太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

56,洞窟内探検①

「よし、ここならいいだろ」

 ラウルが周囲に人があまりいないことを確認して指笛を吹く。ただ鳴らすのではなく、1つのメロディに合わせているのか?
 高い笛の音は風に乗り、静かな密林の奥地にまで響き渡る。
 でも、一体なんために。

バサバサバサバサ!!

「おっと」
「え?」
「…………?」
「なんだ?」
「ん、その指笛の音色は」
「タマさん知ってるの?」
「「「「「「「?」」」」」」」

 唐突な野鳥の動きに各々が別々の反応を示す。
 僕は意識を集中し、何が起こっているのかを確認する。意識を密林の奥地に伸ばしていくと、そこで異様な光景を目撃した。
 密林の奥地に住んでいたであろう動物たちや魔物たちが移動している。それはまるで、なにか巨大なものから逃げるようだった。
 その巨大なものを見つけるべく更に意識を広げていくと

─アレン─

 ルビアス

ドラゴンがそっちに向かった。私もついていく─

 わかった
 待ってる

 このルビアスからの報告でみんなよりいち早く状況を把握した。
 ラウルの指笛の音色、それが

 広い空に咆哮が轟いた。
 その咆哮は一言で表すなら、雷鳴だ。

「悪い。今のはこいつを呼ぶ合図なんだ」

 ラウルからの軽い説明。それを聞いて確信する。
 案の定、ライカを呼ぶときのサインだったらしい。
 密林の動物たちや魔物たちはライカという強大な龍から逃げていたということだ。
 ほんと、何事かと思った。

ドサッ

 ライカは、音を出すことになんの躊躇もなく着陸した。今は身体に紫電を纏っていない。

スタッ

 そして少し遅れて、ほとんど無音でルビアスが降り立った。その仕草全てが僕の目に神秘的に映る。

─アレン、会いたかった─

 僕もだよ
 ま、まだ1日しか経ってないけどね

─アレンは危ないから私がいないと心配─

 はいはい
 ありがとうな

 にしてもルビアス、また少し大きくなったか?
 もう、鼻先からしっぽの先まで7mはあるだろ。
 そこでふとみんなの方を見てみると。
 アンナとタマ以外が僕とルビアスを怪訝な表情で眺めていた。
 なんかラウルだけ目がキラキラしてないか?

「……おいアレン……お前そいつは」
「えっと、実は僕もラウルと一緒の龍契者でさ」
「なんで言わなかったんだ?」
「え? えーとー」

 なんで? なんでって、ラウルがいたから?
 いやでもあの時は既に知り合ってたし……

─アレン……─

「あー、アレンはちょっと複雑な事情があってな。本当は龍契者って世間に知られたくないんだ。でもお前達は信用できると判断したからな」
「でもよ、昨日の夜に言ってくれりゃ……」
「それこそ無理だろ。お前たちを信用していたとはいえ話してたのがあそこだろ? もしかしたら他のやつに聞かれるかもしれないしな」
「でもあそこは……」
「人の出入りが少ない、か? でも0じゃない、つまり聞かれる可能性も0じゃない」
「…………そうだな」
「お前たちを信用してないわけじゃない。むしろ逆だ。だからそう疑ってやんな」
「……すまないアレン」
「俺も……すまん」
「いや、いいよ。そう思わせたのは僕なんだし」

 咄嗟のタマのフォローでなんとか乗り越えれた。
 ラウル? まだキラキラしてる。
 あ、待って。ライカもキラキラしてる!

「さ! もう入りましょーよ! 待ちくたびれたって!」
「ほんとよね」

 ジャスミンが明るく言ってくれる。
 完全にムードメーカーだね。
 アンナ、お前は助ける努力をしろ。
 そう念じながら顔を見ると、逸らされた……

─────────────────────────

「わかりました」
「ええ、勇者様が言うのですから。ただし、後でその理由をお聞かせください」

 2人の答えにほっとする。
 もし仮に2人が拒絶していたら……

「ありがとう。じゃあ1度外に出よう」

(待ちな!)

 !!!
 なんだよ……!
 言う通りに出てくだろ!

(お前のその剣をよく見せてみな。)

 よく見せる。こうだろうか?
 剣を掲げる。

(なるほどね。これもやはりあの鳥・・・の仕業かねぇ。よし勇者、お前に試練を与えよう。)

「試練だって?」

 声が洞窟内に響き、木霊する。

(ああそうさ。このヘビィ大洞窟の最奥に私はいる。そこまで辿り着けたら合格さ。)

 それだけでいいのか?

(それだけとは言ってくれるねぇ。ああそれだけさ。無事合格したらお前にあるモノを授けよう。今後絶対、お前を助けるモノだ。)

 信じていいのか?
 いや、断った方が怖い。ここは受けよう。

「やるよ」

(いいねぇ、楽しませておくれ?)

「勇者様……」
「行くのですね」

 どうやら今度は2人にも聞こえていたみたいだ。
 身体が震えている。あの気色の悪い声のせいだ。

「ああ。2人とも、巻き込んでしまって済まない」
「そんなこと……!?」
「どうやら試練とやらは中々厳しいものになりそうですね!」

 僕らの目の前に巨大な蟷螂の魔物が現れた。

─────────────────────────

 えーとですね。
 僕達は今、呑気に洞窟の中を歩いています。
 まるで散歩感覚で。
 魔物が出てこないからですね。
 理由はわかってる。
 左右を見る。

 傍らには、偉大なる竜王の忘れ形見たるルビアス。
 その反対側には、【王種】を抜いて最強種とされる龍のライカ。

 うん、いくら威圧を消してたって、そこらの魔物たちは本能でこいつらの危険を察知して自ら離れていってしまうのだ 。
 いい事なのかなんなのか。

 ちなみに龍と竜だが、こう見るとだいぶ違う。
 龍は竜に比べとても爬虫類に近い。そして、属性がある。例えばライカなら雷龍で雷、大聖女の龍は氷園龍で氷。あとアンナからの情報で大魔女の龍は炎獄龍で炎だそうだ。ま、こんな感じで龍は属性があったりする。
 一方の竜、ルビアスはと言うと、別に何かの属性に偏っている感じはしないし、見た目も龍ほど爬虫類じゃない。あと内包するエネルギー量や質も全然違う。鱗ひとつ見ても硬さや美しさまで、どれをとっても竜は龍の上をいく。

 ライカが下位の龍ってこともあるし、他の龍を見た事がないから、もしかしたら違うかもしれないけれど。

「ん?」

 奥から戦闘音が聞こえてきた。
 
「別に誰も規制してないからな。俺たち以外のやつが先に来てるんだろ」

 タマが僕の疑問に気づいて答えてくれた。
 確かに今はお昼すぎ。
 先に入っている人達が数人いてもおかしくはない。
 でも、聞こえてくる音は金属同士のぶつかる高い嫌な音だ。いや、もっと言うなら剣の……

「まさか人同士で争っている?」
「……別に無いわけじゃない……だが見つけたなら止めに行くべきだな」
「珍しくないんだ……」

 なんというか、悲しいな。
 同じ人同士で争うとか。いや、ルイフも似たようなことを言っていたっけ?

─アレン、違う。人同士じゃない─

 え?

─でも、少し押されているみたい。どのみち急いだ方がいい─

 わかった
 にしても、なんでそんなに分かるんだ?

─匂い─

 なるほど

 ともかく急げ。みんなにも状況を簡単に説明し、音のする方……洞窟の奥へと走っていく。

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