えるわけ?」


 分からないので徳が高い人を調べてみる。


「えーっと劉備玄徳? 誰……」


 結局分かったのは人に親切にして、責任感を持ち、怒らないと良いらしいということ。


「明日からやってみるか。ポイント上がって異世界転生できるかもしれないもんね」


 なんだか目標ができたおかげでワクワクしてきた。異世界で王子様、いや、ライバルが出てくると嫌だし、姫になると拘束が嫌だから、ほどほどの身分で、次男とか三男当たりの、どびっきりじゃなくほどほどのイケメンに溺愛されるところを想像しながら眠りについた。

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