太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

5,儀式④



 前列のウルフル達がリアに向かっていく。


 彼女はそれを躱す。躱す。躱す。
 そのまま、体制の崩れたウルフル達へ正確に斬撃を叩き込む。
 斬る。突く。薙ぎ払う。


 まるで、1種の踊りのような軽やかさでウルフル達を次々に倒していく。


「……すごい。」


 思わず感嘆の声が漏れた。


 しかし、彼女の耳には入らなかったようで、ウルフルを全て狩り終えるまで戦い続けていた。


 僕とスーとマスコルは草むらで、その戦いを最後まで観戦していた。


 リアってあんな動きが出来たんだな。
 強いとは思ってたけど……
 ウルフルの群、全部倒しちゃうとは思わなかったな。
 ん?
 もしや僕、3人の中で1番弱くないか?!
 え?
 というかリア、連携するウルフル達を倒したってことは……
 僕達全員でかかっても勝てないんじゃ……?!


 なんだろう。
 このなんとも言えない感情は……


 とまぁ、ひと段落着いたところでリアの方へと歩いていく。マスコルには草むらの中で待っていてもらうけど。
 リアの方も気づいたようで、こちらに駆け寄ってきた。


「あら? アレンにスー、こんな所にいていいのかしら?」


 あんなに長時間やってたのに、嫌味を言えるほど元気があるのか。
 ただ、嫌味にはならないがな。


「えっとー、僕達はもー終わったんだよー。」
「あぁ、儀式は無事合格したよ。」
「ナンデスッテ……?!」


 リアが硬直した。


 ふふふ、いい気味だな。
 どうだァ!
 見下してたやつに抜かれる気持ちはー!


 ……危ない危ない、どこかの悪役みたいになってしまった。


 ん? 手遅れ?
 うっせー!


「まさか、あなた達に抜かれるなんて……」
「運が良かっただけだよ」
「そうは言ってもねぇ。」


 だいぶ落ち込んでいる。


 正直言って、単なる実力ならリアの方が圧倒的に強いんだけどね。
 そういう面でいったら、確かに僕達は運が良かっただけかもしれないな。
 だからこそ、余計に悔しいのかな?


 それにしても、最近やけに運が良くないか?
 マスコルこと、ヤマコスタルと対峙した時も。
 タフゴープナを捕らえた時も。
 初日で合格を貰えれたことも。
 なにか不吉なことでも起こるのだろうか?


 ……恐いな。
 考えるのはやめよう。


 あっ、でもこれでリアも合格じゃん。


 そう思ってリアに言う。


「でもリア、これでお前も合格じゃんか! 良かったな! おめでとう!」


 はぁ とリアが溜息を吐く。


「はいはい、どうもありがとう。あーあ、昨日この子達を見つけれたら私も初日で合格を貰えたのに……」


 そこ言いぶりから、リアがウルフルの群と故意で争っていたことが分かった。
 ということは、


「リア、もしかして君の作戦って……」
「え? えぇ、ご想像の通り、ウルフルの群を単独で撃破することよ。探す手間はあったけどね」
「あははー」


 次元が違いすぎて乾いた笑いしか出てこない。
 もしあの時、一緒にと誘われてでもしていたら、僕達も同じようにウルフル達を相手していたのだろうか?
 んー、3人なら何とかなるか?
 リアの足を引っ張る未来しか見えない。


 こんな人が近くにいたと思うと、肩身が狭く感じる。
 もっと頑張らねば!!!


 おっと、そんなことより仕事だ仕事!


「スー仕事行くぞ! あっ、リア邪魔して悪かったな。じゃあまた後で!」
「あ、うん! 忘れてた! ごめんリア、じゃー俺達いくねー!」


 日が暮れる前に急がなきゃな!


「ちょっと待ちなさい。」


 おう、呼び止められた。


「ん?」
「仕事って……なにかしら?」
「村長達に任せられたんだが、他の子達の儀式が終わるまで、監督として見張りについて欲しいんだってさ。ちょうど暇だから、引き受けた。」
「へぇー。面白そうじゃない。」


 リアは不敵に笑う。


 まずい、この顔は!


「私もついて行っていいわよね?」


 そうだと思ったぁー。
 有無を言わせないこの圧力!
 ほんとお前凄いわー。
 とはいえ、ここでOKを出すわけにはいかない。
 マスコルとの修行が出来なくなってしまうからだ。


 え?
 なんでかって?


 簡単なこと。
 もしもリアとマスコルが出会ったならば、リアは確実にマスコルへ飛びかかる。
 間違いない!
 絶対説明するよりも先に飛びかかる!
 そしてそんなことになったら、スーだって黙ってない。
 結果、泥沼状態。


 うん、ダメだね!


 だからここでOKを出すわけには……!


「あら? あそこの草むらにいるのって…… !!!」
「あっ!」
「ちょっ!」


 ヤバい!
 まさか、バレるとは思わなかった!
 だって50m近く離れてるんだぞ?
 目を凝らしてならともかく、普通にしていて気づくなんて!


 リアが駆ける。
 必死に追いかけるが、もうマスコルの目前にきている。


 間に合わないか……?!


「!!!」


 おぉ!
 間一髪。
 スーが間に合った。
 リアの振り下ろそうとした短剣を、自前の硬い外骨格で防いだ。


 やっぱスー速い!
 やっぱ僕遅い……


「ちょっとスー! そこをどきなさい!」
「違うんだってぇ! この子は俺の従魔でぇぇぇ!」


 ヤバい。
 スーが押され始めた。


「リア! 本当にそいつはスーの従魔だ! 名前はマスコル! その剣を下ろしてくれ!」
「え? スーの……従魔?!」


 お、鞘に収めてくれた。
 あざます。


「それで? どういうこと?」


 これで説明するの何回目だ?
 流石にだるくなってきた……
 説明しないといけない?
 別にいいんじゃ?
 ダメなの?
 ダメか……
 そうか……


─説明中─


「あんた達、驚きを通り越して呆れるわ」


 褒めてくれたのかな?


「ありがとう!」


 睨まれた……
 え?
 褒めてくれたんじゃないの?!


「ともかく、なるほど。それで私に紹介しなかったのね」


 2人して頷く。


 また睨まれた……
 解せぬ……


「ほんと、私を誰だと思ってるのかしら。そんな獣みたいに飛びかかるわけないでしょ?」


 え?
 それ言う?
 さっきの見たあとで言われてもネ!


 睨まれた……
 これで3回目。
 なんだってんだもう。
 心を読めるやつ多すぎじゃないか?!


「一緒に来てくれれば、単なる魔物だなんて思うわけないじゃない」


 あぁそっかぁ。
 そりゃぁ幼なじみが魔物と一緒にいても動じないんなら察するか……


 いやぁうっかりうっかり。
 ……てへぺろ☆


「それで? 私も連れてってくれるんでしょ?」


「マスコルに危害加えないなら別にいいけど、リアはいいのか? 先に報告に行った方が……?」


「いいのいいの。 別に報告なんていつでも出来るし、あなた達といた方が面白そうだしね!」


「ふーん。」


 まぁリアがいてくれれば僕達だけなら手がつけられないような魔物も何とかなるかもなー。
 そう考えたら来てもらった方がいいな。

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