代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

5投目・不穏な初陣

「ま、真中くん、君はまだ入ったばかりだけどしっかり投げられるのかい?」

「やる気がない人が投げるよりはいいと思います」

「確かにそうだな、よし、肩を痛めないように抑えてこいよ!」


初めてのマウンドに立つ真中、緊迫感のあるバッターとの1対1にワクワクしていたが、それと同時に緊張が喉元まで込み上げてきた。

入団したばかりの真中を横目に、ベンチの上級生たちは騒然としていた。



「キャッチャーの三鷹だ、よろしく頼む」

「よろしくお願いします」

「俺が構えたところにだけ投げてくれ」

「わかりました、精一杯を尽くして投げます」


ノーアウト1塁、ダブルプレイを狙いたい場面での登板だったので、丁寧に低めを攻める配球で勝負をした。

そして気になる右打者への1球目、まずは外角低めを狙ったが少し外れてボールとなる。


その後は、堅実に外角を突いてバッターを追い込む。

決め球に内角低めのクロスファイヤーを試みたが、大きく力んでワンバウンドしてしまった。
再度同じコースを狙い続けたが、ファウルボールで粘られてしまい、低め攻めを感知されないように高めを要求された。



真中は、その要求に応えられるように大きく腕を振り抜いたが手を滑らせてしまい、すっぽ抜けた球が宇形の頭上を綺麗に越えるヒットにされる。

経験不足から招かれるピンチを背負って、1番打者という好打順から3人を抑えなければなくなった。


ノーアウト1,2塁、絶対に安打を浴びてはいけないココ一番の展開。
相手は本日2安打と好調で、この地区では「安打製造機」と有名な「酒瀬川さかせがわ」との対戦が繰り広げられる。


強敵との駆け引きだったので、キャッチャーの三鷹は警戒して投げさせるように心がけた。

しかし、際どい所が突けても優に当てられて勝負の延長を強いられることとなる。


1ボール2ストライク、投手にとって悪くはないカウントだったので、ボール球で空振りを誘うことにした。

高めを振らせるように、手が出しやすい範囲への意識をした投球だった。




「…ーーッ!?」



キャッチャーミット目掛けて放ったボールは、大きく逸れて三鷹の後方まで飛んでいき、ランナーに進塁されてしまう。



真中は肩に違和感を覚えた。



気のせいかと思って肩を回してみるが、微かに痺れのようなものが神経を切りつけていた。

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