太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

転生者 TKH③

(私は今も言ったように、変わった魂を見つけたので見に来てみただけですよ? そこに目的も何もありません。)


 こいつが言っているのは本当なのだろうか?
 いや、そう鵜呑みにしていいものではないな。
 なにせ、こいつは【王種】と言った。
 もしかしたらこれすらも嘘かもしれない。
 いや、その可能性が高いな。
 なにせ、さっきも述べたがこいつからは威圧が感じられないのだ。
 本当に【王種】ならばそんなことないだろう。
 だが、その【王種】の使い魔だったら?
 有り得る。
 そうするとやはり目的があるだろう。
 使い魔が主の命を受けずに自由行動をとるなんて、この世界では聞いたことがない。
 ではその目的はなんなのか。
 そこに戻るわけだ。
 この感じだと答えてくれそうにもない。


(ふむ、尚且つ異能力者ですか。実に興味深い。いや、転生者はそういうものなのですかね……)


 なにやら独り言を呟いている。
 しかし、異能力者だと?
 そんなこと言われたことも無いし聞いたことも無い。
 一体……?


(それで、貴方方はどこの文明の時代からの転生者です?)


「え?」


 転生者、確かに普通に考えるならそうだな。
 だが、俺はこんなマターなんていうエネルギー物質は前世の世界、地球では見たことがない。
 だから俺は、ここが異世界であると認識したわけだ。


「平成……」


 クズヤが声を絞って答える。


(平成……なるほど、そうですか。)


 待て。
 なるほど、そうですか。だって?
 こいつは俺たちの時代を知っている!?
 これもそう思わせているだけか?
 いや、今のはそうじゃない。
 本当にこいつは知っているようだった。
 どういうことだ。


「知っている、のか?」


 確かめなければならない。
 なぜ知っているのかを。
 俺たちの世界と、この世界の関係を。
 俺達の世界が今どうなっているかを。


(もちろん。最古の文明より数番目の文明ですね。そんな古くからの転生者だとは思いませんでした。)


 とんでもない爆弾が飛んできた。


 なんてこった……
 今のこいつの言い方からすると、ここも地球であり、俺達がいた時代はもう既に滅んでいるということだ。
 どうして魔法や聖術なんてものがあるのかは分からない。
 だが、この世界に慣れたとはいえ、まだ未練の残っていた俺とクズヤにその現実は辛かった。


 もう、戻ることは出来ないんだ。
 クラスのみんなで馬鹿やってた頃に。
 家族との会話も出来ない。
 こうなるのだったら、もっと色々とやっておけば良かった。
 もっと会話しとけばよかった良かった。
 ごめん……バカ息子で……


(戻りたい、のですか?)


「当たり前だろ?」


(戻れますよ? 過去に。)


「は?」


(『時の奥義』と呼ばれるものがあります。魔法と聖術を同時行使、かつ、同じ力量をぶつけ合うことで起きる時の歪みを利用する技ですね。それを扱えれば時間旅行などは簡単です。)


 時の奥義……


(ちょうど魔力も聖気も多いのですから、上達すれば可能でしょうね。)


 信じていいのか?
 本当なら今にでも飛びつきたいことだが……


(あぁそれと、【王種】であることは本当ですよ? 先程から疑っていたようなので。私は眷属を持ちません。)


「……!!!」


(別にたいしたことではありません。ちょっと心を覗いただけです。威圧がないのは消しているからですね。)


 同時に、隠していたであろう存在感がほんの一瞬姿を現した。瞬きもできないほどのほんの少しの時間だけだが、俺たちに納得させるには十分過ぎた。


「テツヤ……」
「あぁ、こいつは間違いなく……」


 【王種】
 各大陸に1柱ずつ存在する、世界最強の生物。
 危険度は10であり、討伐は不可能とされている。
 普段は人間への干渉は受けず、することも無い。
 そして、この虹炎鳥 ルイフは【王種】の中で唯一、どこの大陸にも属さない特異種だという。


(私も転生する身なのでお仲間ですね。ではそんなお仲間さん達にその奥義の習得方法をお伝えしますね。)


 ……聞くだけ聞くか


(魔法、聖術両方を最高レベルと言われるところまで扱えるようになってください。以上です。)


「はぁ!?」


 そんだけか?
 そうすれば出来るのか?


(第1段階としてまず、そこまでいってもらわないと。)


 つまり、最低限そこまでいかないと話にすらならないのか。
 だいぶ難易度が高い。


(もっとも、あなたの方はすぐに習得しそうですがね。)


「俺?」


 何故だ?


(あなた達にはそれぞれ異能力があります。今のところ目立っていませんが、使い方や存在を知らなかったためでしょう。)


「異能力」


(そして、あなたの異能力は『超記憶能力』ですね。1度見たものをほぼ完璧に覚えられたことが何回がありますね? それを駆使すれば相手の使う魔法などをその場で覚えてしまえるでしょうね。)


 そうだったのか。
 てっきり前世の記憶のおかげかと思っていたが。


「ぼくのは?」


(あなたは恐ろしい能力ですね。『統率王コントロールキング』、種族性別問わず、生物を支配できる能力です。どちらも、異能力の中でも異能力といえるほど、滅多に見ないものですよ。私が最後に確認したのは数世紀前でしょうか。)


 本当に恐ろしいな。
 そんなものを知らずにいたなんて……
 じゃあハルトは?


(彼女のはまだ見ていませんね。まぁ、知らないでいるのも面白そうです。今度自分たちで確認してみてください。)


 本当に心を覗かれてるんだな。
 しかし、この異能力を使えば本当に、前世の世界、過去へ行けることも出来るかもしれない。
 希望が見えてきた。


(では、長居していると流石に貴方方のお父さんが来るかもしれないので。)


 そうだ。
 威圧がないにしても、ここまで気配をあらわにしているのになぜ父上は来ない!?
 それにさっきの一瞬で流石に気づくはずだ!
 父上は四天王の1柱なんだぞ!?


(それでは、精々頑張ってくださいね。)


「あ、待っ!」


 バタンッ


「二人共、大丈夫か!?」


 ルイフが去ったと同時に父上が部屋に入ってきた。


「え、うん。」
「はい。……大丈夫です。」
「そうか、異様な気配を感じてすぐに駆けつけたんだが……もう居ないのか?」


 すぐに駆けつけたのなら、この部屋まで父上はそう時間もかからないはずだ。なにせ、隣の部屋なのだから。
 だが、実際には……
 どうして?


 ふと、時計に目がいった。
 針が、ルイフの来る前から動いていなかった。


「まさか……」
「ゼロ?」
「どうした?」
「父上、『時の奥義』についてご存知ですか?」
「・・・」
「知っているのですね?」


 問い質すと、父上は声を抑えて答えた。


「ゼロ、アルト。今日はもう寝なさい。そして明日の朝、私の元に来なさい。」
「はい。分かりました。」


 その夜はなかなか寝付けなかった。

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