代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

7投目・長を兼ねる者

「君、ショートやってた子だよね?」


優しく肩を叩いたのは、あの「酒瀬川」だった。宇形は驚きを隠せなかった、まるで天地がひっくり返ったような気分で頷き、恐る恐る話を聞いてみることにする。


「走るのに自信があったからホームで刺された時にびっくりしちゃってさ!仲良くなってみたいなって思ったんだよね」

「あれは偶然だよーハハハ…」


蚊帳の外にいる真中に気がついたのか、酒瀬川は手をさしのべるように話しかけた。


「君は確か途中登板のピッチャーの子だよね?」


真中は自信なさげに首を縦に振った。
すると、宇形は元気づけるように続けてこう言った。

「こいつピッチャーなのにバッティングのセンス抜群なんだよ!」


それを聞いた酒瀬川は目を光らせて膝を進めてきた。


「俺と同じじゃん!」

「え、でも君はピッチャーじゃないんじゃ…」

「違うよ、得意なものが二つあるの!」


真中は首を傾げた。


「どういうこと?」

「普段サードやってるけどライトもできるんだよ」


そして真中は次の言葉に胸の鐘を鳴らした。




「同じ二刀流だね!」




この言葉が忘れられないまま帰路を共にした。そして、忘れていたかのように自己紹介を始める三人。

「そういえば名前言ってなかったよね、俺は酒瀬川隆司さかせがわりゅうじ、4年生」


二人は愕然としていた。
同い年であれだけの活躍をする者がいると思っていなかったからだ。しかし、平然を装って汗を流しながら自己紹介をした。


帰宅後、真中はグローブを抱えて練習をしに家を飛び出した。肩の痛みを無視して必死に投げ込み、フォームの修正に励んだ。


「(もっともっと強くなって5年生を見返してやる!調子に乗っているだなんて二度と言わせないように!)」


「…ッ!!」


しかし投げ込めば投げ込むほど肩は悲鳴をあげ、身体に鞭を打つばかりのはずだったが、真中はその痛みを越えるべき壁として捉えて、肩を蝕む棘をも相手にしなかった。

彼は投げ込むだけでは物足りず、固く握りしめたバットを振り始めた。
たった一人でチームの勝利をもぎ取れるような選手を目指したのである。


「あっそういえば!」


そして思い出したかのように家へ駆け出し、教科書やノートとにらめっこをした。


そう、翌日は授業でテストが待っていたのだ。

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