代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

19投目・突破口

6回裏、5点ビハインド。少年野球は7回までだが、ここでの攻撃で闘志を燃やせる者はわずかであろう。そんな中でも真中は、限りなく限界に近い集中力を滾らせて、ピッチャーに眼差しを送った。

その目には、投手の手で覆われた白球しか見えていなかった。


「(簡単に終わる訳にはいかない……!!)」


一球目、高めの釣り球を大きく振って空振る。


「オイオイ……大口叩いた割にはおもっきし力んでんじゃねぇか」


冷静さを欠いた真中に、宇形が一声かける。


「真中ー!力入りすぎだよー!」

「(そうだ、もっと肩の力抜かなきゃ!)」


そして甘く入ったボールを目に捉える。

「カキン!」


センター前へ返し、シングルヒットを放った。


「バっバカじゃねぇのあいつ、こんなとこで本当に打ってんじゃねぇよ……!そんな事されたら意地でも打たなきゃいけなくなるだろうが……!」


投手の玉木は汗で滑る手をズボンで拭い、気を張り詰めながら打席に立った。
しかし、どの球を振ってもファウルや空振りで追い込まれてしまう。ノーボールツーストライクの絶体絶命のピンチ、玉木は既に集中力を欠いていた。それでもバットを振った。

「カツン」

「(し、しまった、バウンドさせちまった!)」


叩きつけられたボールは宙を舞い、高く浮いていた。

「(ええい、こうなったら一か八かだ!)」


一塁目掛けて走る玉木は、意を決して頭から滑りこむ。


「セーフ!!」

「よっしゃ!内野安打だ!!」


気迫のヘッドスライディングを見せて、チームメイト達に再び火をつけた玉木。このプレイが、干からびた打線に潤いをもたらすことになる。

「俺と先輩のヒットで回して1番からの好打順……!!これは追いつける……いや、逆転できるぞ!!」


連打で突破口を開くことに成功した真中たち。試合展開がまだまだ読めない状況に、逆転の兆しが顔を少しだけ覗かせた。

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