太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

58,洞窟内探検③

「これはナイファースイプか」

 ナイファースイプは蟷螂型の魔物、高さは3mぐらい。鎌の斬れ味は、まあそこらの獣なら軽く真っ二つには出来るほど。鉄は、力の入れ具合と速度で斬れるかどうか変わるかな。
 で、そのナイファースイプの死骸が目の前に転がっていた。

「まだ新しい。さっきの戦闘音はこれだろ」

 あれ? 少し押されてるんじゃ……

─嘘はついていない、はず。直接見たわけじゃないから─

 へぇー

 死骸に近づく。
 首から先を綺麗に切り落としてるな。鎌もズタズタだ。
 これは結構余裕だったっぽい?

「で、これを倒した奴らは死骸を回収しずに先に行ったのか。もったいねぇなあ、危険度4の貴重な素材なのに」

 ジクシオが死骸を触りながら独り言をつぶやく。

「ま、後で回収するんじゃないか? ともかくオレ達も先に行こうぜ」
「そうだね」

 ここにいても仕方ないし、また奥へと進んで行く。

 !!!!!
 突然、凄まじい魔力マターの収束を感じた!
 みんなも気づいたようだ。

─アレン─

 ああ!

「みんな、先に行くぞ!」

 ルビアスに跨り急ぐ。
 ももが鱗に擦れて少し痛いが、そんなことより急がないと……今度は間違いない!

「オレも行くぜ!」
「…………」
「おあ!? ルドルフお前勝手に!」
「…………いいから急げ」
「あーもう! ライカ頼んだ!」

 ライカが物凄い速さでルビアスに追いつき、更に追い抜いた。まるで電光石火だ。

─抜かれた……トカゲに……─

 ルビアス?
 大丈夫だよ?

─大丈夫じゃ……ない─

 あ

 ルビアスが速度を上げた。
 いや、今回はこれでいいか。
 ともかく急がないと。

─血の匂い─

 血?
 だいぶやばいんじゃ……?
 間に合え……!

✧✧✧✧

「えーと、じゃあ私がみんなをあっちに転移させます! だいたい位置は分かるので!」

 ジャスミンが言う。
 ドジを踏むことはあるが、彼女は空間魔法を使える天才だ。

「神よ、我に世界を繋げる力の欠片をお与えください。転移テレポート!」
「少し、手を貸そう」

 彼女の魔法にタマが介入する。
 すると、数十秒はかかるであろう転送の時間が数秒まで縮む。最も、タマだけならば無詠唱かつ一瞬だが。

「うぉおおお!! タマさんって凄い!」

 だが、やはり彼女はドジだ。

「…………」
「…………」

 ジクシオとアンナだけを置いて転移が完了した。

✧✧✧✧

 目の前でルドルフが飛び降り、そのまま自分の足で駆けるのが見えた。
 しかも、ライカよりさらに速い!
 あれがS+級……いや、吸血鬼の力か。
 すげぇー!

─多分、血の匂いに反応したんだと思う─

 なるほど

─じゃなきゃあんなに速いわけがない─

 そうだな……

 ルビアスが可哀想……

「アレン! 見えたぞ!」

 ラウルが叫ぶ。
 その前には、大きな蜘蛛型の魔物がいた。
 ってあれ? なんかタマ達もいない?
 ルビアスから素早く降り、聖気でももの傷を治す。
 目の前では既にルドルフと巨大な蜘蛛が戦っていた。
 中々の接戦だな。
 7人のローブも的確に支援している。

「あれは、ハイクァクァのアークになりかけ?」
「いや、鎌がある。どうやらクァクァロードっぽいな。クァクァの特殊個体だ」
「特殊個体?」
「ああ、突然変異体とも言えなくはないな。ちなみに危険度8だ」

 危険度8……!!?
 あのカーバンクルよりも上だ!
 そんなものがこんなところに。
 それでえっと、魔力の持ち主は……?

 周りを見渡すと2つの遺体が目に入った。

 2人も……

 理解した途端、腹の奥底から何かが滾る感覚が芽生えた。

「少しキツそうだな。よし、俺も加勢するか!」
「…………」
「ん、アレン?」

 ルドルフ達の方へ歩いていく。
 この感覚は……怒りだ。

 だけど、こいつに対する怒りじゃない。
 自分に対する怒りだ!
 ああ!くそ! どうして!!
 ……間に合わなかった…2人も救えなかった。
 僕はどうして太陽の申し子サージェビクシュになった? なんの為に修行した?
 太陽の申し子になっただけで自惚れてた。強くなったと思っていた。
 でも、違ったんだ……!
 やっぱり僕は、無力だったんだ……無力のままだったんだ……!!
 無力だから2人の命を救えなかった……

─アレン、私がもっと速ければ─

 違う!
 ルビアス……
 お前のせいにしたいわけじゃないんだ

─でも─

 これは僕が……いや今はいい!
 まずはこいつを狩る!

─わかった。私は─

 こいつぐらい一人でやるさ

─危なくなったら直ぐに割り込む─

『……血魔法ボア呪縛ジェック

 ルドルフが初めて聞く言葉を唱えると、血色の手が地面から何本も生え、クァクァロードを塞ぎこもうとする。

「…………」

 だが、クァクァロードは巨体に見合わぬ速度でそれを回避し鎌を振り下ろす。
 ルドルフが低く大きく後ろに飛び、距離をとる。
 少し間に合わず切り傷をおっている。

「ルドルフ、交代だ」
「……タマか?」
「僕がやる」

 ルドルフがなにか応える前に魔法を撃つ。こいつの注意を僕に引かせるためだ。
 魔法でできた炎は洞窟内を明るく照らし、そのままクァクァロードに被弾する。が、怯むことなく耳障りな音を立てて迫ってきた。

カミューナ!』

 『カミューナ』を鞘から抜き、名を叫ぶ。
 洞窟内にその名が響き渡り、名を呼ばれた剣は緑色の炎を纏わせ、僕の力を増幅させていく。

「……流星剣」

 すれ違いざまに斬る。
 二本の鎌と一本の脚が飛んだ。
 クァクァロードは体勢を崩し、勢いをそのままに壁にぶつかり倒れる。

「……流突!」

 未だふらついているクァクァロードに飛び込み、目と目の間に剣を突き立て強くねじ込む。苦しげにクァクァロードがもがき、暴れるが、放さない。そのつもりだったが、脚が迫ってくるのが横目に映ったため、剣を抜いて一度離れ……あ、しまった! 抜けない!
 こいつ、この土壇場で筋肉を収縮して固めてきた!
 あれを食らっても死ぬことないが、少しの間は動けないだろうな。

─油断─

 ごめん

 すんでのところでルビアスが、クァクァロードにのしかかった。それと同時に僕は剣を手放し、後ろに下がる。
 クァクァロードの方が大きいがルビアスは竜だ。クァクァロードも抵抗するものの、ルビアスは体格差をもろともせずクァクァロードの頭をそのまま踏み潰した。

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