太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

49,無口の理由

 目の前にはドラゴンとその相棒であろう龍契者。あの時いた人だ。
 龍は大きいから遠目から見たように暗い黄色。でも今は身体にバチバチと紫電を纏っている。今にも飛びかからんとして身を低く構えるその姿は、まさにハンターを思わせる。
 青年は、どういう訳かあの時のような覇気は感じられない。まああんなものを常に出してたら普通の人はバッタバッタと倒れていくか。
 あれ? だとすると、あの時もおかしくないか?
 黄金色こがねいろの髪で側頭部を刈り上げてあり、瞳は薄水色。体つきも僕なんかよりよっぽど逞しい。
 人族か……だからって弱いとは限らないけど。
 そしてその仲間達?は…………割愛!!
 纏めるとローブ羽織ってる。以上!
 雑だって?
 逆に聞きたい? 7人も事細かく。
 あ、龍の背に乗ってる人合わせると8人か。

「なんだ? お前ら」

 アンナを担いだ龍契者の青年が尋ねてくる。
 どうしよう……逆に聞きたい。

「俺たちはその担いでる女の仲間なんだが、こっちもどういう状況かよく分かってないんだ。何があったか聞かせてくれないか?」

 猫優秀。僕無能。
 わあ、なんて悲しい事実。
 いや、逆に考えるんだ…タマが優秀すぎるんだよ!

「この危ねぇ嬢ちゃんの仲間か」

 危ない……危ない?
 いや、確かに危ないか。
 いい歳こいてまだ子どもだし。

「ってもよ。オレもさっき駆けつけたところなんだよ。まあ気絶させたのはオレだが」

 おい! 何ヘラヘラ笑ってんだ!

 ……声を出せ? そんなことできると思うか?
 相手はあの強……まぁそこそこの強さのアンナを伸したやつだぞ! 下手にケンカ売れるか!
 アンナを助けるためだからこそ、ここは穏便にだな。

「んで、先にいたこいつらと話し合って今から宿屋へ運んでくつもりだったんだが」

 なんだ? だが?

「だが?」
「いや、悪い。敵意は無さそうだな」
「ああ、そういうことか。こっちも安心したよ。別にアンナを狙ってたわけじゃないんだな」
「おい、そんな簡単に信用していいのかよ?」
「まあな、俺は嘘と真実を見分けるのが得意なんだ」

 ああ、あれね。
 僕が初めて使った魔法だ。魔法だよな?
 それを使ったタマによると、どうやら彼らは別にアンナを襲撃したというわけじゃないらしい。なら何があったのか、と言うところではあるが。

「それで、宿に行くつもりなんだろ? 俺達も詳しく聞きたいし、ついてってもいいよな」
「ああ、お仲間さんなんなら駄目とは言えないな」

 ひとまず移動。
 あ、馬! 冒険者ギルド前に置いてきた!
 でもあそこ人多いしなぁ……

「…………おい」
「ん?」

 振り返ると、なんとそこには2頭の馬の手網を握ったイケメンが!
 お察しの通りルドルフだ。
 え? 追いつくには早くない? しかも馬付きで?

「……こいつらお前らのだろ」
「え、ああ。ありがとう」

 うちのとそっくりだなーなんて思っていたけど、実際うちの馬だったらしい。もとはあの村のだけど。そういえば、返さなくていいよね?

「……今の話だと……そいつがお前たちの仲間か」

 アンナを指さす。
 そうですね。当たりです。

「……俺もお前たちに要件がある……連れてけ」
「悪いがな少年、関係ないやt…」
「…………馬」
「いや、馬を連れてきてくれたことには感謝しているg…」
「…………こいつのことも」

 アンナの方へ向いてた指がそのままスーッと移動して僕の前で止まる。
 へ?

「僕?」
「…………お前が派手なことして騒ぎになってたのを抑えてきた」

 あ、さっきの。

「ありがとうございます!」
「あー、分かったよ」

 どうやったんだろ。そこが気になるな。
 タマもこれを聞いて折れてしまった。

「あんた達も構わないか? 出来れば一緒に済ましたい」
「まあ、オレはべつにいーけどな」
「「「「「「「我々も」」」」」」」

 すごい息ぴったり。
 というか、ルドルフの頼みってなに。
 あ、やっぱなし。聞きたくない。
 また闘えとか言われても困るし。

「ちなみにその宿ってどこだ?」
「「「「「「「目の前の角を曲がったところです」」」」」」」
「ちかっ!」

 みんなで左折する。
 タマ以外はまだ緊張を弛めてはいない。
 僕はルドルフ相手に、ルドルフは……お前はなんだよ。
 青年達は僕ら、そしてお互いに。
 さっきまで全員に赤の他人だったわけだし、普通だろうね。この猫がおかしいだけで!

「……ここに宿なんてあったか?」

 ルドルフが立ち止まり疑問を口にした。が、周りは聞いてない。スタスタと彼の横を通り過ぎる。
 なんかちょっと同情するな。声掛けてやるか。
 
「どうした?」
「…………いや……俺はこのギリュアリュに滞在しているがこんなところに宿屋があるなんて聞いたことが……」
「2人とも、こっちだ」

 無口キャラのはずのルドルフが話していたところで青年から呼ばれた。
 なんとなく、彼が無口になった理由がわかった気がした……少しだけ優しくしてやろうかな。
 なんて思った。

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