太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

39.大聖女の目的

 自分という、存在を確立させているエネルギー。
 掴むことは出来ない。
 だけど、これが自分自身だということなら。


「おいおい……まさか本当に?」


 うん。これならいける。
 いや、この感覚覚えている。
 初めてルビアスと一体化したあの時、カーバンクルの治癒を行った時。
 あの時点で実は出来ていたんだ。
 無意識に、きっとあれもルビアスの助けがあったからだろうけど


 村長さん?の中にエネルギーが入っていく。
 ふいに村長さん?の震えがピタリと止まる。


─もう大丈夫─




「ふぅ」
「……出来たのか?」


 タマが恐る恐るという感じで尋ねてきた。


「もちろん!」
「……そうか、成功させるとは思わなかった。俺にもここまでのことは不可能だ」
「え?」
「延命させる適量を与えるってのは出来ないな。それこそ大聖女なら簡単だろうが」
「てことは元々、救うつもりは一切なかったってこと?」
「そうだと言っただろ。その場合、お前の精神的なケアが必要になったかもしれないけどな」


 うへぇ、、このネコなんちゅう野郎だ!
 成功したから良かったものの。


「うぅ…」


 おっと、村長さん?の意識がハッキリしたみたい。


「私を、助けたのですか」
「そうだ。こいつがな、感謝しろよ」
「感謝…? するわけないでしょう。こちらは助けてと一言も言っておりませんし、魔人の仲間に助けられたなど、死んだ方がマシというもの」
「よしアレン、やっぱここで始末しよう」
「……だが、命を救われたというのもまた事実。この借りは、いずれ返すとしましょう」
「どっちだよ」


 村長さん?はフンと鼻で返事をして、僕の目を見る。


「何故、それほどまでに聖気を操るのに長けた方がその女と行動しているのか分かりかねますが、一つ忠告しておきましょう」
「?」
「……甘い。目の前で誰かが死にそうだから、でも助けられそうだから。敵だろうと関係なしに助ける。甘すぎます! 殺しに来た相手に、どこに情をかける必要がありましょうか。そのままでは、いつか痛い目を見ますよ。……それだけです」


 村長さん?はそれだけ言って身を翻して去ろうとする。


 甘い、か。
 そうだろうなと思うけどこいつ一体何様のつもr……やっぱ助けない方が?
 いや


「おい、お前このまま立ち去れると思ってるのか?」
「ギクッ」


 タマの言葉に面白いくらい村長さん?が動揺した。


「ふ、ふふふ、わかりました。何かしら情報をお教えしましょう。それでチャラということに」
「それはいい。もうお前の記憶は見た。そんなことよりだ」
「……本当にそう思いますか?」
「はぁ、どういうことだ?」
「先程ご自身もおっしゃいましたでしょう? 聖術に長けるものは抵抗できる、と。」
「なるほどな。1つ2つの情報だけを隠蔽する力は持っていたか。……分かった。じゃあその情報でチャラにしてやる」
「最近とある若者が龍契者となったようです。その者が今はギリュアリュに滞在しているようなので会うかもしれません」


 ……え?
 それだけ?
 それって僕達に必要な情報なのかな。
 いや、今の情勢を知るためには新しい情報は少しでも多い方がいいのは確かだけど。
 タマも同じことを思ったみたいで村長さん?に質問している。


「それで終わりか?」
「左様でございます」
「その情報、俺たちになにかメリットあるのか?  ……確かに抜き取れなかった情報だったが。本当なんだろうな?」
「では失礼して」
「おい。お前まだ隠していることあるだろ。吐け」
「いいえ」
「吐け」
「……はい」


 タマさんすごぉい。こわぁい。
 いや真面目に。一瞬だけど物凄いオーラが……それこそルイフみたいな


「我々の主、メウス様の目的についてです。」
「目的?」
「はい。これは我々信徒の中でも限られた者にしか聞かされない機密情報です。」


 そんなものを話していいのか?
 いや、聞いてるのはこっちだけど。


「あの方は昔、それこそ本物の聖女でした。悪しき者も善き者も皆平等にお救いになるお方でした。ですが今は……ご存知でしょう? あの方は変わってしまった……あの方には大切な者がいた。レヴィタスドゥヴィ様も勿論そうですが、もっと砕いて言うならば恋人とでも言いましょうか。その者とメウス様のは誰がどう見ても仲睦まじいものでした。」


 このじいさんまるで本当に自分が見てきたかのように話すな。もとは大聖女の近くで働いてたのかな?


「……しかし、事件は起きます。その者が何者かに殺されたのです」


 村長さん?の目から雫がおちる。


「その時のメウス様のことを思うと……ああ、おいたわしや、メウス様……! 未だに犯人は見つかっておらず」
「つまり目的ってのは?」
「ええ、そいつを見つけ出し、復讐すること。そして」
「そして?」
「その者、メウス様の婚約者であった デク・ヒスエス様を生き返らせること」


 死んだ人を生き返らせる?
 そんなこと出来るのか?
 その疑問は僕だけじゃなく


「そんなこと不可能よ!」
「アンナ……」


 今まで黙りこくっていたアンナが痺れを切らして叫んだ。


「いいえ! 不可能ではございませぬ! 聖気を操るものの中で最も優れたあの方ならば!」
「どういうこと?」


 おっと、思わず口から出てしまった。
 ただ聞くだけにしておくつもりが、


「【生の秘術】と呼ばれるものがこの世には存在するのです。その秘術こそ死者を甦らせる力! そしてメウス様はその技術を会得したのです!」
「おー! じゃあもうすぐじゃん! おめでとう!」
「ありがとうございます。と言いたいところですが、ここで問題が」
「ん?」
「デク様の種族が龍人なのです」


 龍人だと問題がある。
 これの理由は何となく分かる。龍人は他者からの魔法や聖術を跳ね返す特別な鱗が着いているからだ。
 龍の特性である龍鱗たけど、龍人だからその特性を引き継いでいる。もちろん、身体能力とか色々もあるけど。
 でも……


「龍人の龍鱗のことか? ただ、それって死んだら普通その効力は発揮しなくなるだろ?」


 タマが僕の疑問を聞いてくれた。
 今日は妙に気が合うね!


「ええ勿論。普通・・はそうですね」
「というと」
「デク様は龍人の更に得意種である煌龍人なのですよ」


 煌龍人……?
 名前は一応知ってるけど、詳しくはよく知らないな。


「恐らく初耳だと思いますが……」


 いや! 聞いたことはあります! というか村にあった本に書いてありました!
 あそこが特別だからだろうな……


「彼らは龍人の中の最上位とされる者たちです。つまり、龍の血をより強く引いています」
「なるほどな、ようやく掴めてきた」


 龍の血を強く引く……つまり、龍の特性も強くなるってことか。


「龍を狩るなんて話は聞かないが、龍の亡骸から武具を作って、その武具が素材にした龍の力を受け継ぐってのはよく聞くな。つまりは」
「ええ、デク様は亡くなった今も龍鱗の効力が衰えていない。つまり【生の秘術】を弾いてしまう。それをどうにかする為の方法を探しておられるのです」
「だが、大聖女の聖術の扱いはそれこそ随一だと聞く。それに氷園龍もいるんだし、それで無理ならもう無理なんじゃないのか?」


 【王種】ならば可能なのかもしれないが……とタマは続けた。

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