代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

14投目・暗闇の中の光

「あんた……絶対に無理だけはしないでね」

「ありがとうお母さん、全然大丈夫だよ」


そう言ってドアを開けると、眩い光が真中の目を貫いた。鶏の声が聞こえてきたような気がしていた。晴れた日の登校は、非常に清々しく一歩を踏み出せる。だが……


「やっべぇ!遅刻だー!」


その横から走ってくる谷内。


「直紀!お前もか!」

「急ぐぞ谷内ぃ!」

「早苗だからーーー!!!」



「んで、二人とも寝坊でギリギリセーフだったと……」

宇形は少し呆れたように言った。


「真中は最近寝坊しがちだねー」

「いやー昨日練習しすぎて疲れちゃってさぁ……」

「え?左肩は壊れてるんじゃ……?」


息切れしている谷内が割り込んで、昨日の出来事を伝えた。

「中々難しいことするね……利き手じゃない方で投げる自信はあるの?」

「自信があるかはわからないけど好奇心ならあるよ」


宇形は、真中の無謀さを一つの挑戦と捉えて、素直に応援することにした。

「そっか、まだ2年もあるし無理せず鍛えなよ、幸い利き手の経験値も低かったし」

「おう、お前たちの度肝抜いてやるよ!」


真中は自然治癒の期間を利用して、プロの試合や近くの高校野球で自身の目を肥やし、ケガのしにくいフォームを作り上げていった。そして、失敗を重ねながらも右手での生活を身体に染み込ませた。

半年以上が経ち、グローブをはめてゴロを捕る練習を始めた。谷内は徐々に長所が判明してきたり、宇形は守備だけでなく打撃にも磨きをかけていたり、6年生の卒業が近づいてきている季節だった。

宇形と谷内を含めた3人で下校できる日が来たので、久しぶりにだべりながら歩いた。

「真中はしっかり練習できてる?」

「うん、プロの試合みたりして参考にしてるよ」

「いいなー私もみてみたい!」

「今度3人でいこうよ!ね、真中!」


宇形を見て微笑みながら頷いたあとに、谷内が質問を投げかけてきた。


「直紀って右投げなのに何でそんなにも頑張れるの?」

「野球が好きだからだよ」


その言葉を聞いた宇形は、指摘するようにこう言った。


「真中、それも合ってるけど違う理由だよね」

「え?」

「肩を壊してからキャッチャーができるようになったから……でしょ?」

「バレてたかー、そうだよ、皮肉にも念願のキャッチャーができるようになったんだ」

「え、直紀はちゃんと捕球できるの?」

「うん、手を挙げられるぐらいには回復するらしい、不幸中の幸いだね」


今後の意志についても語り、キャッチャーへの希望を抱いていたことを明かした真中。来年度からリトルリーグの公式戦への出場が可能になるため、より一層気合いを入れていた。そんな中、6年生の卒業式が近づいていた。

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