太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

41.大魔女の弱点

(誰だよ!)


 いや誰?
 タマとアンナは分かってるっぽいけど、声質……声って言うのかわからないけど、聞こえてくる感じは女性だ。
 おっと、アンナがは?って顔で睨んでる!
 いやでも、知らんもんは知らんよ……


(これは失礼。君がアレン君だな?)
(そうですけど、貴方は?)


 まあ、なんとなく予想はついてるけど


(私はベリア・アルニタク。ま、世間一般には獄炎の大魔女などと呼ばれているな。)


 ほらやっぱり
 まさか本当に本人だとは思わなかったけど
 だって、ねぇ? 一応さっきの村の人が崇めてた大聖女とバチバチやってる人だよ?
 こんな簡単に出てきていいのか!ってなるじゃん


(なんで急に介入してきたんだ。ベリア)


 眉間に皺を寄せてものすごく嫌そうにしてたタマがものすごく嫌そうに訊ねた。


[ん? お前はもしやタマか?]
(ああそうだ。それで?)
[さすが魔法猫だ。ここまで完璧な人化出来るとは! 素晴らしいな! やはりお前を使って色々実験したいな!]
(やめろ! そして質問に答えろ!)


 タマが苛立ちを隠さそうともせずに言う。


 この人、会話が出来ない人なのかな?
 てかそんな凄い人なの?


[っと、そうだった。何故かだったか? いや単純にあの虹炎鳥が気にしている青年のことが気になってな。]
(お前相変わらず嘘つくの下手だな。)
[タマ、少し黙っておけ。燃やすぞ]
(……)


 おーーっと! タマ選手黙ってしまったー!!
 これは獄炎の大魔女ベリア選手のKO勝ちなのか!!?


(じゃあ本当のことはいいから要件を言え)


 このままやられるまいと、ここでタマ選手話題を変える! 悪あがきかー!!
 いや! これは変えているのかー!?


[要件か。ふむ]


 この流れは話すぞ!
 話したところで別に勝ち負けなぞないが!!
 というかタマが話題変えた時点で勝負終わってないか!?


[こちらに構う必要は無い。それだけだな。]
(だろうな。)
[アンナは私のことを信用できていないようだったからこうして私自ら伝えてるのだよ。]
[そ、そんなことは!]


 アンナは焦りつつも取り繕う。


[……まあお前が私のためを思ってくれているのは感謝している。しかし、お前はアレン君と旅をする役目があるのだろう。ならばそちらを優先するべきだ。というか、本当に心配する必要はないな。]
(どういう事ですか?)
[アレン君、別に君はそんなに畏まらなくていいんだぞ。で、どういう事か、か。まあ単純にいえばあれだ。負ける要素がないからだな!]


 やべぇ! 超自信家だよこの人!


[む? 自信家というのも確かだが、事実だぞ?]


 なに! この人も心を読めるってのか!
 しかもこんな遠くから!


─いや、多分直感が鋭いだけの人─


 なんだ


(てことは何か? もうなんとなく連中の頭は検討ついてるってことか?)
[そういうことになるな。]
(ちなみにそいつの名前は?)
[ああ、]


──黒賢者ゼミファだよ。


 やべぇ……知らねえ
 ものすごく重い感じで言われたけど。


[黒賢者ゼミファって……あの黒龍騎士の幹部のですか?]
(そいつを相手に負ける要素がない、か。まあ確かに普通に考えて有り得ないか。)
(……)


 やべぇ……話についてけねぇ
 3人だけで盛り上がってる。
 黒龍騎士って?
 もしやドロフィンさん達が昔言ってた人かな。


(それで、どうするつもりなんだ? 探すのか?)
[いや、わざわざこちらから出向くようなもんでもあるまい。来たらやる。]
(そうか、んじゃ本当に心配なんて必要なさそうだな。)
[ああ。存分に旅を楽しめ!]


 さらばだ! アレン君!─プチッ


 そこで彼女からの念話が途絶えた。
 最初から最後まである意味ですごい強烈なお人だったな。


[やっぱベリア様だわ。]
(ちげえねえな。)


 1人取り残される僕であった。


 ✧✧ウルメリア大陸南~獄炎の塔~✧✧


「やれやれだ」


 ベリアはそう呟きながらソファへと腰を下ろす。朱色の派手なソファだ。
 しかし、見るものが見ればそれがどれだけの価値がある代物かが分かるだろう。
 それは、龍の素材を惜しげも無く使用し、また、神職人と呼ばれる者が数名がかりで数ヶ月かけてやっと完成するまさに国宝級の代物のソファ。
 国宝級のソファ……?と思うかもしれないが、実際それだけの価値がある。
 そもそも龍の素材なんぞ易々と手に入らないし、手に入れたとしても大抵は武具として用いられる。しかもその量はごく少量であり、鱗一枚ですら小さな家が建つくらいの値がつくのだ。
 そして彼女の目の前にある水晶や、彼女の持つグラスなんかもそうだ。
 だが、大陸の4分の1を領土としている彼女ら大陸の支配者たちにとってはそれは当然のことであり、誰も文句を言うことは無い。いや、もし文句を言おうとすれば……


「ベ・リ・ア・さ・ま? もう、何度言ったら分かるんですか! アンナ様が心配なのはわかりますが、ただ見守るだけにするって言ってたじゃありませんか!」
「げっ! サリー!! 違う! これは別に! ただアンナ達がこっちに来るって言うから心配する必要はないと!」


 ただ、相手がベリア・アルニタクであればそれほど悲惨な目には合わないだろう。彼女は良くも悪くも自由であり、適当なのだ。
 そして、彼女の弱点……というか苦手な相手がこのサリーという、見た目20歳を少し過ぎた程度の侍女。


「母親であるあなたがそんな調子だとアンナ様も独り立ちできませんよ!」
「……独り立ちも何も、アンナは私のことを母親と思ってはおらん」
「それはベリア様が研究に没中しているから……なんども忠告しましたし。過去のことを言っても仕方ありませんよ?」
「……そうだな」
「そうですよ、だからアンナ様を外界へ出させたのでしょう?」
「うむ、アンナ……何かあればすぐに駆けつけるからな。くれぐれも気をつけるんだぞ!」
「はぁ……」


 ベリアのもう一つの弱点はアンナである。

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